さみしいひとよ

「呂佳さんお久しぶりです」
「おー直正か。誰かと思った」

大学の帰り久々に呂佳さんに会った。
「もう顔忘れてんすか、ひでー」なんて言ったら坊主じゃねーんだもん、わかんねえよと言われた。そんなに変わるもんかな。自分じゃよくわかんないや。

「お前まだ野球やってんの?」
「やってますよ、毎日きついっす」

そう漏らしてみたら「だろうな」ハハと快活に呂佳さんは笑う。呂佳さんは俺らの引退後コーチ辞めたって聞いていた。だからてっきり大学の野球部にいると思ったのに、入ってみたらどこにもいなくてびっくりした。今何してんだろう。

「今も外野やってんの?」
「いや、普通に捕手です」
「ふーん」

そのあと他愛もない会話を2・3交わして練習へ向かおうとした時だった、呂佳さんがその言葉を発したのは。

「お前がもっとずる賢かったら高校でもお前を正捕手にしたのにな」

思わずどういう意味ですかと尋ねてしまった。その顔は強張ってはいなかったか。確認する術はない、けど

「岳史にやらせてきたことだよ。気付いてなかったか?」

ラフプレーだの正捕手だのと更に続く呂佳さんの言葉が信じられなくて、まるで異国の言語のように聞こえる。それなのに意味だけはしっかりと理解できて頭が真っ白になった。
そこから先はよく覚えていない。ただ気付いたら胸倉を掴んでいた。

通りかかった誠と善斗が止めてくれなかったらきっと、大事になってた。当たりは騒然となってうるさいくらいなのに「相変わらずうぜーな、お前」とだけ吐き捨てた呂佳さんの声がやけに響いてた。

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