「休み時間も勉強? えらいね」


サラサラの黒髪と大きなレンズの眼鏡。乾燥気味の死んだ魚の目がギョロリと見上げてくる。良く言えばクール、悪く言えば不気味な何を考えているのか分からない顔。きっとさっきまでならキモいと思っていた。チラッと見ただけで終わったはず。でも今、この瞬間、強烈に話しかけなければいけないと思った。早くしないと取り返しがつかなくなるって。焦って、立ち止まって、何を言えばいいか分からなくて、焦って、慌てて口を開いた。


「だ、だれ……」
「あっ、急にごめんね。私ここの生徒じゃなくて、」
「お姉ちゃん!」


ドンッと勢いよく背中に抱き付かれる。思わず目の前の机に手をついてしまい、男の子と顔が急激に近付いた。ほんとに、鼻先がくっつきそうなほど。死んだような黒目がキュッと引き締まって、眼鏡がなければ意外と大きな瞳かも、とか変な方に思考が飛んだ。


「ヒナ、危ない」
「ごめんなさーい! 久しぶりで嬉しくて!」
「春休みに会ったばかりでしょ?」
「1ヶ月経ったもん」
「甘えん坊だよね。ヒナだってナオのお姉ちゃんなのに」
「えへへへ」


ポニーテールが可愛らしい女の子。こんな子に笑いかけられれば、そりゃあ誰だって好きになっちゃうよね。


「橘の、お姉さん?」
「勉強の邪魔してごめんね! 私の従姉妹の夕凪ちゃん! 一個上なんだ」
「そう、なんだ」
「ヒナの忘れ物を届けに来ただけなの。──初めまして」


声をかけると、小さくて薄い肩がビクッと跳ねる。そのままボソボソと「どうも」と呟いたきり、算数の問題を解く作業に戻ってしまった。ビックリするほど華奢で、頼りなくて、今の私の方が少し背が高いかもしれない。


「お姉ちゃん、稀咲くんね、全国模試で一位なんだよ。すごくない?」


稀咲くん。稀咲、鉄太くん。


「へえ、すごいんだね」


十四年後の未来で橘日向を殺す、あの稀咲鉄太が、私の目の前にいた。




***




「稀咲くんって天才なんでしょ?」
「そ、そんな、」
「これ分かる?」


漫画を読んだ時の印象は「イカレてる」だ。

好きな女のタイプになるために人を操って、人を殺して、自分の物にならないと分かれば好きな女も殺す。なまじっか天才だったばっかりに計画が全部上手くいって、タイムリープとかいうチートでも使わないと止められない巨悪になってしまった。凡人としてはその頭脳世界平和にでも使ってくれないかしら、と呆れたけれど、人間興味ないことには頑張れない。一見実現不可能な高い目標が頑張ればどうにか手が届くかも、とか思いついた瞬間に目一杯アクセル踏み込んだ。そういう子供だと感じた。

だから、まず初めに少し高い目標をプレゼントすることにした。


「稀咲くんさ、うちの学校受けるんでしょ? 私、生徒会に入りたくて。後輩に稀咲くんみたいな頭良い子が欲しいんだよね」


とかなんとか。本当は人前に出るのもみんなのために頑張るのもしんどいけれど、それらしい目的でもぶら下げないと怪しまれると思った。というか実際にちょっと怪しまれている気がする。胡乱の二文字を真っ黒な瞳に写して見上げてくる男の子。生っ白い肌に汗が滲んで暑そう。ハンカチを差し出すとノロノロとした手が伸びたり引っ込んだりした後、乱暴に引っ掴んだ。人馴れしていない珍獣を相手にしている気分だ。


「入試一位で一年生代表とかになったら私も推薦しやすいからさ。頑張って」


ニッコリ笑って、入試よりちょおっっっっとレベルの高い問題を宿題として置いていく。ヒナをお迎えに行くついでに稀咲くんの机に寄って、そういうやりとりを週一で続けた。まあ、部活とか行事がある時は月一になっちゃったけど。稀咲くんは八割机に視線を固定させて、たまに睨むように私に解答のルーズリーフを渡してくる。会話は一切弾んだ試しはないのに、問題は解いてくれるから嫌がられてはいないと信じたい。

問題を出した時の、死んだ魚の目があからさまにギラつく感じ。やる気がみなぎっている証拠だ。その反応を見ると私はいつも安心する。


「稀咲くんはやっぱりすごいね」


初恋より人生をかけられること、見つかればいいね。

そうして一年。高校の内容に入った段階で、稀咲くんは晴れてうちの中学に入学した。もちろん入試一位の一年生代表として登壇。さすが。在校生として出席した私は、黒髪猫背の制服に着られている少年を保護者のように見守った。

少なくとも在学中は面倒を見られる。あと二年は様子を見て、ついでに高校も良いところに入ってお誘いをかければ五年。東卍を日本一に押し上げる十年のうちの半分を奪えば、裏社会を影から牛耳る男になんてなれっこない。少なくとも漫画と同じ道は辿らないよね。

稀咲くんの先回りができるように頑張って勉強して、なりたくなかった生徒会もやっと胸を張って仕事ができるようになって、稀咲くんが後輩になって。ちょっと油断していたのかもしれない。


「こんな時間に一人は危ないよぉ」
「こわぁいワルがたむろってるからなァ」
「自己紹介かよ。テメェのツラ鏡で見ろや」
「あぁん!? ヤキ入れられてぇのかッ」
「やるかコラ」


そういえばここってヤンキー漫画の世界だった。

生徒会の仕事で遅くなって、渋谷駅を降りてショートカットの暗い道に入ったところでヤンキーに捕まった。典型的なパンチパーマとか金髪とか剃り込みとか。本物を間近で見るのは初めてで、ボケーッと観察してしまったのが運の尽き。思いっきり腕を掴まれて謎の集団の仲間入りを果たしてしまった。というか、向こうってあの、ら、らぶほ……。こんなことってある?

私が漫画の世界に生まれ変わったことに気付いたのは稀咲くんの姿を見た瞬間。それまでヒナやナオが漫画のキャラだなんて知らなかったし、自分がこんなに積極的に稀咲くんに絡むとは思わなかった。なんでガッツリ動けたのか、なんて平和ボケしていたからとしか言えない。遠目には見たことはあっても被害を受けるのは初めてで。眉山だけ剃るのなんでだろ、とかジロジロ見なきゃ良かった。逃がさないと言わんばかりに腕を掴まれているのも、タバコ臭い息で話しかけられるのも、甲高い笑い声も。怖くて怖くて。怖すぎて声も出ない。


「女一人に寄ってたかって何やってんだテメェら」
「うちのシマで好き勝手やってンなよ?」


急に腕の感触が消えた。目の前にいたパンチパーマが吹っ飛んで、振り上げた白いブーツだけが視界に残っている。


「ド、ドラケン!?」
「ドラケンだけじゃねー。後ろのアレ……」


金色の辮髪。黒いドラゴンのタトゥー。大きな体に黒い特攻服を着た青年。その後ろに同じ黒い特攻服を肩にかけた……。


「“無敵のマイキー”だ!」


本物のマイキーがいる。

バタバタと慌ただしく逃げて行った不良たち。残されたのはドラケンと、マイキーと、私。「立てるか?」とドラケンが手を差し出してきて、おっかなびっくり握ると力強く立たせてくれた。あまりにボケッとしてて、浮かんだ涙が目尻から落ちても呆然としてて。ドラケンに落ちた鞄を拾ってもらってもそのまんまで。マイキーに手を振られてやっと意識が戻った。


「すす、す、すみませっ、」
「おっ。起きた起きた。表まで送ってくからサッサと歩けー」
「いえ、すいません、ほんと、あの」
「落ち着けって。オレらとって食いやしねーよ」
「そっ、ふぁい!」


いやいやいやいや。生マイキーに生ドラケンはヤバイって。三次元にいるってほんとヤバイって。


「私立中の制服でこの時間はあぶねーから、次から気を付けろよ」
「はい!」
「元気になった? じゃ、早く帰れよ」
「はい! あの、あ、ありがとうございます!」


まさかの駅前まで送ってもらった上にすっかり存在を忘れていた鞄をドラケンに渡された。しかもしかもマイキーにサラッと頭を撫でられて、なにこれ夢? 現実? 頭がおかしくなりそう。

深々頭を下げて、上げた先で背を向けて手を振るドラケン。かっっっけーーーー。漫画の登場人物そのまんまだ。辮髪がキマッてるなんてドラケンくらいだよ。マイキーに至ってはもうこっちのこと忘れてそう。うわーー本物のマイキーだ。生まれ変わってこんなにテンション上がったことないかも。

うわー、ひぇー、おほー。まあとにかく真っ赤になってしばらくそこに立ち尽くしていたんだと思う。気が付いたら横に稀咲くんがいて、私が忘れたらしい傘をおずおずと差し出してきた。


「橘先輩、不良嫌いなんじゃ……」
「マイキーとドラケンは別格でしょ」


正真正銘のヒーローだよ、あんな、ん…………ん?


「稀咲くん?」
「…………」


長い前髪と分厚いレンズで見えない顔。相変わらず何を考えているか分からない顔。覗き込む勇気がなくて、そそくさと素っ気ない挨拶をして走って帰った。

ヤバイヤバイヤバイ。さっきと別の意味でヤバイって。浮かれすぎた。さっきの私、ヒーローとか口走ってないよね。ないよね!?

ま、まあ、私はヒナじゃないし。マイキーもドラケンもタケミっちじゃないし。そんなことあるわけないって。気のせい気のせい。

ザッパリ風呂に入って汚れごと不安を流した私は、夏休み明けまでそのことを忘れていた。


夏休み明け。稀咲くんが金髪刈り上げで登校してくるまで。


「日焼けした? プール行き過ぎたとか? 色素抜けるくらい通うなんて熱心だね」


ガン無視されたんですけど。


「校則違反だよ稀咲くん……」


生徒会に推薦できなくなったじゃん。

漫画を読んだ感じ、緻密な計画とやらは中一から準備してたんだろう。一年で愛美愛主を掌握して、東卍と接触して、ドラケンを殺す。このままだとドラケンが死ぬ? どころかヒナが確定で死ぬ。ナオもたぶん。他にもたくさん。たくさん死ぬ。ここがタケミっちが戻ってくる世界かも分からないし。

そもそもどうして“あの”稀咲に話しかけようと思ったんだっけ。

ガリガリ鉛筆でノートを埋めていく細い男の子。小さくて、頼りなくて、生気が薄い。これが日本一の不良になって、日本の裏社会を牛耳る男になるのか。信じられない気持ちで観察して、ふと、「それもヒナに告白するためなんだよな」と。思い至って、──白けた。

何ソレ。たくさんたくさん殺して、騙して、傷付けて、それが一人の女のためなんてくだらない。初恋を拗らせた男に良いようにされる日本なんて、くだらなすぎて笑っちゃう。

初恋のために人生を使うには、もったいない才能だと思った。

いや、最初はちゃんと憤りもあったはず。だってヒナもナオも私の大切な家族だ。ドラケンもマイキーも漫画で読んでいて好きなキャラだし、他にもたくさん好きなキャラがいる。この野郎と腹を立てたのは数知れない。今だって長内さんが上手く使われているわけだ。

それを阻止するために今までちょこちょこと課題を出して初恋から目を逸らさせていたのに。どうやら私の努力は無駄に終わったらしい。私ってそんなに頭良くないしね……とか、流せなくなった。

一年の付き合いで“漫画の中の稀咲”じゃなく“後輩の稀咲くん”に変わっちゃったんだもん。


「稀咲くんは、私がレイプされてもいいんだ」
「は?」


確か東卍と愛美愛主がぶつかるキッカケで無関係の彼女がレイプされたよね。

桜舞う新学期。相変わらず金髪刈り上げでサイドに剃り込みまで入った稀咲くんを捕まえたのは、学校から離れたシャッター街にある潰れたゲーセン。ガタイの良い人たちと別れたところを見計らって腕を掴んだ。もう、半年以上も話していない。学校には来ているけれども休み時間も放課後もすぐにいなくなるから。

避けられてると思った。それじゃあ仕方ないなって諦められる時期はもう過ぎようとしている。確か今年の夏にタケミっちが未来からやって来るから。畳み掛けるように漫画の内容を軽く反芻した。


「私がお腹刺されても」


ドラケンとか、場地とか。稀咲くんの差し金だったはず。


「トラックに押し潰されても、爆発で全身大火傷を負っても」


これはヒナに振られた腹いせだ。アレは衝撃的だったなあ。

目的のために他の人を巻き込んで、犠牲にして、最後に無駄だったと分かれば好きな人も殺して。そういう一連の輪の中には私みたいなどうでもいい人間も入ってたんだろうな、なんて感傷的な気分。いや、オブラートに包みすぎか。──とっても悲しい気持ちになった。



「稀咲くんは、私が死んでもいいんだ」



自分でも何言ってんのか分かんなくなってきたけどね。

まあ、私なんてただの先輩だし。ヒナじゃないなら死んでもいいんだろうけれど。ここで言っておかないと、稀咲くんは本当に実行してしまう。ヒナを手に入れるためだけに犯罪者になってしまう。

急に訳わからないこと言い出した女に引いてるんだろうなあ、と。思っている内にガッと肩を掴まれた。「いっ」たい。いつの間にかヒョロガリから細マッチョくらいまで成長してた男の子の手。肩に食い込んでめちゃくちゃ痛い。非難の目を向けると血走った目をかっ開いたヤンキーがガン付けてきた。こ、こわ……。


「誰がテメェをヤるって? ア?」
「いたい、いたいって」
「オレのオンナを脅したのはどこのどいつだ!?」
「手ぇいたいっ、……おんな?」


なんつったこの似非ヤンキー。

泣きそうだった気持ちが一瞬で無になる。そこからジワジワと何を言われたのか理解し出したところで稀咲くんの手が肩から外れた。すごい勢いで離れたと思えば、眼鏡の下の顔をカチンコチンに凍らせて、そのまま背を向けて走って行ってしまった。


「え、え、稀咲くん!? 稀咲くーん!」


そこで逃げるのはナシでしょ。

とっさに走って追いかけてみたけれど、グングン離されて追いつかない。あのモヤシっ子がいつの間にこんな力を。このまま逃げ切られたらもう話す機会はないんじゃ……?


「なんの追いかけっこ?」
「ブッ」


追いついちゃったわ。

長い足に引っ掛けられて派手に転んだ稀咲くん。息を切らしてなんとかその横にしゃがんだ私。私たちを見下ろす巨人。


「女から逃げて恥ずかしくねーの? だっせー」
「半間ァ……!」


稀咲くんそんな声出せたんだ。ビクッとした私を他所にゲシゲシ足蹴にされる稀咲くんと、喉を鳴らすように笑い続ける半間。迷ったのは一瞬。半間が押さえつけてる隙に稀咲くんの手を無理やり取って握った。


「オンナ呼ばわり、する、前に! 言うことありません!?」


息も絶え絶え、汗だくで叫んだ。稀咲くんが死人のように動かなくなって、余計に半間が愉快な声を上げた。いいよもう。半間の娯楽にでもなんでもなってやる。


「何か言われないと、私もっ、なんも言えないんだけどッ!?」


はぁはぁ息を整えて、やっと落ち着いたところで稀咲くんが復活した。正確には半間の足を殴ることで生きてるアピールをしたというか。

ヤンキー座りで私と目線を合わせた稀咲くんは、死んでないまん丸の目をキョロキョロと泳がせて、唇を尖らせて、ものすごく言いづらそうに小さく、本当に小さく呟いた。


「橘、夕凪」
「はい」
「お、お、オレの、ォンナに、な、……れ」


告白としては不合格。他人に興味ない稀咲くんとしてはまだマシ。昔の白い肌だったらもっと赤が目立ったのに、なんて残念に思った。



「そのダサい剃り込みどうにかしたら考えてあげる」



──あと私より身長5p伸ばしてから出直して。

素直に思ったことをお返事にしたら頭上から下品な笑い声が降ってきた。稀咲くんはしばらく固まった後、背後の嫌に長い向こう脛に拳を叩き込んだ。

ヒナの代わりになってあげるんだから、それくらいの要望は叶えてもらわないとね。

それから一月後の健康診断、去年より身長が1p伸びてたことで3p差の稀咲くんにキレられたのは別の話。



「オレがいつ橘の代わりになれっつった?」



ヒナの代わりにならなくても良さそうだと気付くのも、もっと後の話だ。




***




端的に言うと、稀咲くんは東卍の陸番隊隊長になった。副隊長は半間。参番隊の隊長はパーちんのままだし、ドラケンも健在。場地は芭流覇羅に行かずに生きてる。ただ一虎に刺されたのは変わらず、彼はまた少年院に入ってしまったけれど。

外から見ている限り、東卍は愛美愛主と芭流覇羅とぶつかって吸収合併した。ここは漫画通りだ。けれどもところどころでマイルドになっている気がする。愛美愛主はパーちんに正面切って喧嘩吹っかけてチーム同士の戦争になったし、芭流覇羅も場地が抜けることなく普通にぶつかった。稀咲くんは、コソコソ何かをしたのかもしれないけど、東卍に入ったきりパタッと大人しくなった。


「稀咲くんは東卍に入って何がしたかったの?」


私との生徒会入りの約束を蹴って。

言外に嫌味を含ませてしまったのはちょっとした意趣返しだ。今日はワルはお休みなのか、帰りを待ってくれた稀咲くんと一緒に下校する。あの剃り込みは埋まって、金髪を逆立てたソフトモヒカンが小麦色の肌に合っている。身長は3p差のまま。つまり私たちの関係は変わらず先輩後輩のまま。

すぐ横の顔はムッとして視線を逸らした。


「オマエがマイキーのこと、ヒーローとか言うから……」


予想のはるか真逆の答えが飛んできた。


「は? ヒナがタケミっちのこと好きだからじゃないの?」
「ンでここで橘とタケミっちが出てくんだよ」
「だって稀咲くん、ヒナのこと好きだったでしょ?」


ザッと靴底が地面を擦る音。立ち止まった相手に釣られて私も止まると、信じられないものを見る目で睨まれた。


「橘の代わりで、同情でオレに近付いたのか?」
「違うけど」
「けど? けどってなんだ。言ってみろよ」
「稀咲くんのこと、ずっと見てたいなって思ったから?」


主に未来の被害者とヒナとナオの心配と、あと単純に稀咲くんの今後の心配?

無邪気さを装って、後半の含みを一切削り切ったドシンプルな言葉で伝えると、稀咲くんはいつかの時と同じようにカチンコチンに固まった。あ、また逃げられるかも。とっさに腕を捕まえると逆に二の腕を掴まれた。ギッチリギチギチで逃がさないと言わんばかり。


「絶対マイキーよりすげぇ男になってやる、から」


──あんな顔、もう向けんじゃねーぞ。

あんな顔の心当たりが生マイキーと生ドラケンに興奮したアレしか思い当たらなかった。ファンの顔がどうやら別の何かに見えたらしい。え、それって、もしかして、アレのソレのアレ?

初対面のボソボソ喋りでそんなことを言うもんだか、意地の悪い笑みがニンマリと浮かんでしまった。



「あと2p頑張って伸ばしてね」



不良にならなくったっていいのに。とは男の子のプライドを思って言わないでおこう。

ムスッと不機嫌な稀咲くんの腕に腕を絡めて、やっぱり固まった彼に可愛いなあと思ってしまった。

「イチャついてんじゃねーぞ」とハートマーク付きで茶化す半間が来るまで、そうやって私たちは学生らしくくっついていたのだった。





***





「ヒナが生きてる……?」
「それどころか東京卍會はただの暴走族として残ってますし、元メンバーもみんな生きてます。稀咲なんて表の一流企業の社長ですよ」
「はぁ!? なんだそれ!? 今回オレ何もしてねーぞ!?」
「いったい何がキッカケで……」



「鉄太くんの趣味悪ッ。なんで婚約指輪に金?」
「いいだろうが。資産価値があって」
「将来売ってもいいの?」
「…………別の買いに行くぞ、夕凪」
「やった」






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