ふわふわ



結果から言うと、練習試合は誠凛が勝った。

黒子君が黄瀬君のマークについたり、不慮の事故で負傷したり。先輩方の、特に水戸部先輩の活躍が見れたり、赤髪君がムキになったり冷静になったり。黄瀬君が本気になったり。挙げたらキリがないけれど、とにかくいろんな事が起こった試合だった。

100-98。決め手はブザービーター。黒子君のパスを赤髪君がアリウープで決めた。その瞬間、私は幻を見た。黒髪の中に混ざるには目立つハズの彼が、青い光に見えたんだ。浅黒い肌で、凶暴な笑みを浮かべてるクセに目はキラキラ輝いている。いつかの強烈な光。

赤髪君は彼ほど眩しくはないけれど、それでもいつか、いつか。


「光と影かあ」


なんかの小説みたいな設定だよね。

中学時代から思っていた感想を久しぶりに思い出しながら、誠凛と合流すべく階段に足を向ける。


「黄瀬、泣いてねぇ?」
「いや、悔しいのは分かっけど」
「練習試合だろたかが……」


途中で聞こえてきた言葉には勤めて冷静に無視する。

黄瀬君は他のメンバーに比べて、とりわけ好不調がはっきりしていた。それは彼が主に感情に引きずられやすいことに起因している。意外と繊細な心の持ち主だったりするんだ、アレでも。

実際、中学時代は実力を発揮できないまま終わる試合もままあった。それを周りが見抜けないのは、不調時だろうと彼の才能は常人を飛び越える。だから彼がちょっとでも才能の片鱗を見せた時、相手は思うのだ。"バケモノ"だと。

同じ部活といえど、黄瀬君が入部してまだ季節は春。しかも一軍でもない選手と彼が接するとは考えにくいから、分からないのも仕方ない。そういう風に気持ちを落ち着けて、階段で一階へと降りていく。


「うっわ!」
「どした?」
「バッシュの紐切れた! これ先週買ったばっかなのに!」
「マジかよ! 運悪ぃなお前!」


少し二階が騒がしく思ったけど、特に気にしないで先輩の元へ急いだ。


『ありがとうございました!!』


海常バスケ部に非常に清々しく頭を下げて誠凛バスケ部は帰路についた。途中黒子君の怪我を診るために寄った病院の前では、みんな今日の試合についての感想やら反省点やらを話していて、本当は部活ってこういうものなんだろうなって新鮮に思えた。


「あ、水戸部先輩! 今日はお疲れさまでした。見てましたよ、先輩のディフェンス。あの海常相手に一歩も引いてなくてすごかったです」
「…………!」
「謙遜しないでくださいよ! 本当のことなんですから!」


たまたま隣にいた水戸部先輩に世間話がてら今日の感想を伝えると、予想通りの反応だった。なんだこの先輩、仕草がいちいち可愛いな先輩素敵すぎる。

先日甘えてしまった気まずさを残していたけれど、今日のこの会話でそれもすぐに消えて行った。良かった、このまま私一人がモヤモヤして水戸部先輩と話せなくなるなんて嫌だったし。


「なーなー、あれどう考えてもいい雰囲気だよなー。付き合ってるのかなー」
「やめろ小金井! マジでそう見えてくるから!」
「土田に続くリア充の誕生か。爆ぜろ」
「落ち着け日向! チームメイトだぞ!」


ニコニコととりとめのない会話をしながら、黒子君の結果が分かるまで時間を過ごした。

その後、問題なしと判断されて戻ってきた黒子君と相田先輩と合流してご飯を食べに行く流れになったけれど、私はそれには着いていかずに別れることになった。最後まで相田先輩は渋っていたけれど、必ず近日中には返事をすると約束すれば仕方なさそうに解放してくれた。多分、私がとても機嫌がいい顔をしていたからだと思う。

今から向かうのはお世話になっている出版社。いくつかのお仕事を回してもらっている身ではあるけれど、今後の放課後の時間を確保するために、私は会社のエントランスに迷いなく入っていった。

仕事と学校と部活の両立ならぬ三立は大変そうだけど、今日の感動を今日だけのものにしたくない。その思いだけは確かにあったから。
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