遠い未来、僕らはまた平和を願った



この星は6度の流星が訪れ、6度欠けて6個の月を産み、痩せ衰え、陸がひとつの浜辺しかなくなったとき、すべての生物は海へ逃げ、貧しい浜辺には不毛な環境に適した生物が現れた。

月がまだひとつだった頃、繁栄した生物のうち、逃げ遅れ海に沈んだ者が海底に棲まう微小な生物に食われ、無機物に生まれ変わり、長い時をかけ規則的に配列し、結晶となり、再び浜辺に打ち上げられた。


それが、


「僕たちなんだよね?」


薄荷色の短い髪を揺らしながら、彼は首を傾げた。


「そうよ、フォス」


私の濃い緑の髪よりも光を美しく魅せるその色は、狙われる理由がよく分かる美しさだと思った。


彼は、フォスフォフィライトは私たちの中でも末っ子で、硬度が三半という非常に脆い身体を持っている。その上、月人たちが好きな美しさを持っているから、私たちは目が離せない。

なのに彼はよく動き回って色んなことにちょっかいを出そうとする。彼が関わると事が大きくなるからと、みんなが苛立ったり苦笑したりするものだから、いじけて私のところまでやって来たのだ。

永遠にも似た時を生きる私たちにとって、つい最近生まれたばかりの末っ子は可愛がりたいもの。彼らはフォスを彼らなりに可愛がってるのだけれど、本人は全然気付いてないみたい。


私の寝台でゴロゴロと寝っ転がりながら私の話に耳を傾けるフォス。本当は一緒に寝転んで思いっきり抱き締めてあげたい。けれど彼の硬度は三半。六半の私と擦れ合っただけで医務室行きになる危険がある。


「難儀なものね」
「ナンギ?」
「んーん。なんでもない」


髪と同じく輝く瞳を見つめ返して、出来るだけ優しい手つきで頭を撫でる。触り慣れた硬質な感触を愛しく思いながら、私は目を細めた。


月人たちが、私たちを装飾品にしようと襲ってくる理由は分からない。巨大な黒い雲に乗り、さも穏やかそうな笑みを浮かべながら私たちの体を粉々に砕くのだ。

たくさんの弓矢で雨を降らせながら、私たちを月に連れ去ろうと手を伸ばす。


その絶望を、私たちは知っている。


こんなにも穏やかな時間がこの星には流れているというのに、それは永遠ではない。


「儘ならないことね」
「ママ……? もう、ナマエはいっつもそうやって自分の世界にはいっちゃうんだから」


何かフォスが言ったような気がしたけど、布団に深く潜り込んでしまった彼の機嫌を治すのは一苦労で聞き出すことを忘れてしまった。

そして結局、フォスが寝台から飛び出した頃には夕方に差し掛かっていて、煩いと騒ぎながら入ってきたモルガに彼は連行されてしまった。廊下から聞こえる愉快な声たちが遠退いていく。さっきまであんなにニコニコ笑っていたのに、今はその声たちを聞きたいとは思えなくなっていた。


「ああ、寂しかったのね、私」


単純だわね、本当。

ぐちゃぐちゃの寝台を軽く整えて、私は部屋から外に出る。こんな時は彼に会いに行こう。崖の下で独り空を見上げる彼に。

青と茜色の混ざり合った不思議な空の下、私は気持ち早足でその場所を目指した。


昼が終わって夕を経て、暗い夜の世界が顔を出す。彼が閉じ込もった寂しい世界。静かな時を彼の隣りで過ごすことはとても落ち着くから。



ヘリオライトが連れ去られた悲しい場所を目指して、風に揺れる草原を踏みしめた。




その日、月人の襲来はなかった。


主人公:ネフライト(デフォルト)

硬度六半。翡翠の一種。ジェードの妹分。穏やかで平和的な性格。ダイヤと波長が合うが、一番落ち着くのはルチルやベリルなどの補助組。たまに寂しくなるとシンシャにちょっかいを出しに行く。
本来ジェードとはジェダイト(硬玉)とネフライト(軟玉)の総称であるため、ネフライトが生まれる予定はなかったが、何故かジェードと共に生まれた。同じように生まれたのにジェードに硬度や靭性が劣っているため密かに自身を卑下している。

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