偉大なる末っ子



※「ポール・バニヤンの逸話がワンピに存在する」「主人公がバニヤンみたいに伸び縮みできる」ってだけの微妙な混合要素。成り代わりのつもりで書いていません。
※転生要素は薄いです。



シャーロット家40女シャーロット・ナマエは影が薄い子供だった。というのも無邪気に邪悪な元末っ子アナナが幼気な悪戯をしょっちゅう繰り返し子供たちをキャーキャー言わせていたので、その次に生まれてきた現末っ子のナマエに兄姉たちの目が行きにくかった。

なにせこの末っ子、大海賊ビッグ・マムの子供とは思えないほど大人しかった。

レモンイエローのふわふわショートヘアに蜂蜜色の大きな瞳。子供らしいふくふくとしたほっぺた。短い手足でよたよた歩く様はいつまで経っても赤子のよう。身長でいえば一つ上のアナナより高いが体力は誰よりもない。朝昼夕ご飯も十時と三時のおやつも寝る前の悪い子のアイスもしっかり取って良い子のおやすみタイムも欠かさない。それでもナマエはどことなく不健康に見えた。

弱々しい。内気で繊細。陰鬱。凶器を持って駆け回る子供たちを尻目に図書室にこもるような子供だった。そのせいで弟妹たちに大人気なカタクリやオーブン、ペロスペローを差し置いてナマエが懐いたのはモンドールである。


「モンドールお兄ちゃん、私ね、いつものご本が読みたいの」
「またか。本当にナマエはアレが好きだなァ」


ママのための希少生物収集本の管理を任されているモンドールは、定期的に本の状態を見に図書室に入り浸る。それを狙っているのか、はたまた息を殺してずっといるのか。呆れたモンドールの声にナマエは儚く笑う。くったくのない幼女の笑みすらどことなく薄暗い。妹でなければモンドールとてここまで面倒を見ていなかった。

お気に入りの“ホラ話トール・テイル”を広げてソファに行儀悪く寝転ぶナマエ。本を読んでいる時の妹は幾分顔色が良くなる。こうして見るとフランペなんて目じゃない可愛らしさなのに。どうしてこうも病弱なのか。


「モンドールお兄ちゃんは海賊だからいろんな海を知ってるんだよね」
「ん。ああ、そうだな」
「じゃあ、西の海でポール・バニヤンに会った?」
「おーおー、遠くからチラッとな」
「えーー!」


会うわけねぇだろ、“ホラ話”なんだから。

巨人族でもない人間が生まれつきママより大きな体で島中の木を切り倒し湖を飲み干し何十頭もの牛を食べ尽くす。海賊ではなく山賊が酒の席で笑い飛ばす作り話をナマエはことさら気に入っていた。


「私もポール・バニヤンみたいになりたいなあ」
「ならもっと丈夫にならないとなァ。このままだといつおっ死ぬか分かんねェぞ」


ワシワシと金色の髪をかき回してやるとくすくすキャラキャラ末っ子は笑う。モンドールの乱雑な手つきが最大限に力加減に気を使っているなんて思わないだろう。

見てくれはまあいい方だ。6つで文字もすらすら読めている時点で頭も悪くない。問題は体力のなさと邪気のなさ。カタクリやスムージーまでとはいかないが、せめて並みの戦闘力を身に着けるか、頭脳を生かして戦術面で力を付けるか、美貌を磨いて諜報や撹乱に使うのもいいかもしれない。とにかく、何らかの能力を養っておかなければこの妹には政略結婚の道しか残されていないだろう。いや、それならまだ良い方で、最悪はママの庇護欲を煽る十歳以下の枠からあぶれた瞬間、役立たずとしてママに殺されることだ。

猶予はあと四年もない。四年後にシャーロット・ナマエはこうして本を読んでいるのだろうか。

海賊としては真っ当すぎて、兄としては当然で、心配事としてはちゃんと異常なモンドールの束の間はある時終わる。

ママが客人を招く地獄のお茶会とは違う身内だけの無礼講。普段はお城で大騒ぎのチビ達も招き入れられた家族団欒のお茶会で、ナマエは本性を現した。


「ごめんなさい、ごめんなさぁい!」
「これはいったいどうしたんだい。泣いてたら分からないじゃないか」
「だってだって、ママ、ママ!」
「おれに話しておくれ。泣き止んで、ゆっくり、ちゃぁんとだ」


真っ二つに折れた大テーブル。空っぽのまま割れた皿。忽然と消えたケーキの山。ペタンと座り込んでエンエン泣く末っ子は9mのママと同じ目線だった。座っていて、同じ目線なのだ。


「ママ、大きな人きらいだって、怖い顔で怒るから、私のこと嫌いになると思った」


ザッと蒼褪めたのは弟妹思いの兄姉たち。ママの巨人族に対するコンプレックスはいくら幼子であろうと触れて良いものではない。庇おうにも巻き添えを喰らって最悪死ぬ。末っ子可愛さと自分可愛さが天秤の両側でガシャンガシャンッ。子煩悩な部類の面々が血反吐を吐く勢いで「ママ」と止めようとした。

けれど、奇跡的にママは怒っていなかった。


「どうして黙っていたんだい?」
「ま、ママに、嫌われたくなかったの。ママ、嫌いにならないでぇ……」
「嫌いになんかなるもんかい。それよりもお前ェ、そんなに大きな体でアナナと同じだけの飯しか食ってなかっただろ。あ? 腹が減って仕方なかったんだね。こんなにたくさん食べれたんならもっと持って来させたのによ」
「だって、たくさん食べたらもっと大きくなっちゃう!」
「大きくなりな! おれの娘だ! 大きくて何が悪いってんだい!?」
「ほ、ほんとぉ……?」


大きな大きな蜂蜜色の目から涙の雨が降り注ぐ。チビ達用に積み上げられたケーキもクッキーもシュークリームも何もかも、乾杯の合図と共にすべて平らげて巨人族と同じ背丈まで伸びに伸びたナマエ。ママは慈愛の目を細め、真っ赤な唇を悪魔の如く吊り上げた。


「お前ェは自慢の娘だよ、ナマエ」


可愛い末っ子。ママに嫌われたくなくて足りない食事に苦しんできた大きな女の子。空腹で倒れそうなのを隠して外遊びなんてできなかったナマエ。

ママに覆い被さるように抱き付いたその背の肩口から上機嫌な「ママママハハハ〜〜〜ハ!!」が響いていた。

ローラが家出し、シフォンが突き返された巨人族との縁談。巨人の如き巨体を持つナマエなら新たな縁談を組めるのでは。ママの野心は聡い兄姉たちにすべて伝わった。

シャーロット家の目立たない末っ子はこの日、ママの夢の実現に必要不可欠な道具として注目の末っ子になったのだ。



***



充分な食事とおやつを取るようになったナマエは、元気に下の子たちに混ざって走り回るようになった。

風船で飛んでいるドルチェとドラジェを追いかけ、3mの巨体によじ登って来た小さい子たちはちょっとしたアトラクションのように楽しんでいる。病弱なんてとんでもない。ただの栄養失調があの陰鬱な表情の正体だったのだと分かれば、心配していた方が馬鹿らしくなる健康優良児だ。

図書室のソファに寝っ転がる幼子の姿はもうない。いい意味で、西の海の“ホラ話”はお払い箱になってしまった。

成長すれば巨人族の男と番わせる。ママの夢物語を直々に聞いた長兄からそれとなく話は回り、世話焼きの兄姉たちはナマエを見つけるたびにお菓子を配っている。政略結婚の前に栄養失調で倒れられてはかなわないし、何より例のお茶会は彼らにとって衝撃的だった。

チビ達の歓声が悲鳴に変わり、目を向けた先での末っ子の暴走を見る。一心不乱に両手でケーキやシュークリームを鷲掴み口の中に放っていく。この時点でナマエは目測4mのサイズに伸びていた。テーブルの奥のケーキが届かなかったのだろう。意識が朦朧とした理性を感じさせない瞳はお菓子だけを映していた。ケーキがなくなれば隣のテーブルのケーキを取る。そのためにまた背を伸ばす。腕を届かせるために大きくなる。それを繰り返し、繰り返し。最終的に16mまで背を伸ばして正気に戻った。

ママよりデカい幼女、という迫力もさることながら、まるで浮浪児が一週間ぶりにありつけた食事に噛り付くような必死さも衝撃だった。この飽食のホールケーキアイランドで食べ物にがっつくのは“食いわずらい”のママくらいなもの。

末っ子は確かにビッグ・マムの子供だった。

幸いと言うべきか、ナマエは生来の素直さを持っていた。ワガママも癇癪も持っておらず、兄弟姉妹が優しく語り掛ければ話を聞く。よく分かっていなさそうに首を傾げたり不安げに「そうなんだ」と返されることはあっても逆らうなんてことはそうそうない。栄養さえ与えておけば“ちょっと”デカいだけの普通の女の子だった。

ゆえに兄姉たちは末っ子の餌付けに余念がない。特にお菓子を出せる悪魔の実の能力者はしょっちゅう妹に手品よろしくご機嫌を取っている。第二のママが生まれるなんてことは絶対に死守せねばならない。

生憎と、モンドールのブクブクの実は食べ物関係に特化した能力ではないので、ナマエの方から寄ってこない限りは接する機会はほとんどなくなってしまうのだけれど。


「おおなるほど、寂しいのかモンドール」
「どこをどう見たらそうなるんだモス兄」
「おや、そういう話じゃなかったのか?」


ジェラートのレシピを借りに来たモスカートがのん気にからかってくる。せっかく図書室を開けてやったのにこのザマか。モンドールはわざと大きな舌打ちをした。


「わざわざ末っ子に構いに行くおまえは珍しかったのになぁ」
「行ってねェよ。ジェラート大臣が油を売ってする話か?」
「兄弟との会話は息抜きになるだろう」


青髭に似合わぬ爽やかなセリフだ。もう一度舌打ちをしかけたところで、入り口の扉がゆっくりと甲高い悲鳴を上げた。


「も、モンドールお兄ちゃん」


ナマエの来訪だった。


「かくれんぼか? 本の中には隠してやんねェぞ」
「ちがうよ。あのね……」


久しぶりに見た末っ子。いつもは3m前後の大きさで歩き回っている6歳児が、今は以前の1mの姿でもじもじ扉の隙間から顔だけ覗き込んでいる。どうやらあまり話したことがないモスカートに人見知りを発動したらしい。 

ようやく決心がついたのか、熱々パンケーキの上のアイスクリームみたいに定まらない声音でポツリ。


「ポール・バニヤンごっこしたくって、バニヤンの斧、ご本から出してほしいの」


そんなものそこらのチェス戎兵にでも武器庫から持ってこさせればいいだろう。

口に出しかけて、モスカートが無駄に爽やかな顔で首を振る。言わんとしていることが分かってしまい、モンドールは巨大ソファのアームレストから飛び降りた。


「あのサイズはおまえにゃまだ早い。こっちの手斧で我慢しとけ」
「やだぁ、ポール・バニヤンのがいい!」
「ガキが危ねぇだろ!?」


甘え甘やかす仲良し兄妹にモスカートは盛大な拍手を送った。



***



実際のところ、ペロスペローは例のお茶会があるまで末っ子ナマエの存在を忘れていた。

そりゃあ85人も弟妹がいて、つい六年前に生まれた赤ん坊のことなんて日々の激務を考えれば記憶の彼方に吹っ飛ぶ。

アナナやドルチェ・ドラジェの双子、反抗期に突入秒読みのアングレ、愛されたがりのフランぺ、従順さにおいてはママのお気に入りプリン。自己主張をちゃんとする弟妹たちに慣れてしまうと、図書室の隅で静かに寝転がるナマエはどうしても印象が薄くなる。

だが、例のお茶会でペロスペローは確信した。
アレは放っておけない妹だ。


「おお、ナマエじゃないか。ごきげんよう」
「ふぁっ、ぺ、ペロスお兄ちゃん。こんにちは」
「挨拶ができて偉いね。いい子のナマエには特別なキャンディをあげよう」
「だっ大丈夫だよ!」
「この兄に遠慮なんて悲しいことはやめなさい。ペロリン!」


子供は甘いお菓子が好き。とりわけカラフルなキャンディは目にもまぶしくいつまでも溶けない夢のお菓子だ。女児が好むようなパステルカラーの大きなぐるぐるキャンディー。大きなナマエのために顔ほどもある。見た目だけじゃなく味もいいペロスペロー渾身の逸品だ。夕飯までに食べきれなくて『まだ舐めてるのにぃ!』と泣く子らを何人も見てきた。


「あ、ありがとぉ、ペロスお兄ちゃん……」


なのに、なんだこの反応は。

こんな嘘がつけなさそう子供がどう見ても社交辞令的なお礼を言いながらキャンディを受け取る。複雑そうにカラフルなキャンディの棒をくるくるイジイジ。長兄らしいスマートな態度の下でコメカミがピクピクッと痙攣した。


「好きなだけ舐めていいんだぞ。なくなったらまた出してやる」
「うん……」


ペロスペローは末っ子に怖がられている。

ベスト兄ーティスト賞3位(※フランぺ調べ)の長兄に妹は心を開かない。スムージーの手絞りジュースもクラッカーの叩いて増えるビスケットもカタクリのもちで作ったおしるこも楽しく食べていたし、オペラのクリームも見た目的なアレさで回りが止めなければ溺れるように口にしたに違いない。悪魔の実の能力でできたお菓子に忌避感があるわけではなく、ただ純粋にペロスペローから距離を取っている。

嫌われているなんて絶対に認めないが。

まさかキャンディが嫌いとか?
いやいやこんな甘いお菓子を嫌う子供がどこにいる。
ということは本当におれは嫌われてるのか?
ぐぬぬぬぬぬぬ。

ペロスペローとてここまで末っ子のご機嫌伺いに時間を割くような暇人ではない。嫌われているなら嫌われているで、他の兄弟たちに世話を任せればいい話だ。だが、ナマエは将来政略の駒として利用することが決まっている。それも巨人族。かの一大勢力を誇るエルバフの戦士とビッグ・マム海賊団の橋渡しをする役目を担うのだから、長兄であり兄弟たちの指揮権を持つペロスペローが没交渉になってはいけない。いざというときの連携が取れなければ意味がないのだから。


「そうだナマエ、おもちゃには満足しているかい? 私の手にかかればこぉんなクマちゃんだってキャンディで作れちゃうんだぜ?」
「も、もぉいらないっ! たくさんもらったもん!」


ダッと駆け出した3mの巨体。

巨大クマちゃんキャンディー片手に取り残された50歳男性。

偶然に通りすがったクラッカーがポンと兄の肩を叩いた。


「構いすぎは嫌われるぜ、お兄ちゃん」
「ふん。懐かれているお前が言うと一味違うなァ」
「おいおいキレるなよ! 子供を甘く見たペロス兄が悪ぃぜ!?」


「キャンディじゃ腹は膨れないよなァ」手を叩きながらスタスタ歩いていく得意げなクラッカー。さらにまた後ろからクールな「あんなパサパサしたもの食べ続けたら喉が渇くだろう。どれ、ひと絞りしてやるか」とスムージーが続き、置いていかれたペロスペローは余計に気分が悪かった。お前ら仕事はどうした。

それにしても、クラッカーにスムージーがあそこまで可愛がるとは。


「もしかしてあのガキ、四将星にばっか懐いているのか!?」


ママに目をかけられ、四将星にまで気に入られ、ペロスペローには距離を置く末っ子。これは将来のことを見据えて無意識に強者におもねり、長男のたる自分は眼中にはないという一種の侮りではないか。

あの子供、大人しい顔をしてずいぶんと食えない性格をしている。


「結婚させるまで時間はたっぷりある。今はああでも、考える分別がつけばどちらに味があるか分かるだろうさ。くくくく……!!」


ステッキキャンディーをペロリン舐めながらぐつぐつと謎の闘争心を煮えたぎらせるペロスペロー。そこにモンドールがいれば「兄貴のベロが怖いんじゃねぇか?」と情け容赦もなくぶった切れたのに。傷心の長男は明後日の方向へと考えを飛ばしまくった。



***



「うんしょ、うんしょ」
「いぃやぁぁあああああ!!」


最近7つになったナマエは、モンドールから手頃な斧を渡されては誘惑の森に繰り出している。


「とりゃぁ。わーい倒れるぞぉ!」
「おたすけぇぇぇぇ!!」


5mまで伸ばした巨体で木のホーミーズを切り倒してみせた。達成感にふんすふんす鼻を鳴らす。


「そんなに楽しいかい?」
「たのしいよ、ポール・バニヤンごっこ!」
「そうかい。ナマエが楽しいなら言うことはないよ」
「ブリュレお姉ちゃんはお仕事いいの?」
「ウィッウィッウィッ! あんたを見てることがアタシの仕事なのさ」


1mのナマエならギリギリ通り抜けられる大きさの鏡を木に立てかけ、そこに向かってお話すればブリュレが鏡の世界から覗き込んでくる。一人で出かけさせるには危ないけれど、監視の目があるならいい。兄姉たちで話し合い、暇なときは“鏡世界ミロワールド”からブリュレが見守ることになった。

40近く年が離れてしまうと下の子との関係は没交渉になりがちで、積極的に接点を作らなければお互いに血の繋がった他人になってしまう。兄弟姉妹想いのブリュレは特に小さな弟妹たちが気になって仕方ない。


「えーい」
「きゃあ、ひとごろしぃいいい!!」
「人じゃなくて木なのに?」


また一本自然破壊を着々と進める末っ子。ブリュレはなんとなく、今なら聞いていいかもしれないと柔らかい声を出した。


「どうしてポール・バニヤンになりたいんだい?」


他の子たちは、四将星に憧れ、ペロスペローに憧れ、最後にはママの強さにひれ伏す。外の海賊に憧れる者もいれば海への冒険に憧れる者もいる。

なのにナマエは本で読んだだけの西の海の巨人ポール・バニヤンの真似をする。

ギンガムチェックのシャツに黒いリボンタイ、白いエプロンドレスに黒いタイツ、ショートブーツの可愛らしい恰好には似合わない麦わら帽子を被って、銅の斧を目いっぱい振りかぶる。汗を垂らしながら必死に、着実に。悲鳴を上げるホーミーズを切り倒して満足げに汗をぬぐうのだ。


「ママ、大きい人きらいでしょ?」
「……ママがいるところで話しちゃダメよ?」
「うん。今ママはいないもん」


それはそうだけれども。
急に出されると冷や汗が止まらない。


「ポール・バニヤンはね、何をしてもみんなが笑ってくれるすごい大きい人なの。お山を一日で丸裸にしてもね、飲み物をためておくために穴を掘って湖にしてもね、豆を落とした湖ごとあっためてスープにしちゃっても、たくさん失敗してもみんなが笑ってくれるの! ポール・バニヤンはしょうがないやつだって!」


末っ子は夢見る子供の瞳でブリュレを見つめるけれど。
内容は幼児らしくフワフワと掴みどころがないけれど。


「私が大きい人でも、みんな笑ってくれたらいいなぁ」


切実さは、ただの子供だとは思えなかった。

生まれつきの大きさは普通の子供だった。成長スピードも普通の子供。なのにいつの間にか体の大きさを意のままに操れるようになった。頭身は変わらずに遠近法が狂ったような巨体でママの背を優に超えた。これで父親の方に巨人族の血は流れていないのだから、ママの方の血が濃いと考えるしかない。

体の大きさをコントロールできる、なんて。悪魔の実の能力もなしにどうやってできるのだろう。ナマエの言葉の端々から滲む“疎外感”の正体はそこに隠れているのだろうか。


「それとね、あのね、ブリュレお姉ちゃん言ってたよね、カタクリお兄ちゃんは地面に背中をくっつけたことがないって」
「ええ、ええ、そうさ! カタクリお兄ちゃんは地面をも見下す男だからね!」
「でも、……ベッドに寝れないのはたいへんだよ?」


斧を置いて5mの巨体のまましゃがみこんでもじもじ。人差し指で手遊びをしながら、きょどきょど目をさ迷わせて、末っ子は。


「おうちも、椅子も、木も、たくさんたくさん、寄りかかれるものぜぇんぶ地面ごと平らにしちゃえば、カタクリお兄ちゃんもベッドで寝てくれると思うんだ」


ずっと心のうちに仕舞い込んでいた将来の夢を打ち明けるように、そんな無茶苦茶なことを言うものだから。ブリュレは目を見開いて、それから大口を開けて笑ってしまった。

妹が傷付けられた日から完璧な兄でいる自負のまま現在まで立ち続けるカタクリ。その意志を肯定するためにずっと兄を讃えてきたブリュレ。ある種の男の意地を末っ子は物理で解決しようと提案してきたのだ。

なんて偉大なことだろう。


「ウィッウィッウィッウィッウィッ!! それじゃあ、ママの街までなくなっちまうね!?」
「あっ」


「ま、ママには内緒ね?」顔を真っ赤にして半泣きになっているナマエ。ブリュレは笑いすぎて火照る顔をそのままに、偉大なる末っ子を鏡の中へと引き入れた。



***



どんな理由だったかは覚えていないけれど、あの日プリンは末っ子の記憶を切り取った。

むしゃくしゃしていて、どうにも吐き出したくて、誰もいないと思った図書室の一角で有らん限りの罵詈雑言を並べ立てて。スッキリした気分のまま帰ろうとしたところで、隅っこで本を抱えて怯える子供を見つけたのだ。

自己主張のない末っ子。ママの血が流れているのが不思議なほど、静かで、臆病で、誰にも相手にされない子。いじめるつもりなんてない。怖がらせる気も微塵もなかったのに、これは失敗した。


「泣いて怖がってばかりじゃ、奪われるだけよ」


震える子供に近づいて、そっとコメカミからフィルムを引き抜いた。

メモメモの能力で不要な記憶を切り取り、これで一安心、となったところで。ふと、コメカミに変なしこりがあることに気付く。

「なに、メモリーが、別のところにもある!?」いつも引き抜くところから、ほんの少しズレた場所に別のメモリーが埋まっている。こんなこと今まで一度だってなかったのに。

恐怖と好奇心、そして見なければいけない使命感が渦巻き、プリンは勢いよくもう一つのメモリーを引き抜いた。

黒い砂嵐。
粗い質感。
人影しか見えない人物。
見下ろす目。
か細い手足。
読めない文字。
大きすぎる服。
床。
知らない小鳥。
靴。
絵本。
割れた皿。
床。
ゴミ。
床。





暗闇。



***



ナマエは自分が生まれ変わった自覚がほとんどない。人間としての自我が確立し始めた幼児期に固形入浴剤をのどに詰まらせて死んだからだ。

お腹が空いていたんだと思う。外国のキャンディのようにカラフルで美味しそうだった。“ママ”がよく置いていく絵本に似たお菓子が描かれていた。絵本の読み聞かせをされた記憶はないけれど、本を読むと『アタマ ガ イイコ ニ ナルワ』と喜んだので、読めない本をよく開いていた。泣かずに本を読めば“ママ”は褒めてくれた。

死んだ自覚もないまま、ほとんど地続きの記憶を持って生まれ変わった。

初めて触れたママの体温は本当に初めての体験だった。抱きしめられた記憶がないのだから、皮膚と皮膚がくっつく感触はなんだか泣きたいくらいに温かくて、でも泣いたら“ママ”が怖いので、できるだけ泣くのを我慢した。ママは「産声も上げないってか。たいした娘だね!! ママママママ!!」と笑ってくれた。

空腹は日常的で、放っておかれるのも当たり前で、絵本のお化けみたいな人達が家族を名乗るのが不思議だった。不思議に思う自分のこともやっぱり不思議だった。

お兄ちゃんとお姉ちゃんに囲まれて、普通に会話して、何回もごはんやお菓子を食べて、温かいお風呂やベッドがあって。前世の自我に接木されるように少しずつ育まれると、“ママ”はどうして自分を見てくれなかったのか疑問に思った。


(私が小さすぎて“ママ”には見えなかったのかな。)


この疑問に応えるように、体が大きく伸びたのだ。一人部屋の天蓋ベッドいっぱいにぎゅうぎゅうと、子供の体は無視できないほど。慌てて元のサイズに戻ったところで動悸はいっそう大きく早く。

あまり覚えていないローラお姉ちゃんが出て行ってからママは大きな人間のことが嫌いらしい。大きくなった自分も大きな人間で、つまりママは自分のことを嫌いになるかもしれない。嫌われたくない、と思うのは仕方のないことだ。

それから一層、ナマエは隅っこで静かにするようになった。

あのお茶会の日までは。



「ママ!!」
「ナマエかい。そんなに走ってどうしたんだ」


ホールケーキ城の大きな廊下を歩くママを見つけると、ナマエは瞬く間に9mまで大きくなった。


「ママ、ギュッてしていい?」


ナマエはスキンシップが大好きだ。あのお茶会以来、もしかしたら生まれた瞬間に手のひらで持ち上げられた時からかもしれないが、ママに触れられることがたまらなく嬉しい。とりわけ同じ身長で抱きしめられることが何より幸せだった。


「お前ェもう7つだろう。いつまで赤ん坊気取りなんだい」
「え……。赤ちゃんじゃないとママにギュッてしてもらえないの?」


この世の終わりのように真っ青になった末の子。素直すぎる幼子は少し頭が足りない。こんな甘ったれは海では生きていけないだろう。それでも母に縋りつくいとけなさに目尻を下げてしまったのは、四皇ビッグ・マムも人の子だったということか。


「ママママ〜〜!! 来な、優しく抱いてやるよ!!」
「! うんっ!」


幼子の遠慮会釈もないハグがタックルのようにママにぶつかる。難なく受け止めて抱きしめ返すと何が楽しいのかもっともっとと背に回る手に力が入った。

いろんなお菓子と香水と化粧と石鹸となんだかよく分からない体臭。親子のにおいが混じり合い、お互いのなんとも言えない体温に体の力が抜けていく。

ナマエはママのハグに満足していたけれど、同じようにママも不思議な感覚に囚われていた。

幼い頃のシャーロット・リンリンは物心がついた頃には既に親を見下ろす巨体であり、全力を出せば人死を出す化け物だった。誰も自ら触れようなんて思わなかった。……親にすら、抱きしめられた記憶がない。

愛するマザー・カルメルだって、あの老体でリンリンに抱きしめられれば重傷を通り越して死ぬだろう。不可抗力でくまさんを殴り殺したリンリンだって、それはしちゃいけないと無意識に自制していたはずだ。

本当は抱きしめてほしかったのだと、こんな歳まで見て見ぬふりをしていたなんて。


「(おれも歳を取ったねェ……)」


歳は取りたくないものだ。

海の皇帝。自他共に認める化け物とて、人の子であり寂しい子供であった。腹が減って悲しいのも、抱きしめられなくて悲しいのも、ひとりぼっちで悲しいのも、いつかのシャーロット・リンリンに違いない。

自分にしがみつく幼子の柔らかさに、ママはしばし、ただのリンリンを想った。



***



事件は突然に。プリンとジェルマの三男との結婚が控えたある日のことだ。

ママの“食いわずらい”が発症する直前、ナマエはママとすれ違っていた。ママがホーミーズのお歌を聞かせてくれると言っていたから、3mの巨体でドッタドッタ廊下を歩いていたのだ。

それがすっぽかされた。


「ママ? どこに行くのー!?」


鬼気迫る勢いでクロカンブッシュを求めてホーミーズの死体を量産していくママ。ママの“食いわずらい”は幸いなことに下の子たちがいる前で起こったことがない。特にママに関する恐怖心が死んでいる末っ子は、何も考えずにママの軌跡を辿り、遅れて首都スイートシティに到着した。

巨大な幼女とはいえ幼女は幼女。お城から首都まではそれなりの距離がある。息切れしながらなんとか騒乱の街に足を踏み入れれば、ちょうど待っていたのは血走った目でモスカートに顔を近づける半狂乱のママ。


「Life or Tre-」
「ママ!!」


魂への言葉ソウル・ポーカス”。無慈悲な魂への選択は、相手の耳に呪文として届かなければ成立しない。ママに会うつもりで始めから大きくなっていたナマエは、追いかけるためにさらに大きく伸びて、12mの巨体がしゃがみ込んだママに覆い被さった。

9mのママの口を塞げる人間など物理的にも精神的にも今まで存在しなかった。抱きついてお腹で口を塞ぐなんてこと、自由自在に大きくなれる末っ子しかできない。

ゆえに、モンドールやオペラ、ガレットたちはナマエの無自覚な自殺行為に悲鳴を上げた。


「モス兄となんのお話をしてたの?」


モンドールの呼び方がうつったのね、お兄ちゃんの真似をして可愛いなぁ、なんて言ってる場合じゃない。

のん気にママに抱きついて首を傾げる子供。甘え方を覚えていっそワガママと言ってもいいくらいママに無遠慮に擦り寄るナマエ。その度にオペラがクリームを汗汗飛ばし、モンドールが頭を抱えて唸った。


「ママから離れろ! 今すぐに!」
「あのまま押さえてもらった方がいいんじゃねぇか?」
「ずっと捕まえてられるわけねーだろ!?」
「ナマエ! ママから逃げて!」


兄姉たちの慌てっぷりと、街の人たちの騒めき。ここで遅まきながら何かがいつもと違うと気が付いたナマエは、ママに抱きついていた腕をほんの少し緩めた。


「うう、うう、」
「ママ?」
「ジャマするなぁ〜〜〜〜〜〜!!!!!!」


──ボコォオオン!!

覇気は纏っていない。ハエを払うのと同じくらい何気ない拳。ママにとっては寝返りに等しい接触は、けれど。



「ひぐっ!?」



“ナマエ”にとっての、初めての暴力だった。









ナマエは家出した。

ジンベエがもたらしたクロカンブッシュによってママが正気に戻ったのを見届けず、お腹を殴られた衝撃のまま、泣き声一つ上げずに首都から走り去った。

泣いてはいけないと経験で分かっていたから。

ほとんど庭のような誘惑の森にたどり着き、いつもの道よりずっと奥の奥。“妖精さん”が埋まっているところまで着くと、「どうかしたのねーー?」という声を無視して体育座り。お話をする気力はちっともわかなくて、ジンジンするお腹を守るようにギュッと唇を噛み締めた。

その後、モスカートとモンドールがやって来て何かを言った気がするが、ナマエは一切反応しなかった。しばらくしてブリュレが鏡越しに何かを言っても動こうとせず、仕方ないとホーミーズを使って鏡の中に引き入れる。簡単な食事と寝床が用意されていた“鏡世界”で殴られたところを治療されたが、赤くなっているだけで治っているのは血筋ゆえか。

ご飯を食べて一晩過ごした後、ナマエはまた誘惑の森に出た。ブリュレはまた何か言っていたが、諦めたようにホーミーズを使って安全な森の端に移動させられた。雨だってホーミーズが傘の代わりになってくれた。でも、一言もお礼は言わなかった。

遠くからホーミーズの笑い声と爆音と剣の音が聞こえる。それもしばらくすれば無くなって、悲鳴を最後に静かになった。

ナマエはジッと丸まって考える。

ママはナマエを殴った。なのに謝らない。謝りに来ない。“ママ”は謝ってくれたのに。謝ったらもう“怖くない”の合図なのに。謝ってくれないからずっと怖い。※※は“ママ”に近付いてはいけない。殴られてひどいことを言われるから、可哀想な“ママ”に戻るまで逃げて隠れなきゃいけないのだ。

ナマエのことが嫌いなママなんて、


──「ビャァァアァァァァアアアア!!!!」


聞いたことがない声が遠くから響いてきた。

お城の方から、大地が痛み咽び堪らずあげた“たすけて”。ナマエは本能からそれがママの声だと瞬時に分かった。


「まま……」


顔を上げる。力を入れていた目から涙がこぼれる。半開きの口が、何度も何度も同じ音を震わせる。

正気じゃない“ママ”は怖い。
嫌われているから、会いたくない。


──「ビャァァアァァァァ!!!!」


でも、今のママの悲鳴は、とても可哀想だ。

ママは、シャーロット・ナマエの可哀想なママだ。



「っ、ママ……ッ!」


震えるのも忘れて、立ち上がって、一歩前に足が出て、もう止まらない。

3mの幼女が誘惑の森をドタドタ走っていく。一歩一歩が大きくて車並みの速さになっていても戦う兄姉と比べれば赤ちゃんのハイハイだ。いくらホーミーズが気を使って(薙ぎ倒されたくなくて)森の外への一本道を作ったってホールケーキ城は遠い。

だから伸ばした。ぐんぐんぐんぐん背を伸ばして手足を伸ばして、一歩が大きくなれば速さも上がる。ドッシンドッシン巨人が地面を揺らし、ついには森から飛び出した。お城は大きすぎて遠近感がバグっているけれど、見えていない時とは大違いの安心感だ。

ほんの一瞬の気休めだったけど。


──ズゥゥゥゥゥン!!!!


爆発、地響き、黒煙。ゆっくりゆっくり傾いていくホールケーキ城。

ママがいるお城が、壊れていく。



「ママぁーーーーーー!!!!!!!!」



ナマエは走った。泣きながら走って走って走って、野原を超えて街を跨いで、抱きつくようにお城に体当たりした。

ナマエの全長はすでに30mを優に超えていたけれど、お城よりは少しばかり小さい。上から傾くものを下から支えるのはかなり不利だ。目一杯走ってきてすでに息切れしている7歳の子供には重すぎる。

加えて、今のナマエは普通じゃなかった。


「ママ、ママ、やだよママぁ!」

「落ち着けナマエ! めそめそすんじゃねェ!」
「そのまま支えてろ! 兄さんたちがどうにかするから!」
「ナマエばかりに頼ってんじゃないよ!?」
「だったらどうしろってんだ!?」


屋上からやんややんやと阿鼻叫喚な兄姉たち。そんなの耳にも入らずナマエは号泣した。



「ママ、嫌いにならないで! 私を嫌わないでっ! 嫌いになりたくないよお!!」



肝心のママはマザー・カルメルの写真を壊され茫然自失。見聞色で見ていたカタクリも流石に打つ手なし。混乱が混乱を招くカオスな状況を一変させたのは、ナマエが力尽きる前にお城をケーキに変えたシュトロイゼンの能力だった。


「あっ」


硬かった壁が途端にスポンジと生クリームに様変わり。思いっきり押していた力がそのまま柔らかいものを突き破り、結果。お城はナマエの手でとろとろふわわんと抱き潰されてしまった。

横倒しになったお城。パウンドケーキをクッションにダメージゼロの出席者たち。クリーム塗れで立ち尽くす巨幼女。体中にこびりつくのはお城の成れの果てで、


「お城、壊しちゃった」


うわあん。

さっきまでのが小雨なら今は大雨タイフーン。

ナマエは大口を開けてあらん限りに泣きじゃくる。何が悲しいのかも分からない。何がなんだか分からないまま拡声兵器として既にママの奇声でやられていた兄姉の鼓膜に追い討ちをかけた。

やっぱママに一番似てるのは末っ子。カタクリのもちを再度耳に詰めながらペロスペローは苦虫を噛んだ。




***




わりかし最初から疲れ切っていたナマエは、クリーム塗れで泣きながら徐々に縮んでいき、最小の1mになるとその場で丸くなって寝てしまった。

よっぽど疲れたのか、ホーミーズたちが体を拭いて着替えさせても目が覚めない。お城が壊れてしまったから、一時的に“鏡世界”の隅っこで兄姉やチェス戎兵たちの目が届く場所で寝かせることにした。家出娘の泣き虫怪獣を一人にしては置けないという強い意志を感じる。……が、意外にしぶとい麦わら一味のせいで人員確保のために結局放っておかれることになるのだ。

幼児から目を離すのは大人がやっちゃいけないことの基本中の基本であり、最重要事項である。

疲れすぎてむしろ眠りが浅くなっていたのか。騒がしい鏡世界の隅っこでそれほど時間を置かずに目を覚ましたナマエ。ありていに言って寝ぼけていた。


「……?」


泣きすぎてガンガンする頭。腫れぼったく熱を持つ目。寝具を持ち出す時間もなかったのか、毛布代わりに掛けられていた白黒チェッカーのマントを頭からかぶりフラフラゆらゆら。

人恋しかった。誰でもいいから触ってほしかった。

だから人の喧騒がある方向へ歩いて行ったけれど、みんな誰かを追うことに必死で、どこかへなだれ込むチェス戎兵の波に巻き込まれても全然気が付かなかった。

周りもマントをすっぽり被った変なホーミーズがまさか末っ子だとは思わなかったのである。

「あわわわ」言っているうちに流されるまま鏡をくぐり、そのまま着地に失敗してゴロゴロごっつん。転がった先の壁に頭をぶつけて気を失ってしまった。ちょうど扉の影になる場所だった。


──パリィンッ!!


「いいから全部割って! 船にある鏡全部!!」



***



癇癪持ちで、ワガママで、独りよがりで、化け物で。ウェディングケーキのことしか頭にないママでも、人の親には違いなく。


「ケーキ、ここには……、?」


サニー号の壁を引っ掴んで船室を覗いてからジンベエの“海流一本背負い”を受けるほんの一瞬で、そこに娘がいることに気が付いた。



「ウェディングケーキ……ナマエ……ケーキ……どこだぁ出せ!!!!」



母の愛は、ほんの一瞬しか保てなかったけれど。




***



ニュース・クーからもたらされた新聞にはルフィたちによるビッグ・マム暗殺未遂についてデカデカで報道されていた。大幅に釣り合がった懸賞金も話題としては十分にセンセーショナルなものだったが、一味にはひとつ、どうしても無視できないニュースが残っていた。

甲板の隅っこ。頭からすっぽりと白黒チェッカーのマントを被り、隙間からいじらしい蜂蜜色の瞳が麦わら一味の顔をうろうろしている。

名前は既に知っていた。ビッグ・マムの縄張りから出て壊れた設備の点検をした時にすぐに発見したから。きっと悪戯で船に乗り込んでしまった町の子供だろうと名前を尋ね、震える声で帰って来たそれに一同は納得していたのだ。

できるだけ近くの島におろして、誰か船を出せる人間に送り届けてもらえるようにお願いしようと。話し合いのかたわらで、ひとり納得していなかった男。


【“麦わら”のルフィ、ビッグ・マムの娘を誘拐! 犯行の目的とは!?】
【シャーロット家の偉大なる末っ子! シャーロット・ナマエの驚くべき能力!】


「もう一度、あなたのお名前を教えていただけませんか」


ブルックは“西の海”の生まれだったから。



「ポール、バニヤン……」



それが偽名だとすぐに分かった。




ママと末っ子のハグは頭身的にぬいぐるみ同士が抱き合ってるみたいで微笑ましいと思います。スケールを縮めれば。

最近ホールケーキアイランド編を読んでビッグ・マムが好きになってしまったシャーロット家夢でした。続くならワノ国で迷子になってる末っ子書きたい。

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