「別れなよそんなやつ」

 教室でお弁当を食べてる時、友達が「最近市原とどうなの?」と聞いてきた。向こうの部活が忙しくて、連絡はとるけどここ一ヶ月くらい顔を見て話してないかもと答えたら、友達は考える間もなくそう言った。こんなに難しい選択をきっぱり決められるなんて、潔いというか迷いがないというか。やっぱりモテる子は違うなぁ。私はきっとそうはなれないよ。

「ていうかさ、夏前までは結構一緒に帰ったり出かけたりしてたじゃん。なんでいきなりそうなったわけ?」

 なんでと聞かれれば、豊くんの部活が忙しくなったから。ということになるんだと思う。今年の夏大で、豊くんの野球部は3回戦でコールド負けした。それでも去年は部員が足りなくて出場すら出来なかったうちの野球部がここまで行けたこと自体すごいことだ。でも、たとえそれが例年と比べてどれほど価値のある結果だったとしても、豊くんにとってみれば"負けは負け"なのだ。

「コールドされて当然の力差だったんだけどさ、いつもみたいに"当然だろ"って割り切れなくて、すげぇ悔しかった。もっとちゃんと野球やりてえって思った」

「あいつらと話し合って、これからもっと練習増やさねーとだめだってことになった。だから今までみたいに時間とってやれなくなるかもしんない。けど俺、名前とも別れたくねーんだ。勝手だってことは分かってんだけど、これからも隣で応援してほしい」

 その日の帰り道、いつものように歩きながら豊くんが言ったことは今でもよく覚えている。いつもどこか少し冷めていて良くも悪くも現実的だった豊くんが、頑張りたいと思えることに出会えたなら素直に応援したいなと思った。これまでみたいにいかなくなるのは不安だったけど、別れたくないと言ってくれたことが嬉しかった。だから頷いた。

「うん、それはいいと思うし、立派なことだけど。なんか名前だけ我慢してない?心から今のまんまでいいって言えんの?」

 何も言い返せなくて曖昧な笑みを浮かべることしかできなかった。豊くんが嫌いになったってわけじゃない。今でもちゃんと好きだ。一生懸命やりたいと思えた野球を応援してあげたいって気持ちもある。ちゃんとそう思ってるのに、今心から幸せかと聞かれたら頷ける自信がないのは何でだろう。

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