Novel - Vida | Kerry

善き冬の過ごし方



Q.女子と仲良くなるにはどうしたらいいですか?
なんとしてでもクリスマス前に彼女が欲しいです

A.彼女以外とは用事ないと喋んねえ(矢野)
 あーそうですか!!どうぞ勝手にお幸せに!!
A.俺も基本ヤノジュンと同じかな
 てか向こうから勝手に話しかけてくるじゃん(川島)
 お前はな!もう二遊間に聞いた俺が馬鹿だった
A.女子だからって意識しすぎなんだって。
 普通に俺らと接してるみたいにしてれば大丈夫(宮田)
 ありがとう直正。え、ていうか俺って女子の前だとそんなに変…?
A.こればっかりは慣れじゃね?(和田)
 やっぱそうだよな…
A.押して押して押しまくる!(鹿島)
 お前はそれで何回失敗してんだ

 俺は焦っていた。少なくとも元チームメイトにこうやって聞いて回るくらいには。月がまた変わってカレンダーは残り一枚。12月に入ったというのに彼女はおろか、親しい女子すら一人もいないというこの現実に。
 当初の予定なら4月頃に出会って連絡先を交換して、夏前にはいいかんじになって今頃その子と付き合ってるはずだったのに。連絡先を最後までスクロールしてみてもそこにあるのはひたすら男の名前ばかり。ちらほらある女子の名前は最初みんなで連絡先を交換した後で少しやりとりした程度で、最後にやりとりしてから少なくとも半年は経ってる。つまり顔見知り程度。友達ですらない。

 大学に入って共学になれば彼女なんて当たり前に出来ると思ってた。逆に言えば彼女が出来ないのは男子校のせいだと思っていたのだ。でも考えてみれば男子校でも彼女持ちのやつはいたしモテるやつはモテる。つまり、原因は環境じゃなくて…そこまで考え出したところで俺は思考を放棄した。知らなくてもいいこと、何かのせいにしてた方がいいことも世の中にはある。

 「ていうか、クリスマス前に彼女が出来れば相手は誰でもいいっていう魂胆がみえみえだから相手も警戒すんじゃねえの」
 ヤノジュンの核心をついたその一言に何も言い返せなかった。図星だったのだ。隣にいた公が「オブラートに包んでやれよ」なんて笑ってくれたのが救いだ。


 なんだかんだいいつつも、何かしら行動しないと出来るものも出来やしないんだ。とはいいつつも入学してからもう半年以上経つのに今更新しい出会いもそうそうない。共学出身の友達に愚痴ったら「共学に夢見過ぎ」と笑われた。うるせー、悪いかよ。

「竹ノ内くんだよね?」
「はい、そうですけど…」

 大学帰りに立ち寄ったコンビニで、同い年くらいの女子に声をかけられた。向こうは俺を知ってる風だけど、申し訳ないがまったく見覚えがない。というかこんな綺麗な女子の知り合いがいれば最初から苦労はしない。話しかけてくれる女子の知り合いなんてそもそもいただろうか。

「いきなりごめん、覚えてないよね。あまり話さなかったけど、中3のとき同じクラスだったよ。懐かしくなって思わず声かけちゃった」

 そう相手が続けるのに合わせて徐々に昔の記憶が蘇ってくる。間違いない。今の今まで忘れてたけど。髪型が変わって化粧をして雰囲気がだいぶ変わっているけど、教室でいつも友達と楽しそうに笑っていたあの子だ。

「…覚えてるよ」
「うそだー!忘れてたでしょ」
「…ごめん」
「いいっていいって!全然話したりしなかったし」

 正直に謝ると、彼女は笑って許してくれた。そのまま他愛のない会話を続けてわかったことだが、彼女も今美丞大に通っているらしい。学部が違うから気づかなかった。

 なりゆきでそのまま二人でコンビニを出て、家の方向も同じなので二人並んで歩く。ただそれだけなのに俺はとんでもなく緊張してるのに、彼女ときたらなんてことないような素振りで隣で変わらず話し続けるのでこんなに緊張してるのが自分でも恥ずかしくなってきた。

「俺のことよく覚えてたね」
「そりゃあ、中3の頃好きだったから」
「え」

 緊張を誤魔化すようにふと、気になったことを尋ねたあと、思わぬ答えが返ってきて固まってしまう。
 落ち着け、過去の話で今現在も好きって言われてるわけじゃないんだから。必死に自分に言い聞かせる。そうでもしないと勘違いしてしまいそうだ。そんな努力も虚しく鼓動は早くなり続ける。昔の話だって構わない。誰かから面と向かって言われる「好き」がこんなにうれしくてドキドキするものだったなんて知らなかった。

「今更すぎるけど言えてすっきりした!聞いてくれてありがとう」

 立ち去ろうとする後ろ姿を見て思い出した。あの子は同じクラスの野球部のやつが一瞬だけ付き合ってた彼女の友達だった。俺はそいつと仲良くて流れであの子と一緒に帰ったことがある。お互い無言で会話も対して続かないまま、心臓だけが自分のじゃないみたいにうるさかった。
 あの時、彼女も今の俺と同じように緊張して、ドキドキしてくれていたんだろうか。

「あ、あのさ!」
「なに?」
「連絡先とか聞いてもいいですか…?」
「いいよ、てかなんで急に敬語?」

 その屈託ない笑顔が中学生のときの彼女と重なる。久しく忘れていた感情が自分の中ではっきりと芽生えている。ずっと彼女が欲しかった。クリスマスまでにできれば誰でもいいとさえ思ったこともあった。恋人への憧れが強すぎて気付けば大切なことを忘れていた。

Q.気になる子が出来ました。
正直今まで彼女ができれば誰でもいいって思ってました。でも今は違うんです。あの子じゃなきゃ嫌なんです。あの子のこともっと知りたいんです。
仲良くなる方法を一緒に考えてください。

 明日あいつらにあったらこう聞いてみよう。本気で好きになれる相手が出来てよかったなって、笑いながら一緒に悩んでくれるだろうか。

220510 竹ノ内くんは男子校こじらせててお顔立ちとかポジションの割にモテなさそうだなと勝手に思ってます
美丞夢アンソロに寄稿させていただいたものですが、許可いただいたのでサイトにもあげさせていただきました


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