昼間まで快晴だった空は、いつのまにかどんよりとした曇り空へと変わっていた。そういえば夜にかけて雨が降るかもしれないと天気予報で言っていた気がする。

雨は嫌いだ。中練はしんどいし、なんとなく関節が痛いような気がするし、あの試合のことを思い出すし。って俺はいつまで引きずってんだか。同じように試合に出てたタケや迅はとっくに吹っ切れてんのに。

「よお、しごきに来てやったぞ」
「山ノ井スペシャルを受けて見よ!」

ブルペンで投げていると山さんと本さんがグラウンドに入ってくるのが見えた。相変わらず緊張感のない先輩だ。というか山ノ井スペシャルってなんだ?初めて聞いた。「練習の邪魔すんなよクソタコ」という監督の声が聞こえる。

「準太、利央元気でやってる?」
「ええまあ」
「日曜の引退式は覚悟しとけよ」
「ホームラン打っちゃうかもよ」
「…期待してるっす」
「あー!馬鹿にしてんな!いいよ、ねえ本やん?」
「ねえ山ちゃん?バッセン行って特訓してる俺らの実力を思い知るがいい」

こんなふうに先輩達と他愛もない話をしていると、自分が上手く笑えているか不安になる。夏大前は山さんと本さんの冗談に、心の底から笑えていた気がするしもっと上手い言葉を返していた気がする。それが今はどうだ。夏大前と同じように笑おうとするたび、俺の口角はまるで錆び付いた機械のようにぎこちない動きを繰り返すだけだ。

会話の途中、山さんが何かを見つけたようにものすごい速さでベンチの方へと走っていった。本さんと利央の会話を聞きながら目で追うと名字と山さんが話しているのが見えた。

小柄な名字にはあきらかに重いであろうボールの入ったカゴを持ってあげようとする山さんと「大丈夫です」と断ろうとする名字。無理しないで頼ればいいのに、山さんに頼めばいいのに。

山さんは名字のことをまるで妹のように可愛がっていた。山さんだけではない。本さんも慎吾さんも和さんも雅さんもみんな。それは夏大が終わったあとも何も変わらない。

「お前はいいよな」

そう悪態をついてやりたくなった。俺は先輩達が明るく声をかけてくれたって、冗談を言ってくれたって大会前とまったく同じように笑い合うことはきっともう二度とできない。

距離が出来てしまった先輩達と俺、以前となに一つ変わらない名字と先輩達。なんでこんなに違うんだろう。どうして上手くいかないんだろう。

結局カゴは山さんが持ってあげていた。さっきまでそうなることを俺も望んでたはずなのに、すごく腹が立つのはなぜだろう。俺は何に苛立っているんだろう。ああ頭が痛い。これもきっと降り出した雨のせいだ。


     

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