Can't be Nirvana.



なーんかつまんない。そう思い始めたのはいつからだったっけ。

お気に入りのボールペンをカチカチ鳴らしてリズムをとる。ちっちゃい頃好きだった数え歌とか、最近流行りの歌とか、結構ノリノリだったのにしばらくやってたら親指が疲れちゃって嫌になった。やっぱつまんなぁい。今日の分の紙の束をワーッとベッドにばらまく。知らないオジサンオバサンの顔がシーツの上に散らばってしょーじき気持ち悪い。もうお仕事したくなーい。今日はいっかと思ってペンをベッドの外にポイ、したら誰かにキャッチされた。誰かっていうか、彼しかいないんだけどぉ。


「ねーえ、クラピカ。つまんないよぉ」
「侍女を呼んできましょうか、ボス」
「いらなぁい……ナマエで良いって言ってるのにぃ」
「申し訳ありません、ボス」
「もう」


精一杯むくれて見せても無表情で頭を下げるだけだからつまんない。ぜったいプライド高いクセに。年は近いはずなのにこうも違うなんてヘコむなぁ、

なんてね。


「ボス、本日のお仕事は」
「あーあー聞こえませぇん。今日はお休みぃ」
「ボス」
「少なくともクラピカが名前で呼んでくれないならぜぇーったいやんないからぁ」
「それだけは従い兼ねます。申し訳ありません」
「"もーしわけありません"ばっかぁ」


頭下げて謝ってるだけでまったく声に気持ちが入ってない。名前で呼んでくれないのは分かってたけどさぁ。仕方ないなぁ、と無言で右手を差し出せばさっきキャッチされたボールペンが手の平に返ってくる。


「ありがとうございます、ボス」


こんなんばっか従順なんだから、あーやだやだ!

顔の横で構えた右手がほんのりあったかくなる。ぼんやり空っぽになっていく頭の中で(クラピカなんてハゲちゃえ)って舌を出した。



***



「ボスはクラピカのこと、本当はそんなに好きじゃないでしょ?」


優しい声でそんなふうに言われると思っていなくてドキッとした。


「な、なんで、そう思ったわけぇ?」
「あら、私がミュージックハンターだって教えなかったかしら?」
「それは聞いたけど、」
「ボスの口と違って、心音はとっても素直なの……ボス、クラピカをそばに置きたがったり何かと頼ったりしてるけれど、心音はその度に早く高鳴っているの。恋とはちょっと違うテンポだったから、緊張しているのかと思って」
「…………うう」


やっぱりハンターって頭いい。人体収集癖のオジサン(変態)とは大違いだ。センリツのほのぼのした顔がなんだかそれだけじゃないように見えてきた。人は見かけに寄らないってヤツかなぁ。


「どっかでボロ出しちゃったかなぁ」
「大丈夫よ。私以外は気付いていないみたい」
「そっかぁ」


エリザは分かった?って反対隣りに首を向けたら困ったみたいに否定された。やっぱりハンターってすごい。

今あたしの近くにいるのはセンリツとエリザの二人。少し離れたところに護衛のオジサン二人がいて、肝心のクラピカは外から見張ってるんだってぇ。クラピカがいない時間を見つけて話しかけてきたってことなのかなぁ。

ザワザワうるさいショッピングモールの中で、あたしたちだけなんだか取り残されたような気分。んーん、というか最初っからあたしはここから切り離されてるんだと思う。あたしが生まれた町はこんな騒がしくなかったし。フツーの女の子は護衛とか警護とかいらない。ハンターなんてたぶんテレビとかネットの中の存在だったんじゃないかなぁ。


「好きじゃないっていうかぁ、苦手? なのかも」
「苦手?」
「あんましっくり来ないけど、たぶんそー」


嫌いじゃない。たぶん苦手。

帽子の下から覗き込んでくるセンリツが、なんだか楽しそうにこっちを見てる。恋バナしてるわけじゃないのに、変なのぉ。


「なんていうかぁ、クラピカって真面目じゃない?」
「そうね、彼は聡明だわ」
「そう、そーめーなの。そーめーすぎてこっちが引くくらいなの。そんな男の子がさぁ、パパの仕事の手伝いしてると思うといろいろ考えちゃうわけ」
「いろいろ? 例えば、どんなことかしら」
「んー………………健康?」
「…………うふふ」


……なぁんでそこで笑うかなぁ。あたし、いちおー真剣なんだけど。


「ご、ごめんなさい。あまりに微笑ましくて、ふふ」
「もう! 笑わないでよぉ!」
「ふふふ、これじゃあ彼も報われているのかいないのか分からないわね」
「意味わかんなぁい」


しばらくセンリツの笑いがとまんないから、あたしはずっとむくれていた。笑いがとまってもなんかむかむかしたからいつもよりたくさん買い物しちゃったら今度はエリザが笑ってきたから、今日は徹夜でトランプすることにした。今夜は寝かせないぞぉ。



***



「あたし占いって信じてないのぉ」


珍しく飾りの着いてない自慢の髪の毛。ピンクなんて最初はバカっぽくてあり得ないと思ってたのに、なんの手入れをしなくても天使の輪っか出放題だったから気に入っちゃった。ふわふわな手触りの毛先をくるくる指に巻いて、何となく思ってたことを口にすれば、目の前のお兄さんは意外そうに片眉を上げた。


「それって言っちゃって良かったの?」


君の専売特許なのに。

真っ黒な綺麗なお目々をまん丸にすると初めて見た時より可愛く見える。やっぱり素敵な人だなぁ、とガン見しながらオレンジジュースを飲んだ。カラカラだった口の中が安っぽい味でいっぱいになる。ていうかオレンジジュース。勝手に頼まれたんだけど、これはお子様扱いされてるってことぉ?可愛い顔して辛辣な人。

じーっと見つめてたら会話が止まっちゃってたみたいで、お兄さんが指をトントンし始めた。あー、これ大人がイライラしてる時によくするやつだぁ。急かされてる感バリバリの空気だけど、そんなのどーでもいいかなってあたしはさっきの返事をゆっくり言った。


「いーの。それ信じてるのパパだけだから」


占いなんてインチキ、フツー信じるわけないじゃん。



***



「あなたは、分かっていましたね」


怖い顔したクラピカがあたしのところに来た。いつもどーり、ぬいぐるみとお菓子だらけの素敵なお部屋。大きなベッドと大きなクッション。大好きな可愛いお洋服を着れて、大好きな可愛いネイルができて、可愛くて素敵で幸せな生活。

そんなあたしにクラピカはもう一度言う。


「あなたは、占いができなくなることを分かっていましたね」


静かな声。静かな目。でも、なんでかなぁ。茶色く見えるのに、本当は赤くキラキラしてるんじゃないかなぁって思っちゃった。


「ボス、聞いているんですか、ボス!」
「だーかーらっ! なんでそんなに頭いーかなぁっ!」


あたしが急におっきい声出したのが意外だったのかちょっとだけびっくりしたみたいに動きが止まった。ていうかあたしもこんな声が出るなんて思わなかった。けど、なんかもう疲れちゃったからいいかなぁと力を抜いたら、声が全部大きくなっちゃって、止まらなかった。


「それでは、肯定するんですね、ボス」
「そーだよ! こーてーするよ! うんうんうんうん! あたしは自分から幻影旅団団長クロロ=ルシなんとかさんに能力を教えに行きましたぁっ!!」
「なっ、団長と接触していた、!?」
「はいしてましたぁーっ! してましたよぉ! だって知ってたから会ったんだもんっ! 欲しがってるっぽいから"ほらよ"ってあげたのぉ! コンセツテーネーに説明して使ってる感覚とか感想とかあられもないとこまで教えてきたのぉ!」
「あ、られ……いや、何故、そんなことをしたのですか!」
「いらなかったからよぉ!」


あ、ヤバい。ここで止まんないと言っちゃいけないことまで言いそう。だけど、いつも以上によく動く口は止まってくれそうにない。

あれぇ? そもそもなんで言っちゃいけないんだっけ。知られたくなかったから、なわけじゃないし。言いづらかったから、だったらこんなにペラペラ動いてくれるうちに言っちゃえばいいんじゃん。

じゃあ言っちゃっていーじゃん!

あたしはこれまでで一番大きく口を開けて叫んだ。



「こんな能力いらなかったのッ!!! あたしは占いのために生きてんじゃないのぉ! 占い好きだからって占いに価値食われるようなニンゲンになりたくなかったのぉ! 分かる!? あたしはナマエ! ノストラードファミリーの占い女じゃなくてナマエ=ノストラード! ホレホレ占ってお金産む人形のまんまパパの出世の道具になるくらいなら無能のタダ飯食らいのヒモ女になって捨てられたほうがマシ! ナマエって呼ばれないくらいなら殺されたほうがマシ! 分かった!? ……分かったならこのメモ読んでどっか行けばぁ?」


あたしのオトモダチの連絡先。オトモダチというには年が行き過ぎてるオジサンオバサンだけど、この組よりはよっぽど安定した組だと思う。紙飛行機にしたそれを軽く投げたらちょうどクラピカの額に当たった。こんな時だけナイスコントロール。驚いて目をまん丸にしたまま動かない彼。もう用はないから無視してクッションに顔を押しつける。この柔らかさともあと何日かなぁ。


「…………あなたの考えは、分かりました」


無視。


「けれど、あなたに占い以外の価値を見出している者がいることを、あなたが分かってください」


無視。


「あなたが死んでもいいと、私は思わない」


無視。


「聞いているんですか、ナマエ」


む、し……?


「なーんで、今名前を呼ぶのかなぁ」
「そうしないとあなたは聞かないでしょう」
「さすがぁ、頭いーだけに分かってますねぇ」
「ふざけないでください」
「ふざけてるのはクラピカのほうじゃなぁい? もう関係ない組の娘に媚び売っても意味ないのに」
「私はまだこの仕事を辞める気はありません」
「はぁあ?」
「この組で、やるべきことがまだあるんです」


本当に意味わかんない。ベッドに倒れこんだままちょっと考えてる間に右手が温かいものに包まれた。人の手、かなぁ。いつぶりだろ、パパ以外の手の平に触るの。あれぇ?もしかしてなかったかも。そう思ったら勝手に顔が上がってて、すぐそこにクラピカの顔が近付いていた。


「え?」


笑ってる。ちょー優しい顔、してる。それを、あたしに向けてる。え、夢でも見てるのかなぁ、これ。



「私が、あなたに価値を見出します」



ナマエ、って。クラピカはなんだか甘ったるい声であたしの名前を呼んだ。



主人公:ネオン=ノストラード(デフォルト)

ノストラードファミリーのボスの一人娘。見た目は原作通り、というか旧アニメ通り。ネオンは水色よりピンクのイメージが強かったので。新アニメ派の方はすいません。原作通り天使の自動筆記で占いして幻影旅団の団長に盗まれました。このお話では盗まれに行きました。原作より緩いというかウザい喋り方。それ意識しすぎて書きづらさマッハで私が死んだ。
実はこの主人公、一応転生した原作知識有の子だけど成長と共に忘れていって今ほとんど覚えてません。無意識になんかの記憶が浮いてくるくらい。だから団長の能力知ってたし、クラピカが復讐に執着してるのも知ってた。

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