2009.Aug.08

矢野 淳

俺がしてきたことって何だったんだろう。

高校野球を、岳史を思い返すたび俺は永遠に答えが出そうにないこの自問自答を繰り返してる。

「塁上でまた危険なプレーしたら、その場でお前降ろすよう監督に言うぞ」

西浦との試合中、岳史にとっては高校最後の試合となったあの日。岳史にそう言ったのは責任感からだった。

故意に怪我をさせるなんてあってはならないし、そんな勝ち方で勝っても嬉しくないとも思った。そりゃ甲子園には行きたいけど、それはどこの高校球児もそれこそ岳史が怪我をさせてきたやつもみんな同じだ。甲子園に行く為なら何してもいいってことには決してならない。

本来は熱くて仲間思いで練習にも人一倍熱心だった岳史がこのままあんなこと続けてたら、きっとあいつは野球を観るたびに思い出しては一生後悔するのだろう。そう思うと口にせずにはいられなかった。

だけど結果はどうだ。岳史のことを思ってしたつもりの行動が知らず知らずのうちに岳史を追い詰めてた。岳史はきっと自分でもいけないことだと分かっていた。自分がしてきたことへの後悔でいっぱいになってるところに俺が追いうちをかけてしまった。

俺が何も言わなくともあいつは高校で野球を辞める気だったのかもしれない。けどもしかしたら、あの時の言葉が岳史にそう決意させたのかもしれない。公に岳史のことを話した時、忠告しようとした俺にあいつは辞めとけと言った。今思えば公が正しかった。公の意見に従っておけばよかった。あの時"岳史のために"と思ってしたつもりの行動は所詮俺のひとりよがりで、岳史に一生癒えることのない傷をつけてしまった。

副キャプテンに選ばれてからずっと、俺がしっかりしなくてはいけないと思っていた。誠はもちろん頼りになるけど優しすぎるところもあるし、注意とか厳しくするのは得意じゃねーから。その分俺が補わなくてはいけないと思ってた。そうすることが俺の役目だと思ってたし、実際うまくいってると思ってた。けどそう思ってたのは俺だけだったみたいだ。

俺のしてきたことって何だったんだろう。
こんな思いを抱えて毎日生きてる。


「テストどうだった?」

名前の声で我に帰る。5年も付き合っていると所謂デートと呼ばれるようなことは大体し尽くしてしまった。それは夏休みに入っても相変わらずで、特に出かける当てもなく俺の部屋で映画を観ることにしたけどお互いほとんど観ていなかった。

「別に。普通」

テストで忙しくて会うのは久しぶりだというのにひどく無愛想な返答になってしまったことを少し後悔した。いつだって俺が発する言葉は自分の意図するよりもずっと尖っていて、必要以上に相手を傷付ける。けど口から出てしまったものは取り消しようがない。後悔しても遅いのだ。

「何かあった?」
「何も」
「そっか」

それきり名前は何も聞いてこなかった。それでも俺が考え込んでるのを察したのか、そっと手を握ってくる。

「淳くんいっつも一人でなんでも抱えこんじゃうんだもん。たまには頼ってほしいな」

名前は野球に詳しくない。まして俺たち野球部にあったことなんて全く知らない。知らなくていい。打ち明けることで名前が苦しむくらいなら、一人で抱えるべきだ。ずっとそう思ってきたのに、名前はいつもどんな俺でも全て受け止めようとしてくれるからそれに少し甘えてしまいたくなる。

いつだって頼られるようなかっこいい男でいたかった。彼女をどんなことからも守ってやれるような、強い男でいたかった。こんな弱い姿なんか見せたくなかった。けど実際はそんなにかっこよくも強くもなれなくて、自分の正義感だけで突っ走っては誰かを傷つけて、自分がしてきたことが本当に相手のためになっていたのか、分からなくて立ち止まる時もある。

だけどこんな俺でも名前がそばにいて支えてくれるから、まるで自分がしてきたこと全てが独りよがりだったわけじゃないって言ってくれてるような気がして嬉しくて、一人で何でも背負えない自分自身が少し情けなくて、それを誤魔化すように抱きしめてみた。情けないけど、どうしようもなくかっこ悪いけど、俺は幸せだ。

なあ、岳史。
もっと早く気付いてたやれたら。もっと違う言葉、タイミングで指摘していたら。お前は野球を辞めるまで思い詰めず済んだのかな。今でも何が正解だったのか分かんねぇよ。

お前が一番しんどかった時に更に追い詰めるような言葉で傷付けた俺がこんなこと願う資格なんてないのかもしれない。
それでも、どんなに落ち込んで情けなくなったっていつも名前が俺のそばで支えてくれるように、傷付いたお前を癒してくれる誰かがお前のそばにいてくれたらいい。俺がこうして幸せを感じているように、お前もどこかでちゃんと"幸せ"って感情を噛み締めていて欲しい。そう、願ってる。

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