先輩達はこれから父母会の予約した店で焼肉らしい。グラウンドの整備を終えた1・2年生も次々切り上げて帰っていく。

「準太、そろそろあがるぞ」
「悪い、俺もう少し残ってくわ」
「そうか、ほどほどにな」
「準さんまた明日ねえ」
「おつかれっした!」

そういって帰宅するタケと利央と迅を見送り、投球練習をするためブルペンに入る。普段だったら絶対監督に怒られるけど、今日は先輩達と出かけている。その間にサボった分少しでも多く練習してしまいたかった。

ブルペンのネットにむかって黙々とボールを投げる。もう負けたくない、後悔したくない。先輩達が置いていった後悔、全部背負って投げる責任が俺にはある。

「…高瀬くん?」

突然澄んだ声で名前を呼ばれてぎくりとする。デジャヴだ。そこにいたのはやっぱり名字だった。

「なんでいんの?」
「部室の掃除してたら遅くなっちゃって」
「あっそ」

視線を名字からネットに戻してまた黙々と投げる。なんだよ、早く帰れよ。一人にしてくれよ。

「高瀬くん自主練してるの?」
「だったら?」
「だめだよ!今日朝から練習してるし試合でも投げてるでしょ?」

忠告を無視して投げ続ける俺を見た名字がアイシングを持ってブルペンに入ってくるので、一度投げるのを辞め名字を睨むようにみる。

「今日はもうやめよう?明日も練習あるし」
「うるせぇな。俺はもう負けたくないんだよ、あんな思いもう二度としたくねぇんだよ!お前になにがわかんの?上っ面だけで心配されてもむかつくんだけど」

そう言ってアイシングを渡そうと近付いてくる名字の手を振り払った。軽い力でやったつもりだったのにそれは名字を転ばせるのには十分だったらしい。どさっという音がして振り向くと名字が地面に座り込んでいた。膝がすりむけてる。

その姿をみて頭が真っ白になった。血の気が引くって多分ああいうことを言うんだと思う。女に怪我させちまった。きっと今日じゃなきゃこんなことしないですんだのに。八つ当たりとかかっこ悪い。

「気に障ること言ってごめんね、でも私高瀬くんのことが心配なの」

「だから一人で全部抱えようとしないで」

そんな簡単に言うなよ、とか言い返してやりたかったのに、まっすぐ俺を見据える名字の大きな瞳をまともにみることができなくて何も言えなかった。名字はなんでこんなに俺のことを心配してくれるんだろう。俺はこんなにも自分のことばかりなのに。


     

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