誰かの救いになる正義

あの後、帰り道は全員口数が少なかった。方向の違う他のやつらと別れてヤノジュンと二人で帰るのもいつものことなのに、その日は二人ともずっと無言だった。

話したいことも話すべきことも沢山あるのに、直正から聞いた話のショックが大きすぎて適切な言葉が選べないでいる、という方が正しいのかもしれない。

「さっきの話なんだけどさ」

別れ際思い切って切り出した俺に、ヤノジュンがこちらを振り向く。

「俺、本当はもっと前から気付いてた」
「俺が言い出す前から?いつ?」
「横浜信明とやったとき」
「…そうだとして、指摘しても変えられなかったかもしんねえじゃん。公あんま自分責めんなよ」

それはそうなんだけど。それでも俺があの時止めていれば、問題にしてればみんな最小限の傷で済んだかもしれない。岳史だって今ここにいたかもしれない。それを後悔してきた、今日までずっと。

「違う、俺本当はなんとなく呂佳さんのことも気付いてた。気付いてたのに、あの時点でなんとか出来るの俺だけだったのに見て見ぬふりした。大会出られなくなるの嫌で」

ずっと逃げてた。自分のずるさや弱さから。
正直なかったことにしたかった。いつかこのまま全て忘れて、思い出だけが残るその日までこのことには触れずに掘り返さずに生きていくつもりだった。

けど逃げずにちゃんと向き合ったヤノジュンや、償おうとしてる岳史、思うことがあるだろうに岳史を責めたりしない修平や直正をみてたら”もう逃げたくない”そう思った。俺も今度は逃げずにちゃんと向き合いたい。

「俺は自分でやったことが正しかったのか、今でもわかんねえ。あの時は岳史のためだと思ってたけど、ただ追い詰めただけだった気がする」

3回戦の後、ヤノジュンは岳史のこと、監督や誠そして岳史本人に言おうか迷ってた。それを止めたのは他でもない俺だ。結局二人には言わずに岳史にだけ釘を刺すことにした選択を、それが止めになったんじゃないかって、ヤノジュンはずっと悔いている。

「これは俺個人の意見だけどさ、俺が岳史だったら誰にも気付かれず何も言われないことの方がずっとしんどかったと思う」

きっと誰もが何かしらの後悔を抱えてる。あの時頷かなければ、伝えていれば、言わなければ、いくら悔いたって時間が戻ってくるわけない。それでも

「だからヤノジュンのしたことは何も間違ってねえよ」

前に進むしか道はない。岳史のしてきたこと、俺のしてきたこと。間違いばっかだった。それはもう変えられない。けどきっとこれからのことは変えられるはずだから。

「岳史に会って、話がしたい」

口から漏れた言葉にヤノジュンもああ、と頷く。きっとこれはさっきあそこにいた部員の総意だと思う。匠は会ったらブチ切れるかもしれないけど、きっとそれ自体岳史を大切な仲間だと思っている証だから。

「いつか、出来るといいな」

今度会えたら何を話そう。同じ部活にいた時は大して話さなかったくせに、今になって話したいことが沢山ある。

どこにいるのか分からない、電話番号もアドレスも何もかも変わっててろくに連絡も取れないのに遠くない未来また会える気がしてんの。何でだろうな。でもこの予感はきっと合ってる。そう信じたい。

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