Novel - Vida | Kerry

さよならアメリカ



部活を引退したら、その結果がどうであれ進路を決めなくてはいけないことは最初からわかっていた。けどその時がこんなに早く来るなんて正直思ってもみなかった。

「慎吾大学どうするの?」

何て言ったらいいのか分からなくて言葉につまる。俺が高校球児として生きていける時間は限られているのに、どこかであんな日々がこれからもずっと続いていくような気がしていた。
そんな気持ちでいたから進路のことは、考えてるフリをして実はそんなに深く考えないようにしてて、ずっと志望校の決め手にしようと思っていた野球だって、大学に入ってまで続けたいのかどうかわからなくなって正直決めあぐねている。そう言ったら呆れるだろうか。

「前言ってた東京の大学受ける」
「美丞?」
「美丞じゃなくて。あそこ俺の頭じゃ厳しいし」
「でも野球続けるんじゃないの?」
「ああ、でももういい」

とりあえずそれっぽいことを口にしてみたら急に実感がわいた。野球を辞めるというのは引退してからずっと考えていたことだ。3年間積み上げてきたものがたった一試合で崩れ落ちたあの日から、俺は野球中心の生活を続けていくのが怖くなってしまった。

「後悔しない生き方をしろよ」

引退式での監督の言葉を思い出した。その言葉を隣で聞いていた和巳はなんだかんだ美丞への推薦が決まった。そのままきっと野球を続けるのだろう。部で一番引きずってるようにみえたあいつも、なんだかんだ前に進んでる。

山ちゃんは進学ではなく就職することを選んだ。本やんやマサやん達も志望校はとっくに決まってる。3年の、この時期になって志望校を迷ってるのは俺だけだ。

大学生活を上手く思い描けないくらい、それなりに好きだったはずの野球への情熱が冷めてしまうくらい、引きずってんのも。ここから進みたくないって思ってんのも。こんなに未練がましくあの試合のこと思い出してんのも。俺だけ立ち止まったままだ。

「慎吾」

突然名前を呼ばれたと思ったら、急に抱きしめられた。男のそれとは違う、細くて華奢な体で精一杯俺を抱きしめてくるから、いつもは頼りないとか、俺がしっかりして守ってやんなきゃって思うのに、今日は少し甘えてしまいたくなった。

「慎吾にとって、あのチームが大事だったから、新しいチームじゃなくてあのチームでまた野球がしたいってことなんだよね」

彼女に言われてはっとした。そうだ俺は、俺がしたいと思っているのは、大学で新たなチームで野球を続けることじゃなく、もう一度あのチームで野球がしたいということだった。だから大学野球にあまり興味が持てなかった。

なんだか肩の力が抜けていくのがわかって大きく息を吐く。背中に回された小さな手が、まるであやすように背中を撫でる。

「後悔しない生き方をしろよ」

引退式で監督はそう言った。けどそんな生き方俺には出来ない。今まで選んできた選択が正しかったのかなんて分からないし、なんであの時と後悔することなんて腐るほどある。

それでもその時隣に名前がいてくれたら、何も怖くない気がした。こんなにグジグジ悩んで情けない俺でも好きでいてくれて、俺を支えようとしてくれる名前が愛おしいと思った。だから、もしも俺でいいならそばにいさせてよ。

150210 島崎さんは彼女から呼び捨てで呼ばれるのがしっくりくる気がします。


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