侵蝕フェアリーテイル



※話の都合上名前を「ローズ・ブライア」で固定しています。
※キャラにヘイトを向けられるシーンがあります。
※一応転生トリップしてきた人ですが前世の記憶はほぼほぼ忘れています。
※声優さん繋がり。




黎明の国の全寮制女学校トワイライトスワンカレッジ。グレート・セブンの内、女王と魔女の精神を信奉する魔法士養成学校は優秀な女性魔法士の排出を目的とすると同時に上流階級出身の令嬢たちの淑女教育も併せ持つ。いわゆるお嬢様学校と呼ばれる学園の敷地内には母体となるナイトレイブンカレッジに合わせて同名の四つの寮を持っていた。

その内の一つ、ハートの女王の厳格の精神に基づくハーツラビュル寮。薔薇の王国に伝わる偉人であり現王家の源流ともいうべき女王の資質に似通った魂を持つ生徒が所属する。

ローズ・ブライアもまたハーツラビュル寮に集められた魔法士の卵であった。

御年16歳。種族は人族。出身は茨の谷。金色の柔らかな髪と黒々とした瞳を持つ利発的な少女。豊富な魔力と知識、妖精に囲まれて育った環境からやや世間知らずで浮世離れしているが、それはそれ。同学年の中では優等生として通っている素敵で無敵な女の子。それがローズだ。

ウィンターホリデー明け、ローズは一年生ながら学園長直々の推薦でナイトレイブンカレッジに短期留学することが決まっていた。系列校ならではの連携と世界に名だたる魔法教育を肌で感じてきてほしいというご厚意。ローズはにこやかに頷いた。

金色のラインが入った重厚な黒のセーラーワンピース。胸元の赤と黒のリボンタイ。寮章を模したベルトのバックルは曇りなく輝いている。黒いタイツと艶々のローファーをまとった足は軽やかに、長い金髪をふわふわ揺らして鏡の前に立つ。

見送りの学園長と寮長に深々頭を下げてから、生活必需品と教材を詰めたトランクを両手に鏡へ一歩、


「(お兄様と同じ学校。同じ学校! 同じ学校に通えるなんて!)」


足を踏み入れ、まず感じたのは、



────血の匂い。



広い空間だった。きっと複数階の床を抜いて一つの空間にしている。壁も床も無機質なメタリックであり、つい最近まで定規で線を引いたように組み上げられていたはず。それが見るも無惨に崩壊している。何による爆破か斬撃かはローズには判別つかなかったけれど。

たった今、闇の鏡へ通じる鏡に入ったばかりだというのに。これから兄と同じ学び舎に通える喜びで有頂天だったのに。

足元に死体が転がっている。

黒いツノを生やした成人男性。左腕はスッパリ切り落とされ胴体から夥しい量の血を流す──“同族”が、ローズの目の前で事切れようとしていた。



「“祝福を”」



不特定多数の武器を持った人間の眼前で、時止めの魔法を行使したのはそういうことだ。




***




三上歌歩は改まった様子の風間に呼び出され、重要任務を言い渡された。

曰く、先の大規模侵攻で女性の捕虜を確保したこと。捕虜とはいえ年若い少女という観点から女性の監視が必要なこと。女子隊員にあたらせるが、防衛任務がかぶっている場合はオペレーターにも声をかけていること。


「うちの隊が確保した関係で三上にまず声をかけた」


嫌なら断ってもいいと言われたができない仕事を回す風間ではない。きっと悪いようにはならないだろうと即決で頷いた。大規模侵攻が終結して五日後のことである。

捕虜──ローズ・ブライアは反抗する気配もなく従順なため、現在は拘束は解かれていると聞く。予備のオペレーターのワイシャツとスカートを着替えにしているらしい。

初めて画面越しに彼女を見た時、三上は絵本の登場人物が現実に飛び出してきたのかと思った。

ふわふわ揺れる金髪に白人特有の抜けるような肌。丸椅子に座って食事をしているだけでその場が高級フレンチのレストランに見えてくる。暇つぶしの本を読む様すら美しく、ページをめくるだけで花のような香りが画面から伝わってくる。いつの間に強化嗅覚のサイドエフェクトを発現したのかしら。

食事を運んだ時の会話は、はじめはとても緊張した。従順なのはフリで、気を抜いたそばから襲われるかもしれない。一応はトリオン体に換装しているとはいえ油断ならない。気を引き締めた三上だったが、ロック解除後の扉から現れた姿に動揺が抑えきれなかった。

だって、本当にお人形さんみたいな美少女だったから。


「お食事を運んできてくれたんですね。いつもありがとうございます」


捕虜なのに。閉じ込められているのに。まるでお城で招待客を待っていたお姫様だ。


「えっ、じゅうろくさい!? 同い年!?」
「そうなの?」


首を傾げる美少女は確かに見た目より幼い仕草。顔立ちだけじゃなく仕草まで可愛らしい。三上は相手が捕虜なのを忘れてきゅんとした。


「暇なら私の漫画貸す? 作戦室にいくつか持ち込んでるんだ」
「漫画?」
「文字は読めるんだよね。絵と文字が合体した本だよ」


いけないと思いつつ、同い年の女の子を相手するように優しくしてしまったのは仕方なかった。


「ねえ、あの、短い黒髪の小さい男の子なんだけど」
「……もしかして風間隊長?」
「そう、そのカザマタイチョーって、普段から怖いの?」
「ううん、面倒見が良いし優しい人だよ」
「そう……そうなのね……」


ちょっと落ち込んだような雰囲気が可哀想で、とっさに頭を撫でてしまう。黒々とした瞳が丸くなった後、三上の手を受け入れるようにそっと目を伏せる。か、かわいい……!


「ローズちゃんって呼んでいい?」
「ローズでいいわ。あなたは、」
「歌歩でいいよ」
「カホ、よろしくね」


大人びた見た目と幼げな仕草。動くお人形のようなローズが、三上には妹のように思えたのだ。

…………だから。



「三上、援護を頼む。ローズ・ブライアが逃走した」



持っていた漫画が床に落ちた。





***





界境防衛機関・ボーダーの作戦室にて。

最高司令官の城戸を上座に、本部長の忍田、本部開発室長の鬼怒田、A級3位風間隊の三人が座っている。

彼らの視線の先には一人の少女がオペレーターの制服を着て座っていた。その横に付き添う本部長補佐の沢村は気遣うような態度を意図的に隠していた。

鬼怒田は彼女が拘束されてから現在に至るまで聞き取った内容を改めて読み上げる。


「ローズ・ブライア。16歳学生。出身はイバラノタニ。現在はレイメーという国の学校で寮生活を送っている。ここに来る前は姉妹校への短期留学のため移動する最中だった、と。間違いないかね?」
「はい」


馬鹿らしさすら感じている声音に、小鳥のような軽やかな声が是と答える。


「トリオン、トリガー、ネイバー、ネイバーフッド、という単語を知っているかね?」
「分かりません」
「アフトクラトル、リーベリー、レオフォリオ、キオン。これらの国に聞き覚えは?」
「ありません」
「なるほど。では最後に、」


太い指がキーパットを操作すると同時にスクリーンに映像が流れ出す。

映像はボーダー内部の訓練室での戦闘を映したもの。アフトクラトルの黒トリガー使い・エネドラが仲間であるはずの女によって殺害された。ブレード状に薄く鋭く伸ばされた黒トリガーにより左腕を切断、エネドラの黒トリガーを回収後心肺を串刺しにし、女は窓を閉じた。直後、別の映像が差し込まれたかのように場違いな人間がその場に増えたのだ。

金髪の少女だ。仕立ての良いセーラー服を着こなす御伽噺から飛び出てきたようなお姫様が、まるで敷居をまたいだ後のような恰好で訓練室に降り立つ。

黒々とした瞳が、緊張の糸を張りなおした諏訪や忍田たちを捉え、次に足元のエネドラを捉え、そして────、


「この男と面識は?」
「ありません」
「この時の君は彼に対して言葉をかけているように見えるが」
「亡くなっていると思ったので、せめて安らかにという意味でお祈りをしました」
「──“祝福”、とは?」
「私の国でメジャーな文言です。とっさに口から出ていました」


(心音に変化ないです。これ以上ないほど落ち着いています)菊地原の通信を聞き届け、忍田は意志の強い目で少女を見つめた。


「ブライアくん。我々は今重要な局面を迎えている」


近界より現れる近界民により蹂躙された町。殺された人々。連れ去られた人々。四年半前は1200人以上の死者と400人以上の行方不明者が出た。

そして今回は明確な敵の存在が明るみになった。神の国アフトクラトル。玄界に住まう人々のトリオンを徴収し自国の戦力に組み込むため、門を開いて強襲してきた。

ローズが姿を現したのは戦争の真っただ中だった。


「我々としても君のような無抵抗の子供に乱暴なことはしたくない。だが、君がアフトクラトル及び他の惑星国家から送り込まれた間諜である可能性は否定できない。隠していることがあるなら今ここで詳らかにしてほしい」


(なにを馬鹿正直に)鬼怒田の苛立ちをスルーし、忍田は続ける。


「先ほどの映像の男はアフトクラトル側からの侵入者であり、味方の裏切りによってもう手の施しようがない致命傷を負った。しかし、彼はまだ生きている」


死んでいないだけの死に体であっても、生きていると言わざるを得ない。

黒いツノを移植された黒トリガー使いとはいえ、肉体は人間と同じ。大量の血を流せば出血多量で死ぬことは当たり前の帰結であるのに、エネドラは生きていた。意識は戻らず目は閉じず、血は流れ出さない代わりに戻りもしない。手当てしようにも針もメスも通らず、重要な情報源たるツノを摘出することも叶わなかった。

アフトクラトル側が技術の漏洩を防ぐために施した防衛装置か、何らかの誤作動か、逡巡すると同時に心当たりは分かりやすいほどに明確だった。


「君は常時トリオン体をまとっているね」


ボーダー側が彼女をただの迷子だと信じられない理由がこれだった。

取り急ぎ行った身体検査でローズのトリオン量を測ったところ、脅威の45。しかもマックス値ではなく測定の途中で機器が故障する事態が三度発生。トリオンと類似したエネルギーが混入したと判明したがそれが何なのか特定できないでいた。

その過程でローズの肉体が生身ではなく何らかのトリガーによる換装後の姿である可能性が浮上した。

すでに持ち物検査としてトランク一式を没収していたため、着替えと称してオペレーターの服を貸し出した。トリオン体は服の一枚一枚まで完全に再現するにはコストがかかりすぎる。着替えの際には必ず生身に戻るはずだと。しかし、彼女は普通にあのセーラー服を脱ぎこちらが用意した服を着て見せた。……そのトリオン体は最初から裸だったのだ。わざわざ着替える手間を残してトリオン体を形成していると知り、なんて非効率的なと舌打ちしたものだ。

ボーダー側からの質問に従順に答える姿勢も、その不可解さを加味すれば不気味としか言いようがない。

忍田が直球で尋ねたこの場が、ある意味ローズの怪しさを払拭するための最後の機会だった。


「あの、トリオンとは?」
「人間にはトリオン器官と呼ばれる臓器があり、そこからトリオンと呼ばれる生体エネルギーを生成している。トリオンで作られた戦闘体をトリオン体。その間肉体はトリガーホルダー内に収納されているため、トリオン体が傷つけられても肉体は無傷という寸法だ。トリガーとは言ってしまえばトリオンを動力とした武器だ」


こんなことも知らないのか。もしくは知らないフリをしているのか。

早口の鬼怒田の説明でも一応は納得したらしい。膝に手を置き、背筋を伸ばして座るローズは言いにくそうに口を開く。


「私は体にハンデを負っていまして、補助のために幾分いじったところがあります。思いつくのはそれくらいでしょうか」
「ハンデとは? 何をどういじったと言うのかね?」
「デリケートなことなので言いたくありません」
「っ、その首から下げとるネックレスはなんだ?」


(一瞬動揺しました)核心を突いた。鬼怒田はさらに饒舌になって指をさす。


「その石から膨大なトリオンが滲み出ておった。それこそ黒トリガー並みの逸品じゃ。こちらに何も申告がない以上、隠し持っておきたい理由があるのだろう」
「これは、身内からの贈り物です。トリオンというものを秘めているとして、私に知るすべはありません。意味すらたった今知ったばかりです」
「ならばここで外してみればいい」


今まで黙して動向を見守っていた城戸が急に口を開けた。


「そのネックレスを今ここで我々に預けるというなら、君への容疑を撤回しよう。改めて国へ帰還する手はずを模索する」
「……模索する、ですって?」


(……!)

ゾッと背筋が凍るほどの怖気がその場にいる人間すべてに走った。今までボーダー側が有利だった尋問の空気が一瞬にして変容した。今自分たちがいる場所は清潔感漂う作戦室ではなく、ぬらぬらとした粘膜に覆われた爬虫類の口の中にいるような。一瞬の蠕動で胃袋の中へまっすぐ飲み込まれる嫌な予感を幻視した。

風間が席からやや腰を浮かせる。すぐにでもスコーピオンを出せるように机の下で手を構えた。

各々が得体のしれない少女の返答に注目している中、ローズは。


「衣食住を保証していただいた身の上で大変図々しいとは存じますが、何様のつもり?」


逆に深々と腰かけ、ほっそりとした足を不遜に組んだ。

さきほどまでそこにいた令嬢は息をひそめ、自身の優位性を疑わないふてぶてしさ。女王の風格がローズの存在感を何倍にも恐ろしく彩った。


「戦後処理で今が大変な時期なのも分かっています。私が変なタイミングで不法侵入してしまって皆さんに不要な仕事を増やしたことも。誤解が解けるというならできる範囲で協力しますわ。ええ、お邪魔にならないよう努力したつもりです。すべては私が早く元いたところへ帰るためです。あなた方最初に言いましたよね? 私をもとの場所に帰す。時間はかかっても特定する。──まさか、脅迫材料に使われるとは」


風間は内心で加古を思い出していた。気に食わない相手に対し笑顔でチクチクと棘を刺してくる様。この女の正体はこちらなのだろう。今までの態度は本心からの従順さであったことをこの瞬間理解した。

だからこそ、これからは一筋縄ではいかないことも。



「あなたたちがしていることは悪魔の証明よ。近代国家にあるまじき野蛮な裁判だわ。もっと建設的な話ができるようになってから出直してきなさいな」



右手の中指と人差し指をすり合わせる動作。何かが来る。とうとう風間はスコーピオンを発動した。


────パチンッ!


あと半歩早ければ、


「消えた!?」
「転送装置を隠し持ってやがった」


蛍光色の鱗粉が見えた気がした。

蛍が舞うように広がって落ちる頃にはもう遅い。スコーピオンは少女が座っていた椅子の背もたれを貫いていた。


「やはりあのネックレスがそうか! 無理にでも奪っておけば!」
「いや、まだ何か隠し玉があるかもしれません。これ以上の藪蛇は避けるべきです」
「エネドラの件があります。最低でもトリガーホーンだけはどうにかせねば」
「さっきの話ぶりからして帰還手段がないのは確定だ。まだ玄界にいる。民間人に被害を出す前に捕らえろ」
「A級で防衛任務に当たっていない者は、」


「ハイハイ失礼しまーす。実力派エリート迅悠一が来ましたよー」


すぐさま次善の策を出すため喧々囂々となった作戦室に空気を読まない声が差し込まれる。

現A級ソロ、未来予知のサイドエフェクトを持つ迅悠一が無遠慮に入室してきたのだ。


「迅! 貴様、これも予知していたはずだろう! 何故報告しなかった!」
「怒らないでよ鬼怒田さん。これでも慌てて対策練ったんだよ。なのに風間さんがちゃんとしないからさ」
「待て。俺はお前からの忠告を聞いてすぐあの女の捕虜としての扱いを改善したはずだ。なぜこうなっている」
「俺が言ったのは“風間さんが彼女に優しくしてたら万事うまくいく”ってこと。女子に丸投げしたでしょ?」


ぐうの音も出なかった。

しかし、風間がローズを優しく扱ったところでどう好転するというのだろう。まさか風間にロミオトラップでも仕掛けろと言うのか?

胡乱な視線の数が迅への信頼のなさを如実に表していた。迅は軽く肩をすくめてから真剣な表情を急に作った。


「マジな話。あの子を追い詰めすぎたらいけないよ。本人は無害な女の子なんだ。でも、これ以上精神的な負荷をかけ続けたら、」
「……かけ続けたら?」


「黒トリガーよりも恐ろしいものが生まれる」




***




《誕生日おめでとう。ささやかながらお前に似合いの品を作った。一度鏡の前で身に着けてみるといい》



お兄様、お兄様。

わたくしは学校に行きたいと言ったけれど、本当はお兄様と同じ学校に行きたかったの。

トワイライトスワンカレッジは、見たことも話したこともない新鮮なものでいっぱいで、友達もできて、たくさん褒められて、喧嘩して、仲直りして、知らないケーキと紅茶をたくさんいただいた。楽しいことがたくさんの半年間だった。

でも、わたくしは、お兄様がいる学校にたった1ヶ月でも通えると思って、茨の蔦のように首を長くして待っていたのよ。


「うそつき、うそつき」


転移魔法を二度、三度。ようやくあの四角い城から外に出て、目に見える遠くへまた飛ぶ。四度、五度。この疲労感が精神的なものか身体的なものかもはや分からない。私のマジカルペンは没収されたトランクの中に入っている。手元にないからこそ、ブロットが体内に蓄積されている様は体感で察するしかない。

キリキリと感じたことのない胃痛がする。きっとさっきお兄様からの贈り物を盗られそうになったから。……いいえ、それ以上に、あの少年に冷たくされたから。


『抵抗するなら手足を切り落とす。大人しくすることだ』


リリアとそっくりな声であんな残酷なことを言うんですもの。声だけで安心感を得ていた私は、急にリリアに突き放された心地になって。薄い毛布の下でほんの少し泣いてしまった。

人前で取り乱すことはできなかった。してはいけなかったのに。

黒いツノを生やした人間を助けてしまった時からドミノ倒しで悪い方向に向かっている気がする。今だってこのまま逃げ続けていいのかも、ああ、どうしましょう。どうすれば。

早く戻らないと、せっかくのお兄様と一緒の学園生活が終わってしまう。

でも、どうやって?


「あ、いたぞ」
「何故オレがこんなことを」
「ヒュースはおれのこうはいだろ。せんぱいのいうことだぞ」


走っていた足が止まる。止まってはいけないのに、振り返ってはいけないのに。聞き馴染みのある声にあらがえなくて。私は、黒いフードを被ったその人に思いっきり抱き着いてしまった。


「ッおい!」
「ヒュース。ないているおんなのこはやさしくだきしめかえすものだ」
「オレには関係な、」
「……、ばー」


「シルバー、たすけてシルバーっ!」



お兄様がいなくて、リリアがいなくて、妖精がいないこの世界に。人間のシルバーならいるかもしれない、なんて。

普段なら絶対にしないことを、お兄様の護衛に抱き着く醜態を、シルバーではない誰かに肩代わりさせてしまったんだ。





***





「だって、だってだって、急に、知らないところ、妖精、血まみれでぇ」

「にんげん銃もってる、し、っ魔力、みじんもかんじないからぁ!」

「妖精差別か、っまほうしさべつの、カルト組織にさらわれたとおもって!」

「にんげんじゃないってバレたら、ころさ、ころ、っツノ取られて、ホルマリンづけっ、ひっく、うう、」

「お兄様がひとごろしになっちゃうううう!! 国際問題だめええええ!!!!」


「最後だけ急に物騒なのよね」
「迅さんが言ってた黒トリガーより恐ろしいものってこの子のお兄さん?」
「いや、なんか墨汁みたいなもんまき散らす化け物にこの子がなっちゃう」
「黒トリガーじゃなく、か?」
「じゃなく」


「おうち帰りたいよぉ!!!! かえしてよぉおおお!!!! お兄様あああ!!!! リリアあああああ!!!!」


兄からの贈り物だというイエローサファイアのネックレスを外したローズ・ブライアはまばゆい光に包まれた。誰もが夢見る魔法そのものの光の粒が我先にとあふれ出し、ようやく落ち着いたその場に座り込んでいた者はひとり。

天鵞絨のような長い黒髪に爬虫類を思わせる緑色の目。彫刻じみた端正な蝋色の顔を真っ赤にして泣きわめく、年齢不詳の美女。……その頭には、立派な黒いツノが生えていた。




「アフトの黒トリガー使いだと勘違いして攻撃してたら、きっと日本は終わっていたよ」







最近リクエストのマレウス妹のお話を書いてる途中でこのネタが浮かんでしまい、衝動を抑えきれませんでした。本編まだ書いてないのにクロスオーバーを先に出してしまい……黒いツノ繋がりが楽しくて……。続いたら名前変換つくかもです。


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