翠玉の影



レイシーが最近ここに来なくなった。

間を置かずにやって来ては兄やグレンのこと、出先で出会ったお気に入り、好きなこと、嫌いなこと、たくさんの外のことを語って聞かせてくれた彼女がいない。

初めて会った時に天真爛漫に笑っていた彼女が、すでに艶やかな大人の女性に成長したのだ。もしかしたら外でいい人と恋でもしているのかもしれない。

そう言えば、少し前に聞かされたお気に入りの子の話は今まで以上に長かった気がする。

金の髪に翠玉の瞳。綺麗な顔の不遇な少年。

有り触れた名前だと彼女は笑っていた気がするけど、どんな名前だったか生憎と私は忘れてしまった。

もしかしたら、彼がレイシーの想い人なのかもしれない。


「そうだったらいいのにね」
「なにがいいの?」
「レイシーのことよ。彼女に恋人ができたら、これ以上に喜ばしいことはないじゃない? 私たちもお祝いしないとね」
「……わたしは、あんまりうれしくない」
「あら、どうして?」
「あなたはさびしくないの?」
「……あらあら」


縫い終わった糸を玉止めして糸切りばさみで切る。

この裁縫セットは、私が自分で作り出した物だ。声が色んな物を出せるから羨ましいと言ってみたら、私にも作れると教えてくれたのだ。最初は半信半疑だったけど、やろうと思えばアッサリできちゃったものだから、今では遠慮なく色んな物を作っている。

とはいえ、何でもかんでも一瞬でポン!はつまらないから、今回は久々に裁縫をやってみたわけ。

軽くひっぱったり裏返したりして、異常がないと分かると黒い空間にその子を突き出した。

赤いジャケットとピンクのリボンをした、紅い瞳が可愛らしい黒うさぎ。


「仕方ないわ。恋は人を変えるって言うもの。それに、レイシーは恋人ができても絶対に私たちのことをほったらかしになんてしないでしょ」


レイシーそっくりの可愛らしい黒うさぎ。

レイシーが私たちにくれた新しいお友達が淡い光に弄ばれてゆらゆらと揺れている。


「……そう」


極めて短く返されたその返事は、弾んだ調子を隠しきれてはいなかった。
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