サイドエフェクト無効化女子



※漆間隊の捏造あります。
※セクハラまがいなスキンシップと百合の造花注意。



わたし名前! 花の女子高生!

勉強も運動も学校行事も全力投球! バイトだって頑張っちゃう! 大好きな友達と素敵な先輩後輩に恵まれて毎日楽しくキラキラ輝いてるの! こんなに幸せなことってあっていいのかしらん!? 幸せすぎて怖いくらいだわ!!!!

そんなわたしは、今、


『こうなりゃヤケね。頼んだ漆間』
『は……待て、おい。ジャマー女!』



──むぎゅぅぅぅぅぅ!!

ランク戦でこわぁい男の子に抱き着いてるの!



「ッあァ!?」
「影浦くん獲ったりぃ」


周囲を警戒していた影浦くん。その背後からそろっと近づき全力ハグ。女は度胸、影浦くんは卑怯、私も卑怯。服の上からでもわかる細いながらに引き締まった胴体を腕ごと捕まえて、あとは頼んだ隊長!



『こんの邪魔女がァ!!』



ところで、メテオラの広範囲攻撃じゃなくてアステロイドの一点集中で影浦くんの頭だけ吹き飛ばしてほしかったんだけど。


《沢村隊員、影浦隊長を背後から奇襲! 不意を突いたチャンスを逃さず漆間隊長が沢村隊員ごと影浦隊長を仕留めました!》
《カゲを不意打ちなんて名前しかできないよね》


『『戦闘体活動限界。緊急脱出』』

ま、よその隊にポイント取られるくらいならフレンドリーファイアの方がマシかぁ。


「なんて言うと思うなよっ」
「は? ぐぇ!?」


作戦室のベッドに戻って来た漆間のほそっこい首にヘッドロックをキメる。ベッドの上でジタバタ暴れる漆間は生身だからこそ私に敵わない。下剋上下剋上。


「頼みはしたけど私ごと撃てとは言いてないんだわぁ。隊長の血は何色ですの?」
「キレたいのはこっちのほうなんだけど? カメレオン勝手に解いたの意味わかんねぇ。あのまま挟み撃ちすれば良かっただろ」
「影浦くんのサイドエフェクトで隊長の視線に気付いたらアウトよ。なんならサイドエフェクト抜きでも野生の勘で私の位置察してくるかもしれんしー、ダブルキルされる前に突撃したまでよぉ」
「突撃したあんたを避けて影浦先輩だけ撃つとか無理だろ。とっさに頭だけ狙って撃ち抜くよりは逃げ道ふさぐ勢いで吹っ飛ばす方が確実だっ、ぐぇっ」
「隊長ならできたってぇ。やる前から諦めるな。よ! 天才!」
「あ、あのぅ、今日は勝ったんだから、とりあえず喜ぼう?」


ベッドでプロレスごっこに勤しむ私たちにおろおろ梨香ちゃんが近寄って来た。梨香ちゃんを困らせるのは本意ではない。しゅたッとベッドから立ち上がって乱れた髪を整える。ついでに隊長に手を貸すとわりと強めに握り返された。お互い試合より疲れた顔をしてるのがちょっとじわる。


「だいたい、邪魔女が抱き着かずにスコーピオンで刺してたら一発だったでしょ」
「ジャマーの伸ばし棒を横着し、……ほんとだぁ、隊長天才?」
「自分の脳までジャミングしてるのか?」


漆間のお口はほんと漆間だなぁ。


「ま、まあまあ、今回は生存点込みで4点取ったんだよ? すごいよ二人とも」
「だしょー?」
「甘やかすとまたやりますよ六田先輩」
「それは、ちょっと……」
「梨香ちゃんや?」


一番年上の私が一番扱い悪い。
流石音に聞くスーパードライ漆間隊ね。


《しかし沢村隊員のサイドエフェクトは本人にしか効果がないのでは?》
《カゲが漆間の視線に気付かなかったってことはそれだけじゃないっぽい》
《本人に聞けたら良かったんだけどねー》


実況解説の大部分を隊長とのスキンシップで聞き逃したのは流石に反省した。


「で、どうなの」
「なんかね、私がべったりすると本人のサイドエフェクトも全キャンセルされるらしい。この前村上くんと一緒に寝て発見した」
「い、いいいいしょにね、ねて!? はわわわ……」
「うわ引く……」
「添い寝! 添い寝なの! 本人に許可もらってるから怖がらないで!」


隊長はともかく梨香ちゃんに怖がられるのはダメージ負う。

大丈夫よぉ、お姉さん清潔よぉ。漆間はそのばい菌見る目をやめなさい。

私これでも学校では高嶺のお姉さまなのに。今度のバレンタインの戦利品分けてあげないから。


「次影浦隊とあたったら速攻狙われるな。沢村先輩クビね」
「防衛任務の効率上げ手伝ったの誰だったかなぁ?」
「チッ」
「な、仲良くねしよう? ね?」


“仲良くしなくて良さそう”がこの隊に入った理由って言ったら梨香ちゃん泣きそう。絶対に黙っておこうっと。






***






沢村名前18歳。ボーダー歴三年目のB級攻撃手。

ボーダーに入った理由は単純に“サバゲーしながらお金もらえるって最高じゃーん”みたいな感じ。楽しいバイト見つけたノリと寮生活が付いてくるってので即決した。あと従姉妹の響子ちゃんの職場だから両親の説得が楽だったのもあるかな。

あるていに言って、一人暮らししたかった。せっかくの高校生だもん、両親の監視下から逃れて好きなことを好きなようにしたい。それで三門市を選んだと言うとわりと引かれるので志望理由は「嵐山さんに会いたかったからですぅ」ということにしている。

危なげなく受かった後、C級としてのんびりスタートした私に同期入隊だった菊地原が初対面でボソッと。


「死体?」


恥も外聞も捨てて直接心臓の音を聞かせてしまった。それ以来菊地原には会うたびに「げ」って言われてる。おかげでお互いがサイドエフェクト持ちだと気付いたんだからいいじゃない。初対面の罵倒は流すからいい加減チャラにしましょうねー。

私のサイドエフェクトは、他人のサイドエフェクトの影響を受けない無効化のサイドエフェクトだった。なんでも、人間は目に見えない周波数? 音波? ほうしゃせいぶっしつ? かなんかをみょんみょん出してて、サイドエフェクトも似たようなもんで、私はそれを打ち消す波を常時みょんみょんしてる状態、みたいな? 鬼怒田さんの説明むずかしー。

だから菊地原の超聴覚も影浦くんの感情察知も迅さんの未来予知もぜーー−んぶ跳ね返しちゃうんだって。へぇぇ。まあ、村上くんの睡眠学習とか宇野くんの体を正確に動かすのとかはみょんみょん関係ないから無意味なのよね。

なんていうか、菊地原と影浦くんと迅さんにしか効果がない謎サイドエフェクトだった。ランク戦なんて最近まで三人ともA級で当たることなかったもの。そもそも私もソロのままB級やってたからランク戦出ないし。

漆間隊に飛び入り入隊するまでのんびりトリオン兵の撃破数を数えてお金稼ぎしてた。

そんな私には、三門市で生活するにあたって両親が出した条件がある。


「蓮お姉さまぁ、たしゅけてぇ」
「また甘えん坊さんが来たわね」
「テスト、赤点、こわぁい」
「はいはい」


私立のお嬢様学校、星輪女学院を中位以上の成績で卒業すること。

ちゅーいってなぁに? わたひおべんきょがんばっら。ぎりぎりにゅーがく。がくねんびりがちゅーい? はへぇぇ?

星輪は進学校のくくりに入る偏差値お高めのお嬢様学校だ。そこで真ん中以上をキープっておバカには大変。息継ぎなしで25メートル潜水するようなもの。転校させるのはないとして、絶対ボーダーや寮生活をやめさせて実家通いに切り替えさせる気満々みたい。今さらこの自堕落な生活を捨てられないのに。自由は我が手にありよー。

ということで早々にお助けキャラを探して探して探しまくって、対等な取引のもと、同じボーダーで一学年上の月見蓮先輩をゲットしたのである。わー。


「名前は自分のことを卑下するけれど、太刀川くんに比べればとても優秀よ」
「太刀川さんと比べられること自体ヤバいですよぉ」
「あら、ここの公式間違えている」
「ひぇ」


文系なのに数学が必須教科なのおかしいと思うんだぁ。

というかボーダー隊員は頼めば三門大の推薦もらえるからそんなに勉強頑張らなくても……ってこんなこと一言でも漏らしたら響子ちゃんにチクられちゃう。蓮さんはそこのところ厳しい。


「あと半年の辛抱よ。頑張りましょうね」
「はーい蓮お姉さま」
「ふふ、卒業してもあなたのお姉さまでいられて嬉しいわ」
「わたくしめが卒業するまでどうかどうか」
「三門大に来たら延長する?」
「要相談ですねぇ」
「あら、釣れない」


美人の含み笑いはおっそろしー。


「名前さん来ると月見さんが変な空気になるよなー」
「単純に仲良いだけだろ」
「仲、良すぎませんか……?」
「(そろそろ出てってくれ)」


ちなみにおほほほうふふふ笑い合ってるここは三輪隊の作戦室である。だってA級のオペ室広いんだもん……。

蓮さんの数学講座の後、個人ランク戦で軽く体を動かしてから帰りたくなったから米屋くんを誘った。作戦室の使用料代わりに誘うと素直に喜んでくれる。チョロいわぁ。菊地原もこれくらいチョロかったらいいのに。


「すみませんねー。B級の相手じゃ物足りないでしょうに」
「名前さんいつもソレ言うじゃん。オレけっこー好きですよ? モグラ叩きみたいで」
「うんうん存分に叩いてくれたまえ」
「ランク戦の話ね?」


そうだよ?


「そういやこの前のカゲさんのヤツなにしたんすか? なんかタネあるんすか?」
「影浦くんが私のマシュマロぼでーに日和ったんじゃ?」
「名前さんこころ強ぇー」
「よわよわなのよ〜」

「あーーー!! 名前先輩いたっ!!!!」


個人ランク戦の訓練室に差し掛かったところで、普段聞いているのより何倍も大きな声が私の名前を叫んだ。この声は、桐絵?

玉狛支部にいるはずの同じ学校の後輩が息を切らして走ってくる。可愛らしい声はよく通るものだから、混雑しているモニター前でもしっかり聞き逃さなかった。

トリオン体に換装しているのに肩で息して立ち止まった桐絵。どうしたのかと尋ねる前に、ガバッと上げた顔は真っ青で。息切れというよりは震えているんだとこの時になってやっと気が付いた。


「名前先輩、名前先輩名前先輩!!!!」
「本部にいるの珍しいね? どしたの?」
「蓮さんと付き合ってるってほんとッ!!?」
「え」


隣の米屋くんの声を最後に、訓練室が異様に静まり返った。こんなにたくさん人がいるのに、だれかがトリガーを落としたのがよく分かった。あのスーツ、辻くんだわ。あんな純粋そうな子に見せていいところじゃないわぁ。


「名前先輩、」
「あの、桐絵? その話をどこで聞いたの?」
「クラスメイトの子が噂してて、一年の時から付き合ってるって、有名だって!!」


ぴょんぴょん落ち着きのない桐絵の声はやっぱりよく通る。まさかそれを聞くためだけに本部に来るなんて思わなくって、私はどう返事したらまるく納まるかない頭でうんうん考えていた。


「探したぜ邪魔女」


なんてタイミングよ影浦くん。

つい先日に思いっきりやらかした相手がこわぁい顔して近付いてくる。ちょっと私は桐絵の件でラウンジに移動しようかと思っていたところだったのよね。またあとで〜とばいばいしようとした、その時。

ふわっ……と。


「げ」
「ひわっ」
「おお」
「うわぁ!」


視界が黒く染まって、額が固いものに当たって、背中に強引な腕が、腕……。

影浦くんに、抱きしめられてる。


「よーく分かった。鋼と寝たのは本当らしいな」
「んなッ!?」


その話ここでしなきゃダメ????

スッテーンと古典的な転び方をした黒い足が腕の隙間から見えた。ごめん本当にごめんなさい辻くん。君の耳を汚した罪は犬飼くん経由で償うわ。後日たぶんきっと。


「チッ。妙な小細工使いやがって。こんなんできるなら初めからやっとけ」


なにやら考え事に忙しいらしい影浦くんはひとりごとに夢中で、いっこうに私を離す気がないらしいし。うーん。


「ちょ、ちょっと、先輩から離れなさいよ!」
「ああ? オレがいま用があンのはコイツなんだよ」
「あたしが先にしゃべってた! あたしだもん!」
「……」


収拾つかないやこれ。


「米屋くんごめーん。個人戦また今度でいい?」
「ここでその話題触れるのマジでこころ強いっすね」


すんごく話しかけてほしくなさそうだったから逆に話しかけちゃった。ごめーん。

結局、ラウンジに移動して桐絵に事情を説明するまでの間、私が本命月見蓮で愛人として桐絵と影浦くんと村上くんを囲っているっていう噂が回っちゃったみたい。はぁークソわよ。ちなみに響子ちゃんコネで情報操作して噂が消えるまでにB級ランク戦が終了した。




「やっぱクビにしてぇ」
「先輩、四股はやめた方が……」


漆間隊は今日も平和です。





***





場所は変わってラウンジ。私は桐絵に用があるのになんだか距離を置いて見覚えのある人たちがぞろぞろと。


「桐絵、私と蓮お姉さまがお付き合いしてるって、具体的にいつ聞いたの?」


「お、おねえさま」ガッツリ引いた声が聞こえてきた。やっぱり盗み聞きしちゃうよねーこっちもそのつもりで話しているよ。


「今日の委員会、放課後、クラスメイトだけじゃなく一年の子も知ってたの。一年生じゃみんな知ってるって、あたしは知らなかったのに!」
「私も知らなかったことにびっくりしてる」
「そんなに人目もはばからずいちゃいちゃしてたの!?」
「まあ、恋人つなぎ程度は」


ゴッ! と後ろの席から固いものがぶつかる音がした。だれかテーブルに頭ぶつけたわね。


「あのね桐絵、女子校で一番盛り上がるメジャーな噂、なんだと思う?」
「え……恋バナ」
「そうなの。それも知らない先輩同士が付き合ってるっていうやつ」
「そうなの!?」
「そうなの」


『三年の先輩に女の子同士で付き合ってる人がいるんだって〜』『うそ〜』がマジで盛り上がる。他人事だからこそ余計にきゃっきゃうふふしてる。次点で若い男の教師と知らない先輩のカップル。99%事実無根でも楽しければいいのよねぇ。


「私と蓮お姉さまのはそれなの。もう卒業した先輩と離れ離れになった三年の先輩のカップル。盛り上がるよねぇ」
「じゃ、じゃあ! 噂は噂で本当は付き合ってないのね!?」
「ううん? 付き合ってるよぉ」


バッターン! 「椅子から落ちるとかある?」「辻もう帰れ!」「焼肉食って忘れろ!」ほんそれ〜。


「お互いちょーっと大変なことになっちゃってて。ほら、ボーダーの隊員って意味不明なくらい人気じゃない? 私は“戦うお姉さま!”て感じで、蓮お姉さまはあのルックスでしょ? そりゃー変なモテ方しちゃって。じゃあ付き合っちゃう? ってなったのー」
「最後が急すぎない!?」
「嫌な言い方するとぉ、む・し・よ・け?」
「うがぁーー!! あざと!! あざといのに可愛い!!」


ツッコミ待ちだったのにな。


「手繋いで図書室で勉強したり、お昼一緒したり、たまに私服で街歩いたら、それは付き合ってるじゃない?」
「えっと、待って、混乱してきた。付き合ってるのはホントだけど、やってることは友達と変わらないってこと!?」
「そーそー」


まあ過激なスキンシップは取ってたけれど。


「今年のバレンタイン、ボーダーのお世話になってる人たちにチョコ渡して回ったのね。アレ全部学校でもらったチョコなの」
「え"!?」
「ちゃーんとくれた子には“友達とシェアしていい?”て確認取ったよ。あと手作りは私が食べたし」


一年の時はお返しの友チョコはお得用の買ってばら撒けば事足りたのにね。ボーダーの戦闘員だって有名になったら蓮さんと付き合ってるのに両手両足の指じゃ足りないくらい来たからなぁ。


「流石にボーダーのお給料が飛びそうになって、“好きな人を裏切れないの、ごめんなさい”てお返しなしをもぎ取ったわ」
「サイテーじゃねぇかクソ女」


ところでなんで影浦くんは隣のテーブルで肘ついて聞いてるのかな?


「そっちの説明は終わっただろ。次はこの前のランク戦の説明。サッサとしろ」
「荒船くんに聞いてくださいな」
「なんで荒船だァ?」
「村上くんと寝てるところ見てもらってたから?」


「俺を巻き込むな……!」すごく死にそうな声だった。でもなぁ、あの時は証人になってもらうために同席してもらってたしぃ?


「まあ、でも、ふふふ」
「なに急に笑い出してんだきめぇ」
「我ながらキモいのはどーかん。だって村上くん、ちゃんと寝たのにぜんぜん記憶できてなくてビックリしてた」


ポーカーフェイスがデフォルトみたいな村上くんがハテナまみれになってて、思い出しただけで。



「私といると、村上くんは弱くなっちゃうんだねぇ」



面白いよねぇ。


クスクス笑い続ける私に、近くの席にいた人たちがサァ……っと距離を取るのがなんとなく分かった。うんうんキモいキモい。自分のサイドエフェクトを自覚できるのなんて滅多にないんだから許して。


「で、肝心の影浦くんはどうだった? ちゃんとなにも感じなくなってた?」
「…………オレは、」


マスクをクイッと引き上げた影浦くんは、それから。



サイドエフェクトこんなのがなくても、じゅうぶん強ェからな」



と、それだけ言って去っていった。

えぇ〜なんだろ。強いぞ自慢かな。この前のは運が悪かっただけで次はオレたちが勝つぞ〜的な?



「桐絵は納得した?」
「先輩がとりまる並にやなヤツなのは分かったわ」



そんでもって、ぷくーーっとほっぺた膨らませる可愛い子はなにをやったら機嫌を治してくれるかしらねぇ?








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