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無神経に悲しくなるなよ
忘れもしない。あれは6回戦でうちが日農大に負けて3年が引退した直後、まだまだうだるような暑さが続く夏の暮れだった。
「なあ呂佳、今まで付き合ってくれてありがとな」
「なんだいきなり、お涙頂戴青春ごっこなら他所でやれよ」
感傷にでも浸ってんのかよ、と続ける俺に滝井は「お前ほんとは自分で野球やりてーんだろ?」と切り出した。目標を果たした充足感とでも言うんだろうか。あまりにも清々したような表情をしてるのでそれが無性に腹が立った。
「みてれば分かるよ。コーチはもういいからお前は自分の野球やれよ」
「だからやんねーって。何回言えばわかんだよ」
「まだ1年なんだし硬式でも付いていけるって」
「お前もしつけーな!」
滝井がいつか、コーチを頼んできた日のようなまっすぐな目で俺を見る。俺はこの目が嫌いだ。こうすれば俺がいうこと聞くと思ってやがる。そう何回も同じ手食ってたまるか。
「本当にもうやんねえから」
「何意地になってんだよ、やりゃいいじゃねえか。俺と違ってお前はまだやれんだから」
「あのなァ、人の話を…」
「俺の願掛けはどうなるんだよ」
「は?」
「この髪お前がまた野球できるようにって願掛けしてんだぞ。ここまで伸ばしたんだからいい加減切らせろよ」
は?ベスト8のじゃねえのかよ。そんなの聞いてねえし、そもそも頼んでねえし。何勝手に人の野球人生に願掛けしてんだよ。
そんなの願掛けでもなんでもない。ただの呪いじゃねえか。
「そんなにコーチ辞めてほしけりゃ辞めてやるよ」
付き合ってられるか。何回言われたってそれこそお前に言われたって、これだけは覆られない。二度と選手はやらない。そうあの時決めた。何も知らないくせに、理解出来ないくせに邪魔すんなよ。