手紙を書くよ

高校のときの野球部で毎年開催してる新年会も今年で5回目になる。最初のうちは飲めなかった酒が飲めるようになったり、就職してバラバラになって集まる機会がグッと減ったあとも毎年これだけは続いてる。

仕事を出来るだけ早く片して会場まで急ぐ。少し遅れて今年の幹事である哲郎が予約してくれた居酒屋に入るとすでに宴会は始まっていてガヤガヤと賑やかだった。
直正と善斗の「匠遅えよ」の声に「悪い悪い」と軽く返事をして直正の隣に腰を下ろす。匠来たから改めて乾杯ー!と誠が音頭をとったのを皮切りに生ビールを流し込んだ。

「ヤノジュンから話があんだけどいーい?」

しばらくして聞こえてきた公の声に、なんだなんだと少し静かになる。公の隣に座っていたヤノジュンが立ち上がっておもむろに口を開いた。

「近々結婚することになった」

その一言でさっきまで静かだった俺たちが再び騒ぎ始める。勿論俺も例外ではない。「おめでとう」「この幸せ者め」「やっぱヤノジュンが一番乗りだったか」と口々に好き勝手騒ぐ俺らに、ヤノジュンは少し呆れつつもその口元は緩んでいる。いいなー、すげー幸せそうじゃん。

「式いつやんの?」
「10月。招待状送るから後で住所送って」

相手が俺らもよく知っている、高校の時よく応援にきていた彼女だったこともあって追及の手が緩むことはない。他のことは比較的答えてくれるくせにプロポーズの言葉は意地でも教えてくんないらしい。なんだよ、ケチ。

余興やろうぜ、何にするよ?嵐とかは?俺松潤やる!お前その顔で松潤はだめだろ、と盛り上がる周囲を他所に直正と修平がヤノジュンに話に行ったので、気になってなんとなく俺もついて行くことにした。

「改めておめでとう。式に岳史呼ぶの?」
「呼びたいけど連絡とれねーから困ってる」
「絶対呼べよ」

ヤノジュンの答えに修平が食い気味で返した言葉に直正も頷く。

「連絡先は岳史の母ちゃんに聞いてみればいいじゃん」
「匠、お前はもういいのか?」

直正たちに同調するように口を挟んだ俺をヤノジュンの試すような視線が射抜く。確かに最初に聞いた時はすげー腹が立った。絶対許せないって思ってた。今も修平みたいに優しくできるかと聞かれたらそうじゃないのかもしれない、けど

「岳史と話がしたい」

あれから考えた。真面目で努力家で熱苦しいくらい一生懸命だったお前がなんでそんなことしたのか。きっとそれは俺が善斗や優に抱えてたものと大差ない。何をしても勝てないんじゃないかと思ってしまうような劣等感、あいつらにできることが出来ない自分への不甲斐なさ。

俺は最後の夏、球速いってだけで試合で使ってもらえたけど二人みたいな安定感はいつまでも身につかなくて大事な試合では投げられなくて、ずっと悔しかった。一歩間違えれば俺も岳史になる可能性だってあった。

多分岳史の気持ちを、誰よりも理解できるのは俺だから。

「俺も話したい。連絡とれるよう頑張ってみっから」

ヤノジュンの言葉に3人揃って顔を見合わせて笑う。
あの頃理解できなかったことが理解できるようになったり、許せなかったことが許せるようになったりするのは俺が大人になったからなんだろうか。それとも月日が流れて少しずつあの日々のことが遠くなっているからできることなんだろうか。俺はちゃんと成長出来てんだろうか。

結局余興は嵐を踊ることに決まったみたいで公と誠が出るやつを募ってる。「俺らも出たい!」と修平、直正と声を揃えて手を上げた。答えなんてどっちでもいい。いつまでもこうして笑っていたい。今度は岳史もいれて。ただそれだけ。

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