入間妹/誘拐されたけど兄たちの方が怖い
※Enter the Hypnosis Microphoneのドラパ沿い。
ちゅどーーーーーん。
どっかーーーーーん。
ずどぉーーーーーん。
「こわい……」
「そうですよね、こんなに乱暴に扱われて……さぞ恐ろしかったことでしょう。もう大丈夫ですよ。私たちがついていますから」
ちがう、そうじゃない。
穏やかに、優しく、慈しみの目で見下ろしてくる神宮寺先生。固い膝に頭を預けて地べたに寝そべる私。冷静に訂正を入れる余裕なんて全くなかった。
遡ること今日の夕方。
退院して兄のマンションの住むことになってしばらく。ヘルパーさんを呼んだり、週二で通院してリハビリや検査をして、やっと家の中で介助なしで家事ができるようになってきた今日この頃のこと。玄関のインターフォンが突然鳴り響いた。──おかしい。だってこの家は高給取りの兄が選んだセキュリティばっちりのマンション。当たり前にオートロックだし、来客がある時はまずエントランスの方に通される。今の音が直接玄関のインターフォンを押した時に流れる音だった。
普段は小学生のフリに勤しむ私とて警戒心まで小学生レベルに落とすわけもなく。絶対出ないし、なんなら玄関にも近付かないようにした。ついでに兄にも連絡しておこうと子供スマートフォンでメッセージアプリを起動した。
この時、仕事中だろうから……と電話にしなかったことを後になって悔いた。何せ既読のマークがつく前に玄関の方からガチャガチャガチャガチャ──ガチャンッ。明らかに“ピッキングしました!”という異音の後に重い足音が複数押し入ってきたのだから。
「入間銃兎の妹だな?」
世紀末なの?
ヒャッハーーーーとでも言い出しそうなチンピラに有無も言わせず薬を嗅がされて、気が付けば腕を縛られた状態でコンテナの凸凹な床に直で寝かされていた。本当に世紀末なの?
最近やっと筋肉と脂肪が付き始めて、座っていても骨が当たらなくなってきたのに。こんな放置の仕方はあんまりだ。しかも耳を澄まさなくても近くから子供のすすり泣く声がする。体勢的に振り向いたら絶対に首を攣るので見れないけれど。さて、兄も知り合いもいないここで小学生のフリをするべきか、子供を落ち着かせるために年相応に振る舞うべきではないのか。
口を開けようとしたその時、ドスドスと重い足音が遠くから近付いて来た。
「お、やっと目ぇ覚めたのかよ。待ちくたびれたぜ」
えっ。
バンダナを頭に巻いた、明らかに堅気ではなさそうな大男が私を肩に担ぐ。そんでもって逆の手で泣いてる子供の首根っこを掴んで引きずった。どこに連れてかれるのか。
コンテナの外に出ると、夜の港なのに人の声がたくさん聞こえる。聞きたくもない野次の方にどんどん近付いて行って、人だかりの真ん中に見たことがある人を見つけてビックリした。
「せんせぇ?」
「っ!? お嬢さん、何故ここに?」
「ああ? お前、入間銃兎の妹だろ? 何で神宮寺寂雷と知り合いなんだ、よっと」
いっ……たたた。
縛られたまま投げられて受け身も取れずにコンクリートにぶつかった。高々1メートルもないのに骨がミシッと嫌な音がした。「やめなさい!」先生の声がして、他にも知らない人からの心配の声が聞こえてくる。本当に知らない人だけれど。そういえば、以前に兄と一緒にテレビに出ていた人もいないか? あの金髪のキラキラした人とか見覚えがある。……なんの集まりだ。
「何の真似ですか。彼女は無関係なはずです」
「人質だよ人質。コイツは入間銃兎の妹で、左馬刻にも目ぇかけられてる女だからよ。ついでに商品だな。もうちっと肉付ければ結構な値が付くぜぇ」
「じ、人身売買!? 何時代だよ!」
ほんとにね。
不健康そうなお兄さんにちょっと頷いてしまった。というかなぜ左馬刻さんがここで出てくるんだ。テレビに出たから変な輩に顔を覚えられてしまったのだろうか。じゃあ隣の子供はなんなんだって話である。あちらにいる小学生と高校生のご兄弟っぽくはあるけれど、何がなんだか。
「家族を人質に取るなんて……見下げたクソ野郎だなァ!!」
「おーおー、やっぱりな。MC.B.Bなら怒ってくれると思ったぜ」
「ぐっ、」
「おい!」
背中に足乗っけるのやめてください痛い痛い痛い。
コンクリートに頬を擦り付けながら、いまだに現状が理解できなくて困った。痛いし身体中ヒリヒリするし。本当に人身売買なんてあるのだろうか。近未来の日本、昔より倫理が退行しているのはなんなんだ。
誰も彼も動けなくて頭上から嫌な笑い声しか聞こえない最悪な膠着状態。そこでもっと悪いことに新手がやって来た。「兄者」なんだその古風な呼び方。コンクリートに押し付けられて見えないけど、他にもぞろぞろと歩いてくる気配がする。これ以上お仲間がいたのかと思った瞬間、そこに被さる勢いで今朝聞いたばかりの声が私の名前を呼んだ。
「名前ッ!!」
「おに、ちゃ……」
え、仕事じゃ、ええ……身代金催促の電話とかあったのかな。
起き上がりかけたところでタイミングよく背中に乗ってる足が体重をかけてくる。「うっ」下手に動くと肉離れが起こりそう。あれ痛いんだよね。リハビリ途中で無茶して介助の人に優しく注意された。いや、今この状況も無茶させられてるんだけども。コンクリートで擦ったのか頬がヒリヒリする。
「人の妹を足蹴にしてんじゃねぇぞド三下ァ」
「その三下に手も足も出ない貴方はなんなんです? 雑魚かありんこですか?」
「クソの役にも立たねぇ蛆虫野郎どもがッ!」
「おいおい相変わらず偉そうだな左馬刻。俺の足の下、見えてねぇのか」
「っいぁ、いたい、いたいいたいいたい……!」
ちょっと背骨がミシッと言った。驚いて口から大げさな言葉が飛び出して、余計に兄の心配を煽ってしまった。ごめんなさい黙ります。
「くそっ、ふざけやがって!」
「おやおやどうしたんです?芋虫の真似なんかして」
「面白ぇ!そんなに妹が大事か、よ!」
足がどけられたかと思えば頭を掴まれて、やっと地面から離れられた。とはいえ、今度は無理やり顔を上げられているせいで首が痛い。盛大に顔をしかめながら目を開くと、見えたのは……縄に縛られた十人ちょっとの男の人たちだった。
「くっ、」
その中に、兄の姿もあって。
あまりの異様な光景に痛みも忘れて絶句するしかない。
なんだろう、胸のあたりがざわざわとして落ち着かない。ボロボロで倒れている兄。父にそっくりの兄。眼鏡がずれて、緑色の瞳が見やすくて、余計に昔の父みたいで。頭の奥から血の気が引いていく音がした。なんだかまずい気がする。震えが止まらない。まずい。どうにかしなければ。逃げなければ。どこに?
私が静かに混乱している間にも、また知らない女の人がやって来て、何事かを叫んで、それからまた誰かがやって来て、──え?
「無花果様!」
夕方のテレビで映っていた内閣総理大臣補佐がなんでここに?
混乱でフワッとしていた頭が別の混乱に殴られて正気に戻る。それからは怒涛の勢いで、私は蚊帳の外からヒプノシスマイクの一方的な攻撃を見ているしかできなかった。
ヒプノシスマイクが神宮寺先生のようなお医者さんが使う医療機器じゃないことは、ここ最近のテレビや新聞で理解した。兄がテレビに出た意味は分からないけれど。見世物的なことで興業化されていることも、なんとなく。お国からの正規品を許可制で持ち歩けるのも知っている。けれど、これはあまりにも。
「あぁ、あ、ああ……」
──暴力、だ。
なにが言葉の力で武器を一掃する、だ。こんなの銃やナイフと一緒じゃないか。目に見える傷がないだけでボロボロに傷ついている。武器となにが違うんだろう。
体の震えが戻ってくる。いつの間にか背中に乗っていた足は退けられていて、私は地面に寝そべったまま、勘解由小路さんと誘拐犯たちの会話を下から見上げていた。
「さて、と」
「ど、どうする気だ? 僕たちを、粛清するのかっ?」
「そうしてやりたいところだが……」
一瞬絡んだ視線。なんだろう、その顔。考えているうちにすぐ目を逸らされてしまった。
「馬鹿な男たち同士でどうにでもなれ」
コツコツコツコツ……。ヒールの音が遠ざかっていく。訳も分からずに固まっていた私の頭上で、髪が長い方の誘拐犯が笑い出す。そして、マイクを手に、て、手、落ち着いて、落ち着け、何を怖がって、ててて手、手て、手、ててて、あ、あ、ああ、手、あ、ぁ、ああぁあ。
おにいちゃんが、おにいちゃん、ぱぱ、まま、おにいちゃん、なんで、まま、ままぁ。
「いやっ、やだぁ!」
「名前、っやめろ!」
「!? このクソアマァッ!」
過去の“入間名前”が暴走する。
無理やり起き上がって、相手の腕に飛びつく。緩く握っていたマイクをはたき落として、落ちたそばから蹴り飛ばした。コンテナの隙間にちょうどよく転がっていったマイク。その行き先を見届ける前に、頭に物凄い衝撃がやって来た。殴られたんだ、と気付く前に私は気絶してしまったらしい。
目が覚めたら硬い膝枕で、視界のほとんどが神宮寺先生の顔と髪の毛だった。
「せ、んせぇ?」
「動いてはダメですよ。頭を打ったんです」
そういう先生の手には高そうなハンカチがあって、赤く汚れていた。そんな重傷なのか。「大丈夫、大したことはありません」不安な顔がバレて、先生が安心させるために笑ったのが分かった。
「先生、お取り込み中のところすいません。あの、あそこの五人、本当に止めなくてよろしいんでしょうか」
あそこの五人?
うろっと視線を彷徨わせて、ようやく、謎の振動と破壊音、それから悲鳴が響いていることに気が付いた。
ちゅどーーーーーん。
どっかーーーーーん。
ずどぉーーーーーん。
「そうそう、MAD TRIGGER CREWの奴らはともかく、なんでいち兄と二郎が」
「おや、三郎くんには分からないかな? 兄心、というやつだよ」
「はぁ?」
「なんでお前が偉そうなんだよ」
「ひぎゃぁぁあああ」だの「うぼぇぇえええええ」だの「あがぁああああああ」だのをBGMに無表情でマイクに声を吹き込み続ける兄と左馬刻さんと理鶯さん。そして知らない黒髪の二人。おそらくここにいる黒髪の男の子の血縁。なんで?
「こわい……」
泣いて謝っても止まらない攻撃。それがいつもデロデロに甘やかしてくれる身内と体を気遣ってくれる知り合い、そして知り合いですらない男の子二人。誘拐より怖いってどういうことだ。
「せんせぇ、お、おにいちゃんが、」
「ええ、ええ、大丈夫。なにも心配ありませんよ。お兄さんは見ての通り元気です」
そういうこっちゃないんだ。ステンドグラスのマリア様のような微笑みを浮かべる先生。こっちもこっちでなんだか怖い。助けを求めて隣の金髪の人を見ると、意味深にウインクされて手を取られた。
「こんなに乱暴に扱われて、怖かったでしょう。安心してください。もうあなたに傷一つ付けません」
「おい一二三。どさくさに紛れて入間さんの妹を口説くな」
「独歩くん。こんなにも可愛らしい子猫ちゃんを丁重に扱わないなんて、ホストの名折れだよ」
「ああ、そのことですが。彼女は私の患者で、少々複雑な事情がありまして。できるだけ優しく接してあげてください。例えば、──七歳の女の子に話しかけるように」
まんまじゃないですか。
「七歳」「ななさい」と口を揃えて呟いたお二人。ついでに近くに立っている男の子も、遠巻きに立っている三人組も。というか向こうの集団は嫌にカラフルだな。ピンク色の髪なんて初めて見た。そして目が合ったら急に表情を明るくして近寄ってくるものだから、一瞬怯えてしまったのも仕方ない。
「ふむ、入間銃兎氏の妹君と聞けば気が強そうなイメージがありましたが、なんともまぁお可愛らしいお嬢さんで」
「お姉さん大丈夫?飴ちゃん舐める?」
「飴村くん。この体勢で舐めれば喉に詰まります」
「うっざ。僕はお姉さんに聞いてるんだけどぉ」
「あ、ぅ、いらない、です」
「そっかぁ、ザンネン」
差し出された棒付きキャンディーはすぐにピンクの子の口に入った。
「じゃあ僕のリリックでも聞く? 怖いことも悲しいこともぜぇーんぶ忘れさせてあげるよん!」
「乱数、言葉のチョイスが売人のソレです。先ほどのこともあって洒落に聞こえません」
「どうでもいいけど早くズラかろうぜ」
「貴方は貴方で人の心はないのですか、帝統。ここは一つあっしの感動実話でも」
「どーせ嘘なんだろ」
「嘘だウソー!」
「マァ嘘ですけど」
濃ゆい。今この濃ゆい人たちと話さなきゃダメなの。
ぼやーっと見ていると頭上で小さな咳払いが。それさえ良い声でびっくりした。
「皆さん怪我人の前ですよ。お静かに」
「べぇー」
「飴村くん」
先生、止めてくれたのはありがたいんですけど、静かにキレるのはやめてください怖いです。
私の味方はいないのか。ぐったり先生のお膝にお世話になっていると、近くに誰かがしゃがみ込んだ。
「はぁ、これだから大人って。マイクを使うまでもないでしょう。怖いなら別のことを考えればいいんじゃないですか。円周率とか、素数とか」
「円周率……さんてん、いちよん、えっと」
「へえ、二郎より賢い」
誰だ二郎。
円周率はせめて3.14くらい覚えよう二郎。
先生とピンク髪の人がやんややんやしている間に、近くでは素因数分解とかフィボナッチ数列とか語られて頭が余計にぐるぐるした。サラウンドってやつだ。
……いや、もしかして貧血では?
「せんせ、せんせ」
「はい?」
「あたま、ぐるぐる、しゅりゅ」
「おや、それはいけませんね」
キュィーーーンとお馴染みの高音。バチバチバチとこれまたお馴染みの大きなクロスのオブジェが現れて、耳に染みるような声が吹き込まれた。
途端にうとうと目が重くなって、あ、コレ麻酔…………。
「左馬刻くん! そろそろマイクを収めてください」
「あ"あ"!? まだ粗挽きの途中だ綺麗なミンチにしてやンだよ黙ってろ!」
「名前さんを病院に連れて行きます」
粗挽きでも、ミンチは、ヤバい、…………ぐぅ。
***
「くそっ、クソクソクソッ、ふざけるなよ、女の分際でッ」
「っ、ひっ、グゥ、ぁが、ぁ」
痩せ細った体が、クソ野郎が足を振り上げるたびにビクビク跳ねる。あれでも最近肉がついて来て、顔色もずっとマシになったってのに。男に暴力を振るわれる一部始終を黙って見ていることしかできない。そんな馬鹿なことがあってたまるか。
「ぱぱ、まま」
「おにいちゃん」
「なんで、おにいちゃ、」
啜り泣きが聞こえた。出所は頭から血を流している妹。朦朧とした意識の中、両親と俺を呼んでいる。うわ言がコンクリートの上を転がって、地べたに座り込むこちらまで届いた。正気じゃない妹は、体の内側から釘を突き刺すような悲愴感を思い出させる。もう何年も前に感じたきり、最近は怒りで押し流されていた感情。
無力感。
せっかく目覚めた妹なのに。
俺はまた家族を救えないのか。
なんで、何故、何故だ、俺は、……!
「銃兎、帰るぞ」
左馬刻に肩を殴られるまで、ありったけの罵詈雑言をマイクに吹き込んでいた事実に気付かなかった。野良バトルでも有り得ねェ酷いリリックで、とっくに昏睡している男どもを嬲り続けた。まだだ、まだ足りない。コイツらに名前が受けた仕打ちを、感じた恐怖を倍返しするまで。
再度リリックを吹き込もうとしたところで、今度は理鶯がマイクを押さえつけた。
「名前を病院に連れて行く。銃兎がそばにいなければ不安になるだろう」
名前。……名前が、そうか。
スピーカーが音を立てて消えて行く。マイクも元の形を取り戻し、やっと収めたところで冷静な思考が戻って来た。
振り返れば名前を抱えた神宮寺寂雷が、いつの間にか来ていたワゴンに乗り込んでいる。救急車はサイレンがうるさくて目立つ。それを加味しての判断だろう。「こちらへ!」と大きく呼ばれ、俺が乗らなければ出発しないのだと察する。痛む体を押して早歩きで近付くと、同じように左馬刻と理鶯がついてきた。
「お前らは帰っていい」
「俺様に指図してんじゃねぇ」
「今回名前が巻き込まれたのは小官にも責任がある。同行しよう」
ったく、話が聞けねぇヤツらだ。
結局、俺と左馬刻がワゴンに乗り込み、理鶯は俺の車でついてくることになった。
中に乗り込めば救急車と似たような造りで、ストレッチャーのサイドの席に人が乗れるようになっている。そこに神宮寺寂雷と、伊弉冉一二三、観音坂独歩が同乗していた。
「何故彼らが?」
「名前さんのことが心配なんですよ」
「そんな義理は、」
ないだろう、と言いかけて口を閉じた。
細い体の女が何度も蹴り転がされて頭から血を流す。一般人にとってはそれはショッキングな映像に違いない。目の前で見たのなら、尚更。
尚更、自己嫌悪が湧いてきた。
名前はストレッチャーの上で横たわっている。毛布をかけられた状態で、目を閉じて、すぅすぅ寝息を立てている。昨日の夜に見た寝室での寝顔と同じで、余計に惨めな気分になった。
「また、失うかと」
普段なら絶対にこぼさない弱音が勝手に出て行く。グッと唇に力を入れれば鉄の味がした。
『なんで、おにいちゃん』
お前は、
事故にあった時も同じことを言ったんだろうな。
「おにぃちゃ、こんどは、おでんわするね」
目覚めた妹の第一声がソレだった。
ガツンと頭を殴られる感覚。怖かったとか、何ですぐに助けてくれなかったのとか、責められて然るべきなのに。むしろ俺の方こそ、責められなければ仕方ない人間なのに。助けを呼ぶ手段をミスったことを名前は反省している。こんなことが次もあるかのような言い草も、それでも俺が助けてくれるだろうという信頼も、全てが苦しくて、どうしようもなくて、辛くて、……嬉しかった。
俺はまだ、コイツの兄ちゃんでいられるんだ。
「ああ、ああ、いつでもかけてこい。名前の電話なら兄ちゃんいつでも出るからな。仕事中でもバトル中でも名前が一番だ」
「ふざけんなバトル中は電源切れや」
「流石に小官もどうかと思うぞ」
「家族の会話に入って来ないでくれますか」
「あ"ぁ"!?」
空気が読めるのか読めないのか。
一番ボコスカ殴られたクセに、絡んでくる元気はある左馬刻と真顔で首を振った理鶯。面倒だが悪くねぇな、と柄にもなく思った。
ところで。
「子猫ちゃん、元気になったら今度僕の店にいらしてくださいね。快気祝いに素敵な夜をプレゼントするよ」
「こ、こねこちゃん?」
「一二三。さっきの先生のお言葉を忘れたのか。七歳に接するように丁寧に、だろ。七歳相手にホストクラブの営業をするんじゃない」
「女性はいくつだって女性さ。そんなに言うなら独歩のお手本を見せてほしいな」
「は、はあ!? え、ええ、お初にお目にかかります、僕は、観音坂独歩というサラリーマンです。ええと、名刺……」
「ハハッ、独歩くんも営業になっているよ」
「はっ、すいません間違えましたすいませんすいませんすいません」
「え、ぁ、あやまらないでぇ」
うちの妹を困らせたホストとリーマンはいつかボコす。絶対にだ。
企画へのご参加ありがとうございます! 入間妹が他ディビジョンと遭遇する話、ということで欲張りセットにしようと頑張りました。欲張った結果リクエストからズレた内容になったような…想像と違っていたらすいません。ちょっとでも楽しんでいただけてたら幸いです。素敵なリクエストありがとうございました!
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