Novel - Vida | Kerry

スーパースター



取り立てて美人でもなければ、頭がいいわけでも才能があるわけでもない私は、なるべく普通の人生というレールから外れないことが幸せへの近道だと思ってた。

普通の高校に入って普通に勉強して、普通の大学に入って普通の会社に就職して普通の生活を送りながら、普通の人と結婚する。私みたいな凡人はそんな人生を送るべきなんだろうし、現に今のところ順調に普通の人生を歩んでる。

それでも今も思い出してしまう。高校生の頃好きだった彼のことを。私とは違う、宝石のような才能を持っていた彼のことを。

田島くんと私は1年生の頃同じクラスだった。うちの野球部は私たちの入学した年に創部されて、田島くん達は先輩もいないグラウンドも整備されてない状態から毎日頑張って、3年生の夏に甲子園出場を果たした。

その田島くんが今日、ドラフト会議で指名されるかもしれない。スポーツニュースでは1位指名候補だと言っていた。高校卒業後も野球頑張ってきたんだろうなあ。私には絶対真似できない。

「あれ、野球興味あったっけ?」
「んー、普段見ないけど、今日高校のときのクラスメイトが指名されるかもしれなくて」
「へえ、すごいじゃん。仲良かったの?」
「ううん、ただみんな応援してるからつい気になっちゃって」

そっか、指名されるといいね。なんて言ってテレビの前に座る私に笑いかけてくれる彼とは大学のゼミで知り合った。もうすぐ付き合って2年になる。優しくて穏やかな人だ。彼といると安心するし居心地がいい。そんな彼のこと、大切に思ってるくせに少し後ろめたくてまともに顔を見れなかった。ごめん、私いま嘘ついた。田島くんはただのクラスメイトじゃない。

一生懸命野球に打ち込む田島くんの姿をかっこいいと思ってた。1年生の頃からずっと好きだった。白球を追うその姿が、凛とした眼差しが好きで、いつも遠くから目で追っていたくせに、いざ彼を目の前にすると眩しくて思わず目をそらしたくなってしまう。好きだけど、憧れるけど決して手の届かない、私とは違う世界の人だなあ。そう思いながらも彼から目を離せなかった。

2年生の秋に突然呼び出されて受けた告白を断ってしまったのは、部活や野球に打ち込む田島くんを支える「素敵な彼女」になれる自信がなかったから。恋人同士になってしまえばきっと、付き合ってるんだからこうして欲しいとか、もっと一緒にいて欲しいとか、そういうわがままを抱いてしまう浅ましい自分が嫌だったから。

田島くんにとっての野球がどれほど大切かなんて分かりきっていた。それでも田島くんは優しいから、きっと私のわがままも無下には出来ないだろう。でもそれじゃだめだと思った。田島くんはもっと彼に相応しい素敵な人と一緒にいるべきだと思った。

田島悠一郎・内野手

田島くんの名前が呼ばれて少し安心した。プロになりたいってずっと言ってたのに強豪校じゃなく西浦にきた田島くん、何事にも一生懸命だった田島くん、たった一言で周囲の人の気持ちまで明るくしてしまう田島くん。甲子園に行くという夢を本当に叶えてしまった田島くん。

手の届かない世界に行ってしまう寂しさを感じるなんておこがましい。平凡な人生を送りたいなんてつまらない理由で、田島くんにも自分の気持ちにも嘘をついた私に「あの時告白を受け入れていれば」なんて後悔する資格はない。
彼はこれからもずっとスーパースターとして輝かしい人生を、私はごく普通のありふれた人生を、それぞれ歩んでいくのだから。


141129 自分に自信がなくて、自分の人生をこんなもんだと諦めてしまっている女の子をテーマに書いてみました。


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