Novel - Vida | Kerry

夏が帰る



奢っているつもりなどなかった。たとえ初戦の相手が部員10人の新設の公立校で、俺たちが県内でもかなりの強豪とされていて実際に昨年の優勝校という実績があったとしても、だ。
抽選会の日の和さんの言葉は常に胸にあったし、峰さんを差し置いて2年生でエースになるということの自覚だって、責任だってあるつもりだった。

けどその年の夏大、俺たち桐青は初戦で敗退した。手を抜いたつもりはなかった。全力で投げぬいたつもりだった。去年ベンチからみた甲子園に今度は尊敬する先輩達を、家族を、応援してくれる名前を連れていってやりたかった。けどできなかった。俺がはじめからちゃんと投げられていれば、もっと自分に力があれば、こんなことには。
この結果は、俺のせいだ。

野球はチームスポーツだ、なんて言うけど結局相手に向かってボールを投げてるのはピッチャーだ。相手に点を取られるかどうかなんてピッチャーの投げる球の良し悪しで決まる。

だからレギュラーとして試合に出てる部員はもちろん、ベンチやスタンドで応援せざるを得ない先輩の想いまで背負って投げるのなんてあたりまえだ。人一倍努力するのだって、先輩の夏を奪った責任を一身にうけることだって、あたりまえだ。

これまでエースとして相応しくあろうと勤めてきたつもりだ。だからたとえ先輩に何を言われてもどんな態度を取られても(多分彼らはなにも言わないけど)全てちゃんと受け止めて前に進むべきだってことくらい、頭ではちゃんと分かってる。

だけど先輩達が話しかけてくれたとして、俺は一体どのツラ下げて言葉を交わせばいいんだろう。これからどのツラ下げてマウンドに上がればいいんだろう。自分のせいで負けた夏は戻ってきやしないのに。

いっそ終わるのが先輩の夏ではなく自分の夏だったなら、自分も一緒にグラウンドを去ることが出来たならきっとこんなに辛くなかった。こんなに自分を責めなくて済んだ。負けたから、という理由で野球から逃げることが出来た。

試合の日の夜、気が付いたら試合を見にきていた名前に電話で「明日会いたい」と呟いていた。どうしても部活に顔を出す気にはなれなかったし、何より彼女の顔をみたくて仕方がなかった。

次の日会いに来た彼女は大きな瞳を心配そうに曇らせて俺を見上げていたけど、なるべくいつもと変わらないよう接しようと努力してくれていた。それが俺にとっては有難かったし、名前のおかげで自然と笑えてることに俺は自分でも少し驚いた。

「…せっかく応援来てくれたのに、かっこ悪いとこ見してごめん」

夕暮れの公園。隣に座る名前にだけ聞こえるくらいの声で呟いた。名前にはちゃんと謝っておかなくてはいけないと思った。"桐青のエース・高瀬"ではなく"高瀬準太"という人間を好きでいてくれている彼女には。名前は驚いたように目を見開いて俺を見つめる。蝉の鳴く声だけがやけにうるさい。

「一人でみんなの夏を背負って戦う準太くん、こっそり努力してる準太くん、かっこよかったよ。準太くん、なにも悪くないよ」

そうゆっくりと言葉を紡ぎながら小さな手で俺の手を包みこむように握ってみせるから、今までせき止めていたものが頬を伝って溢れ出してくる。

どうして彼女はこうも俺の欲しい言葉をくれるのだろうか。
本当は誰かに認めて欲しかった。本気で甲子園に行きたくて影で努力していたことを、エースとして責任とか託された想いを背負って精一杯投げていたことを。それがたまにどうしようもなくしんどかったことを、知ってて欲しかった。自分を責めなくていいんだって、お前が悪いんじゃないんだって、ずっと言って欲しかった。

心配そうな顔を見せる名前にこんな無様な姿みせたくなくて誤魔化すように抱きしめてみるけど、きっと名前にはバレてる。こんなつもりなんかなかったのに。情けない。ああ、クソ、止まれ。

女の、しかも大切な彼女の前で泣くなんてカッコ悪いと思った。どんなときだって彼女の前くらいは強く男らしくありたかった。けど名前が「準太くんが誰よりも頑張ってること、私知ってるよ」なんて呟くから嬉しくて、細い肩に顔を埋める自分がやっぱり少し情けなくて、それでも離したくなくてそばにいて欲しくて、そのままそっと腕の力を強めた。


0320 夏大を引きずる高瀬くんを書きたかった。季節外れですみません。
piece様に提出しました


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