フロムパラダイス



フロムアンダーグラウンドの神宮寺さんの設定をリサイクルした話。繋がってないのでコレ単体で読めます。




十四年前、祖父と父が与する裏社会に身を置く決意をした。

十二年前、家族が死に叔父と共に組織を率いる立場になった。

十年前、叔父が死に名実ともに私がトップになった。

日本の反社会勢力における古豪『高天原』。代表神宮寺名前。先代の孫娘である血筋と十年間組織を盛り立ててきた実績で私は今も裏社会に立っていられる。古豪とはいえ所詮は犯罪者。シノギは薄暗く非合法であり巧妙に潜まなければ簡単に国家権力に尻尾を掴まれる。悪知恵と空気を読む処世術のバランスで保って来たような組織だ。女がトップになってからの十年間は特に。

その一貫として、私は代表でありながら新興組織である『梵天』に出向し、同盟相手として幹部の地位を手に入れた。新興とは思えないほど圧倒的な暴力と悪辣さで裏社会に新しい嵐を巻き起こし、古豪は軒並み鼻で笑い取り込もうと手を伸ばし……返り討ちにあった。二の舞は避けるべきだと、私は自ら同盟の打診とともに頭を下げ、こうして組織を盤石なものとして鍛え上げ続けている。

これ以上はないほどに慎重に、臆病に、虎視眈々と。常に状況を見て対応を変えていかなければ淘汰されるのが裏の世界だ。そんなものは誰に説かれるまでもなく理解している。幹部になったからと安心していられるほど今の地位で満足していない。次の手を考えなければ私がここにいて何の意味があるのか。

だから仕方ない。
仕方ないことだと。
目を伏せてその案を飲み込もうとした。


『少し、時間がほしい』


死にかけの末期に力を振り絞って上げた、それは女の悲鳴だったのだろうか。

空が白み始めた早朝のこと。ホテルから出て車に乗り込もうとしたところ、ものすごい力で腕を取られて振り返る。視界の隅から徐々に割って入るピンク色と鮮やかな瞳、ダイヤ型の口元の傷。食いしばる歯の隙間から漏れる威嚇。爽やかな早朝に見るには不似合いな闇深い男が私を見下ろしていた。


「ウチの相談役を誑かしてどういうつもりだ」

「……………………、……、…………うん?」


────あれ、三途春千夜じゃね?

ギリギリと擦り切れるスーツの袖を感じながら、脳みその奥の奥で前世のオタクが産声を上げた。


「…………」
「ハッ! だんまりか。そんなにうちのジジイの相手は疲れたか? 一晩中なんて年寄り共にしては張り切ったじゃねぇか」
「…………、強いて言うなら、四十路前はまだオジサンと呼ぶべきではないか? 私もまだオバサンのつもりだが」
「ッ、テメェのそういうところが鼻につくんだよ!」


いッッた! いたいんですけど!?

ギリギリ音がさらに増した腕になんとか無表情を保つ。あんまり真正面で受けたくない言葉だったから外して答えてみたんだけど、どうにも相手はバカにされたと勘違いしたらしい。ふぇぇぇ若者の考えること分からない。いや、この彼前世の私と年近そうだけど。その場合年齢とか関係なく人種が違うからってこと? 本気で分からなくなっちゃったや。

深酒とストレスと前世ショックで一旦落ち着かせてほしいのにこの感じは長引きそう。ちゃんと相手してあげるのはまた今度、九井くんか鶴蝶くん、それかボスがいる時に持ち越すとして、とりあえず大股で一歩。引っ張られた力に逆らわずに近付いて、相手の顎と私の鼻先がくっつくほどに距離を詰めて威圧感のある上目遣いを披露した。


「鼻につく、とはこういうことかな?」


……いやちょっとふざけすぎたかも? 寒い? オバサンジョーク?

苦し紛れにふっと笑ったら勢いよく腕が解放された。やっぱり寒かったのかしら。ごめんなさいね。でも腕痛かったの許してね。


「君と仲良く世間話も楽しいが、生憎と今日はオフでね。三途くんのような若者と違って年寄りはしっかり休まないと次に響くんだ。またの機会にしよう。では」


軽く目礼してから待たせていた車の後部座席に乗り込む。背もたれに背を預けて「ふぅ」と一息ついたところで、バックミラー越しに立ったままこっちを見送るピンク色に気づいた。ど、どんだけ気に食わないんだよ。コワァ。

結局三途春千夜はビルの角を曲がるまでずっとそこに立ったままだった。



神宮寺名前。サラサラ黒髪ショートヘアに冷ややかな水色の瞳。ガッツリメイクを施した気の強そうなバリキャリお姉さん。その正体は反社会勢力『高天原』のトップであり、新興勢力『梵天』の特別幹部である。女ながらに裏社会の荒波を悠々自適にヒールで渡り歩き、眉一つ動かさず法を犯す。武器の密輸、人身売買、臓器売買。賭博の元締めとしても広い顔を持っており、関東を中心として悪の根を張り巡らせている。そんな悪い女が今生の私らしい。……漫画の読みすぎでは?

スマホをタプタプ連絡帳をひらけばズラッと並ぶ男の名前。知らないけど知ってる字面に挟まるように見えた明司、鶴蝶、九井、望月。三途と灰谷と佐野は見当たらなかったが、そのフェイクの名前はすぐに分かった。ダメ押しで検索した店の住所を運転手に伝える。わずか十分でたどり着いた看板には『ラーメン双悪』。次にバイクショップ『D&D MOTOR CYCLE SHOP』。次にペットショップ『×Jランド』。柴八戒で検索するとランウェイの写真がすぐに出てきた。

マジで東リベの世界じゃん。

そう確信してしまってからもう頭が痛い。二日酔いにしても痛い。とりあえず一番近いセーフハウスに戻って仮眠とったほうがよさそう。セーフハウスあるんか私。しかもパッと思いつくだけで都内に五つあるわ。お金持ちか私。そりゃあ税金払ってないしね。ダメじゃん私。

こういう自分でボケてツッコミ入れるのを軽く一時間繰り返している。確か今年で32だっけ。そりゃ急に32年分の情報よこされてもって感じ。いやこの場合前世分の記憶が今の私に押し込まれてるって考えるのが妥当? ……あーあーめんどくさい無理無理わかんない私五歳児だからむつかしいことはママに任せます。ま、ママってば十二年前に死んでっけど! 笑えねー。

家について早々に高いスーツをクリーニングのカゴに放り投げ、軽くシャワーがてら濃い化粧を落とす。あと今の私めっっっっちゃおっぱいデカい。感動通り越して肩こりで泣きそう。オバケみたいなブラにもビビる……ナイトブラつけなきゃ……。代わりにショートヘアの乾きやすさに感嘆したドライヤーを終えた後、水を飲んで歯を磨いてクイーンサイズのベッドにさあダイブ……ってところで嫌なメールがスマホに届いた。


“若いのをいくつかリストアップしておきました。心変わりがあればご活用ください。”

「…………はぁ」


しねえって言ったのもう忘れたのかよボンクラが。

ここ最近のストレスの種で眉間のシワが増える増える。というか三途と話してる時も思ったけど嫌味とか悪態とか簡単に出てくるね? お口悪いねこの私。仕事病じゃー大変じゃー。反社なんかクソ食らえばーかばーか。…………はぁ。

思いっきり電源を切ってから枕元に放り投げ、今度こそベッドにダイブを決めた私であった。

……ストレスマッハで前世を思い出すってなに?




十二年前。『高天原』は荒れた。偉大なる首領と補佐兼No.2が敵対組織に騙し打ちに近い形で殺されたのだ。報復は徹底的に行われ残党も残らない焼け野原になったが、問題は跡目だ。当時No.2の父の次に偉かったのが弟である叔父。順当に行けば彼が継いで丸く収まるはずだった。ネックになったのは叔父が祖父の愛人の連れ子であり、誰とも血が繋がっていなかったこと。血の繋がりを重んじる重鎮たちは叔父を厭うていた。部下として組織を支えるのならまだしも、自分たちの上で余所者がふんぞり変えるのが許せなかったのだろう。叔父の対抗馬として祭り上げられたのが当時二十歳になりたてだった亡き首領の孫娘。つまり私だった。

叔父は首領になるのに乗り気ではなかった。私も同じ気持ちだった。何せその当時の私は殺しをしたことがなかった。事務として書類を捌くばかりで血を見るような仕事もどす黒い取引も知らない。半端者の垢抜けないただの小娘だったから。


『オマエはそれでいいのか?』


私は頷いた。そうしなければ組織は真っ二つ。血で血を洗う戦争になり、祖父や父が守ってきたものが散り散りになってしまうと思ったから。私は叔父を後見として新たな首領になった。後見という建前の、実質叔父が実権を握っている歪なトップ。それでいいと思っていた。叔父の能力が認められるまでの時間稼ぎであり、いつか組織の歯車に戻るその日までの我慢だと。


『今ならまだカタギに戻せるぞ』


そんな虫のいい話はないでしょう。微笑んで首を振った私に、叔父はそれ以上何も言わなかった。きっと後悔しているだろうその苦々しい表情は、その一度きりだったっけ。

時間稼ぎは無意味になった。十年前、叔父が抗争でも裏切りでもなくただの交通事故で亡くなったから。後見を失い、血筋だけの小娘がトップに座る威厳のない組織ができてしまった。

…………私の過去クッッッソ重いな?



「一年ほど休暇をいただきたい」


一週間後。梵天が所有するビルの一室にて。ソファに浅く腰掛け、誠意を持って膝に手を揃える。向かいで座る首領は興味なさげに続きを促した。


「お恥ずかしながら、うちの長老方が老後の心配を始めましてね。年金なんて雀の涙の時代です。せめて後顧の憂いを払ってやろうと思いまして」
「周りくどい。休暇の申請なら九井で事足りるだろ」
「──武臣を貸していただきたい」


壁に体を預けて煙草を蒸していた武臣が私の横にドッカリと座った。


「梵天幹部のガキが欲しいんだと」
「続けろ」


この話を持ち掛けられたのが一週間前。三途に腕を掴まれて前世を思い出したあの前の晩。十年来の付き合いの武臣と酒を飲みながら話し合った。

私は今年で32歳。組織直系血族最後の人間として最低限果たさなければならない役割があった。後継を作ることだ。前時代的な年寄りの価値観としては三十路は子供を産むには高齢の部類らしい。早く子供を産んで組織の未来を盤石なものにしろと、オマエの仕事はそれで完結すると、馬鹿の一つ覚えの猫撫で声で囁いてくる。


「まあ、そのことに異論はありませんよ。もともとその覚悟でこの世界に入りましたから。けれどね、どうもキナ臭いんです」


老人たちは本当の祖父のように『名前ちゃんもそろそろいい年じゃろ』『いい人はおらんのか?』『わしの孫とか紹介してやろうか?』『気のいい男がおるんじゃが』と呑気だ。なあなあでかわせる可愛いジジイどもだからまあいい。問題は若いモン。


「梵天のように統率の取れた組織なら良かったのですがね。生憎とウチは一枚岩じゃなく、夢見がちな若者が多くて困る」


勧めてくる相手が叔父派閥の身内ばかり。これはまだ叔父の信奉者が調子こいてるなあ、と。前世を思い出す前の私の最大のストレスがコレだ。身内のゴタゴタ面倒くさぁい。マスキュリズムというかホモソーシャルというか。女は除け者にしたい感じのイヤーな空気。だから梵天に出向するのが増えているのかしら。おじいちゃんたちに任せた方がうまくいく事も多かったしー?


「身内同士だとどうしてもなぁなぁになってしまって。どうせなら梵天ともっと密になりたいんです」


私に子供産ませた奴が次の首領とか馬鹿考えるクソがいないとも言い切れないんだわ。はークソ。脳みそに行く血ぃぜんぶ下半身に盗られてるんか。

胃のキリキリが増した気もしないでもないけれどとりあえず足を組んで優雅に笑ってみせる私である。こりゃ腹が据わって見えるわ。我ながらやべえ女って感じ。だから誰も助けてくれないってのも分かっちゃった。


「なんで武臣だ? 幹部なら他にもいるだろ」
「武臣が一番付き合いが長いってのもあります。あとは消去法かしら」
「あー、あれか。馬鹿みてぇに笑ったわ。言ったれ言ったれ」
「私は真剣なのだが」


喉の奥でクックッと思い出し笑いする武臣。無表情で首を傾げる首領。私は一週間前、酒が入る直前に武臣にこぼした『チキチキ梵天幹部対抗コイツとガキ作るのは嫌だ選手権』のあらましをかいつまんで語って聞かせた。


「前提として、私は子供が欲しいんであって夫も父親も養育費も必要ありません。ただ“梵天幹部の子供”という認知だけが欲しいんです。それを踏まえて」


えーとまず首領。流石に梵天とズブズブすぎて『ウチの組織取り込まれるんじゃ?』と内外で変な火種になりかねない。あとうるさいヤツがいるから初めからパス。

九井。コイツはメタ知識だと赤音さんという古傷と化した初恋があるのは抜きにしても、養育費払う以前に金を取ってきそうだからパス。

次、望月。誠実とは縁遠い男だがいざ子供ができたら絶対子煩悩。過干渉で最終的に取り上げられそうだからパス。

灰谷兄。子供を作った間柄をネタに一生揺すってきそうだからパス。

灰谷弟。アイツと深く関わると兄がついてくるからパス。

鶴蝶。梵天で一番マトモ枠。顔よし性格よし漢気最高結婚するなら彼一択の優良物件。ただ今回の場合は誠実すぎて認知はおろか養育費はきっちり払いそうだしすごくマメに子供の顔を見に来そうだし最終的に責任を取るとか押し切られて籍入れられそう。泣く泣くパス。


「ここは梵時代から付き合いが長い武臣が適任かと。程よく律儀でそれなりに不誠実な男ですし」
「褒めてるフリして貶すなよお嬢ちゃん」
「ははっ、ソレ十年ぶりに呼ばれたな。明司さん」
「三途は?」
「…………」
「…………」


口をつぐんだ私。肩を震わせて肘で小突く武臣。クマがベットリ張り付いた目で圧をかけてくる首領。なんと説明していいか分からず、けれど流石の図太い私も沈黙の痛さに耐えかねて。


「三途くんは論外」
「あ”ァ!?」


ほらぁ! こうなるって知ってた!

ゴリッとこめかみに押し付けられた銃口。目を向けるまでもなく誰か分かった。何せこの部屋にいる人間は最初から四人だったので。


「誰が論外だアバズレェ!」
「人聞きが悪いな。私はこれでも一途な女だよ」
「ッこんの、馬鹿にしやがって!」


本当によく回る口だな? 頭で考える前に秒で軽口が飛び出てくる。慌ててるのは一般人だった前世の私だけで、この体は全然リラックスしているし。『まあ、ガチギレしてたら発砲するしな』とかやれやれしてる。呑気か? おっぱいの脂肪があったって脳天ぶち抜かれたら意味ないんだが?


「オレは梵天のNo.2だぞ!? 首領の次にビッグネームだろうが何が不満なんだよ!?」
「そもそも何故そこまで突っかかるんだ? 私としては甚だ疑問なのだが」
「質問に答えろ! オレのどこが論外だって!?」

「君、私のこと嫌いだろう?」



嫌われてる相手と子作りしたいとは思わないでしょ普通。

「────────は?」銃を持つ手が降りる。あまりにアッサリだったからこれには素で驚いて、なんの構えもなく三途の方を見上げた。

バッサバサの睫毛の真ん中、綺麗な瞳がよく見えるほど目を見開いて、半開きの口が謎の母音を不規則に吐き出している。キレてるか無表情かしか見たことがなかったから、こんなにも動揺しているのを今の私も前世の漫画読者の私も初めて見た。外見では怪訝に首を傾げた私。対して隣の武臣はしばらく唸り声を捻り出していたかと思えばついには声を上げて笑ってしまった。


「……オマエの要求は分かった。一年と言わずいくらでも休め」
「ありがとうございます」
「だが、相手はもう少し慎重に選べ」
「は…………」


それは、武臣じゃ何か不都合があるってこと?


「武臣が無理なら、鶴蝶か九井しかいないのですが……」
「ブァッハッハッハッ!」


珍しく眉間を揉む首領と、腹を抱えて笑い出した武臣。

個人的な話、私の前世の推しは鶴蝶だ。恐れ多すぎて絶対にどうこうなりたくない。子供を作るなんてもっての他。多分今のキャラとか放り出して気絶すると思う。ここは九井に金を払うしかないか……と途方に暮れる私の頭上で、今度こそ三途の銃が火を吹いた。

話し合いすらマトモにできないんだもんなあ。ふぇぇぇ反社ってほんとクソ。五歳児むつかしいことわかんにゃいもん。ばぶばぶ。ちゃんちゃん。



「クソッ! 泣くまでブチ犯してやっから覚悟しろよッ!」
「女の口説き方も知らんのか?」
「オッマエ最高だなァ!」



真面目に貞操の危機じゃんウケる。

安定の全自動煽りをしてしまった私の背中を笑い袋になった武臣がバシバシ叩いた。銃声がまた響いたのが聞こえなかったのかな。首領が珍しく呆れてるのも見えてないか。今日は珍しい首領しか見てないな。いつも興味なさそうなのに意外と人間味がある方なのかも。まあマイキーだし、ちょっとくらい優しさ残ってそうだけどさ。

この時の私は、『子供が欲しい』という概略は伝えたが『体外受精の形を取るから精子提供者が欲しい』という詳細を武臣以外に伝えていない事実をすっかり失念していたのである。



「(女の尊厳踏み躙る気満々じゃん。三途くんどんだけ私のこと嫌いなんだろ)」



はーーー反社やめてぇ。






***





『君と話しているとなんだか楽しい。自分でいれるみたいで息がしやすいんだ』


地味な女だと思った。どこぞの私立のお上品そうなセーラー服を着て、膝丈のスカートに真っ黒タイツ。長い髪をまっすぐ背中におろして、目にかからないように流した前髪の下でアイスブルーの目を細めている。地味なわりに笑うとキラキラ柔らかくて、昼寝にピッタリな春の日差しみたいだ。なんてガラにもないポエムが浮かんだ。キメェ。こんな女とオレが一緒にいること事態ありえねぇことだ。こんな、暴力なんて知らない真面目チャンがオレといて楽しいとか。


『そうかよ』


嘘つきと罵ってやる気も起きなかった。

抱えた膝に頬を乗せて笑う。上品なくせにガキみてぇにふにゃふにゃで、初対面と比べてずいぶん柔らかくなった。春の日差しに目ん玉が焼かれる。心臓がドクドク言って、全身が変に熱かった。


『また会えたら名前を教えてね』
『考えとく』
『なあにソレ。ちゃんと教えてよ』
『ハッ! オレの気分次第だろ』
『もう……。絶対こっちから聞くからね』


────嘘つき。



「『高天原』代表、神宮寺名前だ。初めまして三途くん。梵天のお噂はかねがね」



グレーのパンツスーツ。袖を通さず肩にかけたファーコート。殺傷能力バリ高ピンヒールをカツンと鳴らして立ち止まった。腕を組むと鷲掴みたくなるデケェ乳が強調されて、顎を上げれば短くなった髪がサラリと揺れる。自信満々に釣り上がった唇は嘘つきの色をしていた。


「新参の身で恐縮だが、同じ幹部としてよろしく頼む」




春の日差しのようだった地味な女は、無慈悲な夜の匂いを纏わせてオレを梵天のNo.2と呼んだ。








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