「イッチャンさ、名前ちゃんと上手くいってないの?」

 田中のその一言に驚いて俯いていた顔をあげる。

 西浦に負けてタイさんが引退するってなったあの日、涙が止まんなかった。もっと上手くなりたいと思った。部員が集まんなくて大会にも出れなくて3年生1人だけで大変だっただろうに、文句ひとつ言わず一生懸命部を守ってきたタイさんの最後の試合を、コールドという結果で終わらせてしまったのが悔しくて不甲斐なかった。
 それは他のやつらも同じだったみたいで県内の野球部としてはかなりゆるかったうちの野球部の練習量は普通の野球部と遜色ないくらいに増えた。全員で話し合って決めたことだ。

 確かにそうなってから、前みたいに出かけたりとかは出来てないけど。でもだからといって別れたわけでも喧嘩してるわけでもないのに、なんでそんなこと聞くんだろ。周りからはそんな風に見えんのかな。

「いやさ、俺名前ちゃんとクラス一緒じゃん。それで名前ちゃんが友達とそういう話してんの聞いちゃったんだよね」

 別れたいって言ってたわけじゃねーよ?と田中が慌てて付け足す。隣で聞いてた沢も「ほら、イッチャン達結構仲いいし、よく一緒に帰ったりしてっから大丈夫だって」と励ましてくれる。けどなんつーか、それはもう夏前の話で。

「ここ一ヶ月くらいまともに喋ってねーかも」

 田中も沢も何もいい返してこなかった。けどこの沈黙が、事態の重さを物語ってるような気がした。でも、ならどうしろってんだよ。今までと違って練習は夜まであるし、危ないからそれまで名前を待たせるわけにはいかねーし。

 世の中には部活をちゃんとやりながら、彼女と付き合ってるやつだって沢山いる。こういう時どうやって上手くやってんだろ。どうすりゃいいんだよ。あー、 ダメだ。何もいい解決策が出てこない。でもこのままじゃダメだってのは分かってんだよ。

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