「高瀬くん」

昼休み、友人としゃべっていると鈴を転がしたような澄んだ声で名前を呼ばれてぎくりとした。声の主が誰かなんてことは分かりきっていたので視線を合わせることもせず「何?」とだけ返した声がひどく無愛想で自分でも驚いた。

「いきなりごめんね?毅彦くん呼んでたよ。1・2年生みんな部室集合だって」
「ああ、わり。今行くわ」

名字に見惚れてる友人達をあとに一緒に教室を出る。同じクラス、同じ部活なのに俺たちの間に会話はない。

正直、俺は名字のことが苦手だ。別に何かがあったわけではない。嫌なことをされたわけでもない。名字に何か問題があるとかそういうわけでもない。用事があれば会話をするし、先輩たちと一緒にメシ食いにいったこともある。

優しくて裏表がなくて気が利いて素直で。あと可愛くて。自分のことより他人のことを考えて行動するようなよく出来た人間で。男女問わず先輩にも同級生にも後輩にも好かれていて、全てが恐ろしいくらい完璧で。すべてが俺とは正反対だ。
名字は普通の人間がみたら嫌う理由がない。まさに理想の女だし、苦手だと思う自分の方がおかしいってことは分かってる。けど誰に対しても平等に向けられる、彼女のまるで聖女のような優しさに俺は一種の不気味さを感じてしまうのだ。中学から同じ部活にいるからそれが作られたものでないことは知っているのに。

「あ、準さん!遅いよ」
「名前、ありがとな」

部室に入ると真っ先に利央とタケが声をかけてくる。「ううん、大丈夫だよ」と笑顔でタケに返す名字を横目に利央の隣に腰を下ろして、後輩マネージャー達の輪のなかに戻っていく名字を目で追っていたらタケに「すごい険しい顔になってんぞ」と言われてしまった。


     

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