Novel - Vida | Kerry

いつかまなざしの海



パチリ、また目があった。
恥ずかしいし少し気まずいからほんとは逸らしてしまいたいのに、体中を電気が走ったみたいに動かなくて立ち止まったまましばらく見つめ合う。

「名前、早く行こうよ〜」と私を呼ぶ声で我に返り、あわてて友達の後を追いかけた。

最近1組の栄口くんとよく目が合う。栄口くんとは話したこともなければ同じクラスでもない。けど彼が野球部の副主将でセカンドだということは知っている。なぜなら新設で1年生しかいないにも関わらずベスト16という結果を残した野球部は、校内ではちょっとした有名人だったからだ。

けれど栄口くんは私の名前すら知らないと思う。接点もなくて、しいて言うなら彼が西広くんと沖くんと話していたときに目が合って軽く会釈をされたくらいだ。

ただよく目が合う、野球部の男の子。私のなかで栄口くんってきっとそれくらいの存在なのに。どうして見かけるたびに、目が合うたびにこんなにどきどきするのだろう。

▽▽▽

最近よく目が合う女の子がいる。3組の名字さん。西広の隣の席。沖と同じ中学で華道部。友達思いの優しい子。これ全部西広と沖から聞いたことなんだけどさ。

はじめて名字さんに会ったのは野球部の用事で3組に行ったとき。西広の隣の席の彼女と目が合った瞬間、胸のあたりがずきりとした。一目惚れってやつだ。

自分が一目惚れするなんて思ってもみなかった。いくら可愛くたって性格だってよく知らない、話したこともない女の子を好きになるなんて。

それでも廊下で見かけるたび、気がつけば名字さんのことを目で追ってしまう自分がいた。彼女はきっと俺がこんなふうに思ってることなんて知らないだろうけど。

今すぐにとは言わない。少しずつ距離を縮めていって、いつか名字さんと手を繋いで歩いていけたら、どれだけいいだろう。

▽▽▽

「あの、栄口くん」
「え、名字さん」

放課後、グラウンドに向かおうと廊下を歩いていると、後ろから名前を呼ばれて振り返る。そこにいたのは俺の思考回路のほとんどを占めているといっても過言ではない名字さんで少し驚いた。というか、俺の名前知ってたんだ。

「あの、カギ落としたよ」
「ほんとだ!ありがとう」

小さな手から差し出された自転車のカギを受け取ってポケットにしまう。そういえば、これが俺と名字さんの初会話だ。何も言わない俺を不思議そうに見上げる彼女ともっと話がしたい、そう思った。だから思わず「じゃあ、また」と立ち去ろうとする名字さんの手首を掴んだ。

「あのさ、よく目が合うよね」
「そ、そうだね」
「俺の名前知ってたんだ」
「うん、野球部さんみんな有名人だから」
「…俺、ずっと話してみたいって思ってたからいま結構嬉しいかも」
「わ、私もだよ」

照れたように頬を赤らめる彼女。可愛いな、と思うと同時に胸に何かが突き刺さったようにチクリと痛んだ。ねえそのリアクション、名字さんも俺と同じ気持ちだって期待してもいいのかな。自惚れちゃいそうだよ、俺。


0508 ♪Perfume / レーザービーム

title : さよならの惑星


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