4/fin.



何度も何度も文面を見返して、入試の見直し以上にチェックして、もうやることはないと5回くらい思ったところで、えいっと。目をつむって送信ボタンを押した。通信障害かなんかで送れなかったりしてー、なんて淡い期待は送信済みのボックスを確認してもろく崩れ去った。

────送ってしまった。

『来週の水曜日、デートしませんか』

単純なデートのお誘いなら、私もここまで手が震えていない。実質初デートのお誘いだからって身悶えてるわけでもない。真に恐ろしいのは、これがただのデートじゃないってこと。


「中学生の勝負下着って、チュチュア◯ナでいいかな……」


デートはデートでも“お泊まり”デートだ。

二月。どんな強運か神様の気まぐれか、あんなに自信がなかった難関校に奇跡的に受かった。推薦入試で生徒会に入っていて素行良好成績優秀のハリボテ実績だけしか武器がなかった私にも運というものがあったらしい。そんなこんなで私立のエスカレーター式中学とは今年の三月でおさらば。今はほぼ自由登校みたいなもので、稀咲くんと校内で会う機会はめっきりなくなった。まあ不良になった稀咲くんとはほとんど外でしか会っていなかったけれど。それでも春から別々の学校になるということで一抹の寂しさは拭えない。メアドだって交換したのにあんまり連絡取ってないし。

付き合ってない先輩後輩の距離感ってどんなもんかな。たまにメール作成画面を眺めて、特に何もせず閉じる。そんな日々の最中、バレンタインが近付いたある日。ふと、今まで忘れていたことが脳内を駆け巡った。

今年の2月22日、稀咲くんが死ぬ。

『橘はいつかオレのモノになる!! いつか絶対にな!!』

エマちゃんを殺して、鶴蝶を撃って、イザナを殺して、車に轢かれて死ぬ。

『死にたくねぇ……』

稀咲くんが、死ぬ。

血塗れで、腕が変な方向に曲がって、血走った目を見開いて。道路の真ん中に血溜まりを作って────。


「っ、っ、ぉえっ」


想像しただけで気持ち悪くなった。

分かっているつもりだった。かなり薄ぼんやりとした記憶でも、稀咲くんが死ぬのはちゃんと覚えていた。それでも、場地も生きてて稀咲くんや半間が東卍を追放されていないのだから、天竺はできない。天竺ができないならあんな悲惨なことは起きない。そう安心していたのに。日付が近づくにつれ嫌な予感が増していく。最近まで忘れていた日付まで思い出してしまって、余計に何かしなきゃいけない焦燥感が首の後ろでチリチリしている。とにかく、何か、安心できることをしたかった。

稀咲くんが車に轢かれるのは夜。明確な時間は分からない。でも人通りがない時間なら深夜のはず。稀咲くんを死なせないために、手っ取り早いことと言ったら──私が一緒にいればいいんじゃない?

その結果、出た答えがお泊まりデートだったわけで。


「久しぶり」
「…………そうだな」


気合、入れすぎたかも。

丁寧に巻いた毛先をいじりたくて仕方ない。普段はしない色付きリップとか、ピンクのアイシャドーとか。真冬の寒い時期に生足スカートで来たのとか。できるだけヒールのないムートンで目線を下げたのとか。左の親指に付けてきた指輪が今になって恥ずかしくなって、慌ててコートのポケットに突っ込んだっきり出せない。いつもと違うところが多すぎて目敏い稀咲くんなら気付いたかも。

集合時間の十五分前に着いてしまったのもなんか、はしゃいでる感じがするというか。ちょっとおうち帰りたい。


「行くぞ」
「うん」


言葉少なに背を向けた稀咲くん。その隣に並ぶ私。いつもと同じ静かさなのに、いつもと違う緊張感が漂っていて、やっぱりおうちに帰りたいと思った。

お昼の三時に待ち合わせして、明日の朝の始発まで15時間。だいたい半日、私は彼を引き止めなければいけないのに。

だんだん視線が下がっていく中、ふと、稀咲くんの左手がプラプラと揺れていることに気づいた。二月は当たり前に寒い。さっきの待ち合わせだってポケットに手を突っ込んでいたのに、わざわざ出してる理由って……アレで、いいのか?

これまた入試並みに熟考して、やけくそじみた勢いでポケットに入れていた右手をソッと伸ばした。重なった瞬間にギュッと握り返されて私の心臓もギュッとした。い、言ってくれたらいいのに! そう思ったものの、いう前に察して伸ばした私のせいか、とすぐに考えを改めた。稀咲くんのことが分かってるみたいでちょっと、本当にちょおっとだけ得意げになっちゃった私である。


「今日はありがと」
「何が」
「一緒にお出かけできて嬉しいの。急だったけど何か用事なかった?」
「ねえよ」
「あはは」


抗争がある日に東卍の縄張りでのんびり待ち合わせなんてするわけないよね、って確認。

ちなみに今日は平日。学校ある。自由登校の受験組三年と二年生では授業日程が違うわけで。結果的にサボらせてしまったのは私だけれど、どうせ原作の方でもサボってたしなあ。なんて開き直った。うん、落ち着いてきたかも。


「合格のお祝いに映画のチケットもらってさ。2枚しかないから」


そういうテイで今日はお誘いした。“お泊まり”のおの字も出さずにただのデートとしか言っていない。流石に付き合ってもいない女と一泊するのは稀咲くんも断るだろうと、お別れするギリギリで仕掛けようと思う。


「オレじゃなくてもいただろ。橘とか、オトモダチとか、」


オトモダチの含みの強さはなんだろう。「場地とか……」「ば?」「いや、」小声すぎて聞き取れなかったところは結局教えてくれなかった。ポツポツといつもみたいにのんびり小さく近況報告しながら映画館に着いて、適当にポップコーンやジュースを買って席に着いた。ちなみに映画のチョイスやデートの諸々はエマちゃんに相談してアドバイスをもらったんだけど、


「(え、エマちゃーーん!!)」


えっちなヤツだった。違う、えっちなシーンが間にあるアクション映画だった。緩急がひどい。温度差でグッピーが死ぬ。最初はカメラワークと爆破シーンでワクワクしてたのにヒロインやら敵の女幹部が服脱ぎ出すシーンがやばい。ひぇ、谷間の暴力。一人なら真顔でスルーできた。でも今は、今はですね。


「…………」
「…………」


むりぃ。むりだって。

なまじ気合の入った新品の下着を着けてきたせいでブラジャーを外すシーンが他人事に思えない。これ本当に中学生が見ていい映画? 年齢確認されなかったよ?

エマちゃんはどんなつもりでこの映画をおすすめしたんだ。そういう後押し? あ、そうかも。相談内容がアレだったわけだし。そうかも……私のせい……。前の席のカップルがいい感じになりかけて私の目は死んだ。違うの、違うのエマちゃん。

エンドロールが流れ終えて席を立つ。その後、私たちは余ったポップコーンをベンチで黙々と消費するしかなかった。


「稀咲くん、どっか行きたいとこある?」


気を取り直して声をかけ、無言で手を引かれて(さっきはプラプラしてたのに今回は自主的に握ってきた)やってきたのが水族館だった。

あの稀咲鉄太がデートで水族館。


「か、かわ……」
「川?」


かわいい。ギャップ萌え。神経質そうな顔で水族館のチケット買うところとか想像できない。たった今見てたんだけど。そこから水槽を眺める稀咲くんやらブルーライトにあたる稀咲くんやらペンギンを見つめる稀咲くんやら、展示物二の次で珍しい稀咲くん鑑賞になってしまった。なんなら口に出してたのか、売店で「ほらよ」とこれまた神経質そうな顔でペンギンのぬいぐるみ買ってくれた。ドラケンみたいなことする稀咲くん……ええ……似合わなかわいい……。この時点でかなりお腹いっぱいだったのに。


「合格おめでとう。……アンタなら楽勝だと思ってた」


なんて目線を逸らしてボソッと言うもんだから、ちょっと見せられない顔になってペンギンのぬいぐるみで隠した。デートってすごい。幸せ。優勝。受験頑張って良かった。ふわふわニヤニヤしたまま思わずぴとっと稀咲くんの腕に懐く。「歩きづれぇ」て悪態をついたけれど、離そうとするそぶりは一切なくて、余計に頬が緩んだ。

それから夜になって近くのファミレスでご飯を食べて、もう帰る時間になってしまった。左手でペンギンを抱いて、右手で稀咲くんの腕に懐きながら、途端に思い出した。

本番はここからだって。


「あの、さ。最後に寄りたいところがあって」


吊り上がった眉がさらに上がる。

「こっち」と駅の反対方向に引っ張って、だんだん暗いところまで来て、着いたのは真っピンクの看板。稀咲くんの足が途端に重くなった。

エマちゃんに相談したこと。その際たるものがここだった。


「どういうつもりだ?」
「えっと、」


“中学生だけでも泊まれるところってある?”

たぶんエマちゃん経由でドラケンから意見をもらったんだと思う。中学生がノーヘルでバイクを乗り回して捕まらない世の中だ。そういう抜け道もあるだろうって思って、聞いてみたら案の定あったわけだ。


「今日お母さんに、友達の家に泊まるって言ってきたんだ」


稀咲くんの眉間がシワクチャになった。


「帰りたくない、なあ」


調子に乗ってすりすりと肩口に頭を擦り付けた。

別に、本当に今日一線を越えようだとかそんなことは思っていない。あくまで稀咲くんを引き止める最終手段で、一晩中ひっついて寝たっていい。でも、自分のことが好きな男の子と一緒に夜を過ごして何も起こらない、なんて虫がいい話もない。そのための保険に新品の下着を着けてきたわけで。

付き合ってない男女がセックスするのなんて、大人なら絶対ない話でもない。


「帰るぞ」
「────」


バリッと腕から引き離された。誰って、稀咲くんに。そのまま手じゃなくて二の腕辺りを掴まれて無理やり歩かされた。「待っ、」つんのめった拍子にペンギンのぬいぐるみが落ちて、取りに戻ろうにも稀咲くんは止まってくれない。前を向く顔はこっちからは全く見えなくて、なのにどうしたって怒ってる風にしか思えなくて。

稀咲くんを怒らせてしまった。


「稀咲くん、ちょっと話そ。ね?」
「…………」


止まらない。明るい大通りに向かって歩いていく。


「やだ、まだ帰りたくないの。お願い、一緒にいて」
「ダメだ」


もうすぐ角を曲がる。そうしたら駅まですぐそこで。


「お願い、わたし、……私、稀咲くんのことっ、す、好きなの」
「そう言えばオレがコントロールできると思ってるのか」


トスッ、と。背後からナイフで刺されたみたいな衝撃で、私の体から力が抜けた。

大袈裟な表現じゃなく、本当にそれくらいビックリして、時間が止まったみたいな錯覚を覚えていた。やっと振り返った稀咲くんは血走った目をして私を睨んでいる。私はまだ衝撃が抜けきっていなくて、ポカンと口を半開きにしていたんだと思う。

衝撃。あまりに的確に図星を突かれた衝撃だ。

私は稀咲くんの恋心を利用して、稀咲くんの行動を制限していた。ぜんぶぜんぶ無意識────なわけない。もちろん意識して小悪魔ぶったり可愛こぶったりおぼこぶったり。あ、最後のはぶるもなにもって感じだけど。とにかく、稀咲くんの心をかき乱す綺麗な先輩として、演技ではなくあけすけな本心をかなりオーバーに伝えてきた。そうすれば彼の関心を引けると思ったから。

彼の凶行を防げると思ったから。

バレた。バレてしまった。状況を理解した途端、泣きたい気持ちや震えていた体がすぅっと鎮まって、口元には挑発的な笑みが浮かんだ。

二の腕を捕まえている手の上から自分の手を重ねる。ずっと何となく恥ずかしくって庇ってた左手が、指輪が、稀咲くんの手に食い込む感覚。

ごめんね、稀咲くん。私って、ここまでしないと、



「ぜんぶあげる」



稀咲くんを“信じられない”んだよ。


「私のぜんぶ稀咲くんにあげるよ。私の心も、体も、人生も、ぜんぶぜんぶぜんぶ」


夜とは思えない街の喧騒が遠く遠く。自分の声だけが別の時空にいるみたいによく響いた。すごいことを言っている自覚はあって、すごいことになるかもしれない不安もあって、……すごいことをしてやろうって度胸がいっぱいあった。



「そばにいて」



たったそれだけの願いのために。私は私のぜんぶを賭けた。

稀咲くんに死んでほしくないから? ちょっと違う。稀咲くんが今日死なない・人を殺さない・どこにも行かない安心感がほしいから。ただそれだけのために私は、この世界の悪役である男の子に“らしい”顔をさせた。


「言ったな?」
「うん」
「本気で受け取るぞ。撤回はなしだ」
「うん」
「────そうか」


そうして私たちは近くのカラオケボックスに入った。

…………え、ホテルじゃないの?


「もしかして私、そういう魅力ない?」
「ふざけてンのか」
「べ、別に期待はしてなかったよ、ほんとほんと。でも出番がないのもそれはそれでね? せっかく新品のかわいーいブラ着けてきたのに」
「かわ、……ッ!?」
「足も冷たいなあ、寒いなあ。シャワーくらい浴びたかったなあ。温めてくれる素敵な男の子はいないかなあ?」
「〜〜〜〜このッ! クソ女ッ!」


ゲシゲシとソファを蹴られるが、私は震度4を観測しているだけで無傷だ。ついでにジャケットを投げられたので有り難く膝掛けにしている。相変わらず襟がモコモコしてて可愛い。

はじめに隣に座ろうとしたら野良猫みたいに威嚇されて渋々お向かいに座ったらコレだ。めちゃくちゃ意識されてるのがモロ分かりで、絶対にそういうことはしないという拒絶を感じる。私もカラオケボックスが初めてはイヤだ。稀咲くんはもっと嫌そうにしてるし。絶対に起こらなそうだからこんな軽口も叩けちゃう。


「あの映画も仕組んでたのか」


軽口を叩きすぎてこんな誤解を招くのが私ってヤツだ。


「あの映、画……あーー! 違う違う違う! あんなシーンあるなんて知らなかったの! 冤罪です異議を申し立てます!」
「状況証拠が山ほどあるだろ」
「それでもあれは不可抗力! 無罪です事故です!」
「事故でも過失があればしょっ引ける」
「不良の言うこと!?」
「不良は関係ない」


それはそう。

まさかアピールのためにあの映画を選んだとか思われるとは。ド真剣に睨まれてるのが誠に遺憾。ブーツを脱ぎ捨ててソファの上に体育座りする。稀咲くんのジャケットがあるからパンツは見えないはず。遠慮なくジャケットに顔を寄せて、隠して、今まで聞かなかったことを今なら聞ける気がした。



「なんで私が好きなの?」



ヒナが好きだったんじゃないの?

顔は上げないまま、目も合わせないで聞く。声は勝手に震えてしまって、やっぱり怖がっている自分に気付いた。


「初対面の夕凪が、オレのことを褒めたから」
「ん?」
「“すごい”って言った、から……」


そんな、そんなことで?


「いやいや、ヒナだってすごいすごい言ってたでしょ。もっと可愛く」
「橘の“すごい”は誰にだって言ってる褒め言葉で、オマエの方が特別な気がした」
「……それだけで?」
「好き嫌いに明確な理由が必要か?」


稀咲くんが言うにはなんとも抽象的な言葉だ。もっと理詰めで物を語ると思っていたから。でも、らしくない言葉だからこそ信憑性が増した。

初めてなんの引っ掛かりもなく受け入れられた。


「そっちこそ、しつこいくらい橘の名前を出すよな。どんな勘違いしてんだ」
「それは、」


言ってもいい気がした。ぜんぶあげるって言ったもの。ぜんぶ言っちゃってもいいくらい口がふにゃふにゃに柔らかくなっちゃって、あと数秒経ったら言っちゃってたかもしれない。

“私、もしもの未来を知ってるんだよ”って。



「…………稀咲くんが彼氏になったら、教えてあげる」



ふにゃふにゃな口がまったく別のことを吐き出した。だってまだ一晩経っていない。稀咲くんが生きているもしもの未来になっていない。だから、まだ信じきれていない。

稀咲くんが悪役じゃない未来になったら、ちゃんと話そうと決意した。


「あと2p、がんばれ」


やっぱり心の準備が欲しくなっちゃったから。私はお決まりのセリフとともに小悪魔な先輩ぶって後輩の稀咲くんに笑いかけた。











「好きだ。オレのモノになれ」



まさかその1ヶ月後。急に身長が伸びた稀咲くんに卒業式の帰り道を強襲されて壁ドンからの顎クイを決められ、ムードもへったくれもなくお腹を抱えて笑うハメになるなんて想像もしていなかった。


「〜〜〜〜しっ、しーくれっと、ぶーつ! シークレットブーツ! ズッッッル! 誰の入れ知恵!? 半間!?」
「なんで分かった」
「だよねだよね!? 稀咲くんの作戦にしては杜撰だもんね!? 半間ヤッバ! ギャグセン高いお腹いたい!」
「…………チッ」
「あはは、うぐっ、げほっ、ふふふふっ、……ふ!?」


カチャッ、と。

この流れでキスしようとしてきた稀咲くんは絶対にやけくそだったし、勢い良すぎて眼鏡がつっかえてちゃんとできなかったのはなんというか、締まらないなあ。

なんとかクスクス笑いに落ち着いた私は、ちゃんと出来なくてブスくれる後輩から眼鏡を奪ってそっと背伸びした。



「だいすき」



悪役でもただの後輩でもなくなった稀咲鉄太が、目をまんまるにして固まった。






***






「タケミチくん……」
「なんもしてねーよオレ……」
「じゃあなんですかコレ……」
「知るかよ……」


華やかなホールにいくつも並んだ円卓。スポットライトが集まるところにはお色直しの青いドレスを着た新婦が、青いタイや小物でまとめたタキシードの新郎に腕を絡めて歩いてくる。死んだ目をしたナオトの逆隣では感極まってハンカチを取り出したヒナが小さく呟いた。「お姉ちゃん、きれい」

現代に帰ってきた途端、オレの視界に広がったのは稀咲とヒナの従姉妹のお義姉さんの結婚披露宴だった。

いつかの現代で稀咲に銃で撃ち殺されたお義姉さんは、染めていない真っ黒い髪を結い上げて幸せそうに微笑んでいる。それを見つめる稀咲だって気持ち悪いくらいに穏やかなツラで、人殺しにはどうしたって見えなかった。ヒナを何度も殺してきた男だ。思うところがないと言ったら嘘になるし、憎しみが消えたわけでもない。けどさ、こんな幸せな空間をぶち壊してまでお義姉さんと別れさせようだなんて気持ちは一切湧かなかった。


「ヒナもタケミチくんとこんな結婚式がしたいな」


ピンクとか黄色とかのふわふわしたブーケ。きっとブーケトスの時にキャッチした花を抱えて、花に負けない可愛いヒナがうっとり微笑んだ。

こんな現代なら、オレが変える必要はない。

寄り添ってキスする新郎新婦に会場中から歓声が上がった。


…………それにしても。



「九井、ご祝儀いくら包んだ? オレ19万」
「30万。ずいぶん中途半端な数だな。割り切れねぇならなんでもいいと思ってんのか?」
「そういうジンクスなんだろ。知らねぇけど。つーか30は偶数だろ」
「偶数奇数で別れるヤツらかよ」
「ばはっ! 違いねー」

「イザナ、それオレの伊勢海老グラタンだぜ」
「知ってる。鶴蝶のモンはオレのモンだ」
「欲しいなら先に言えよな。そっちの皿に分けっから」
「じゃあシャンパンボトルで持ってこいよ。ちまちま頼むのはメンドーだ」
「おいおい。稀咲にしばかれるぞ」
「いいんだよ。嫁と乳繰り合うのに夢中だ」
「ったく。すいませーん! シャンパンボトルで!」




新郎の来賓席、ヤバい人しかいないのかな……。








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