2009.Jun.17

宮田 直正

例えば制服が私服になって、学校内に見慣れない顔が増えて、女子がいるのが当たり前になって。大学生になって最初は戸惑っていた環境の変化もある程度の月日が経てば日常に馴染んでしまうものだと思う。

「直正」

声をかけてきたのは匠だった。匠とは学部が違うけど変わらず仲良くしてる。それは他の野球部のやつらも同じだ。大学生になったとはいえ高校の同級生はほぼ同じ大学に進学してるのだから、友人関係が特段大きく変わるわけがない。

他愛もない話をしながら食堂までのびる長い廊下を歩く。途中匠が「名前ちゃん元気?」「どこまでいった?」と大学に入ってすぐに出来た彼女のことをしつこく聞いてくる。最近忙しくて放置してたら喧嘩になってこのまま別れるかもしれない、なんて付き合い始めたときに「お似合いだ」と自分のことのように喜んでくれた匠には口が裂けても言えなかった。

高校のときは彼女が出来たら毎日がもっと明るく幸せなものになると思ってたし、もっと彼女に対して優しい気持ちで接することが出来ると思ってた。
嫌いになったわけじゃない。今でもちゃんと好きだと思ってる。お互いにそう思ってるから付き合ってるのに、どうして上手く伝わらないんだろう。

「直正にとって私って何?」

大切な、彼女に決まってんじゃん。こう言ってやればよかったのに。どうしてあの時すんなりと出てこなかったんだろう。


食堂の一番端のテーブルに座っていた元チームメイト達と合流して他愛もない話をしながら特段不味くも美味しくもない味噌ラーメンをすすっていると、なんとなく呂佳さんが作ってくれたラーメンの味を思い出した。

あのラーメンは何か特別な材料を使ってるわけではない、少しピリ辛というだけの普通の味噌ラーメンだったけど、それでもすごく美味かった。腹が減っていたときに食べたからそう思うんだろうか。それとも合宿所で夏大前にみんなで食ったから余計にそう思うんだろうか。

話題はいつのまにかサークルの話になっていた。俺たち元野球部のなかで大学の硬式野球部に入ったのは俺と誠と善斗だけだった。「公とヤノジュンは?準硬はどうよ」と聞いたら「そこまで忙しくないし丁度いーよ。俺らは勉強しなきゃなんねーし」と返ってきた。

6回戦で日農大に負けてそりゃもちろん悔しかった。甲子園に行けないんだと思うと涙が止まらなかった。それでも思っていたよりもすぐに大学野球に切り替えられたのは、大学に進んで多少メンバーの入れ替わりがあってもまた高校のときと同じようにみんなと野球が出来ると思ったからだ。けどそんな勘違いをしていたのはどうやら俺だけだったみたいだ。

「いつかさ、またみんなで野球しよーぜ」

岳史にも声かけてさ。
大学に入ったら野球辞めて彼女作ると豪語していた、普段から底抜けに明るい匠の声は賑やかな食堂の喧騒にかき消されてすぐに消えてしまった。

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