丹、待っている話



影法師と呼ばれる人間がいた。

文字通り、影しか残さず姿が分からない。術師でありながら、“術師殺し”。かの悪名高い通り名の持ち主と同一人物だと疑われた時期があったが、手口が綺麗すぎたために影法師と名付けられた。──影。禪院の相伝を思わせる名は、無論禪院への当て付けに他ならない。唯一姿を目撃した人間がその特徴を漏らしたのだ。『白黒の髪のガキだった』、と。

五条悟、十歳。
いまだ最強には至らぬ天賦の子。

あらゆる呪いを見、術を見、全てを見る六眼が、真夜中にパッと開かれた。広い屋敷の広い部屋。奥まった寝間から顔を出し、静まりかえった廊下にジッと眼を凝らした。──“来る”。

そろそろと足音を立てぬよう、裸足は冷たい廊下を踏み締める。白い息が出るほど、その日は寒い冬の夜。張り付く足裏を無視して歩き、その先で何かが動いた。影だ。庭に面した縁側はこの時期はガラス戸で厳重に閉ざされている。そのガラス越しの何某かが障子に小さな影を落としていた。

アッと声を上げる頃にはガラス戸は開いていて、影は他の影に飲み込まれた後。六眼を持ってしても相手の居場所が分からず、分からないのなら人間ではないお化けかと怯えた。生まれてこの方呪力がある人間しか見て来なかった弊害だ。ほんの一瞬、いつかの散歩で見た天与呪縛の存在を忘れた。呪力が全くないからといって人間の可能性を除外しないこと。呪力なしが五条家の敷居を跨ぐことだってあり得るのだと。

…………あり得る? 本当に?

蒼穹を閉じ込めた瞳が二度三度と瞬く。四度瞬いたところで、今見ているのは天井だ。廊下の天井を見ているということは、寝間着越しの冷たい硬さは廊下で、己は仰向けで倒れている。何故、と思考する前に手足の力を入れる。入らない。関節という関節に重たい何かが乗っかっている。温度があるソレは、紛れもなく人の手足だ。


「【────】」


子供の声だった。

薄らとした月明かりで白い頭が浮かび上がる。次いでその先に伸びる黒い髪も。頭から雪を被ったような子供が、悟を床に押し倒している。


「ちがぅ」


何が、と尋ねる隙さえ与えず、両足に激痛が走った。「ぁぐっ、っ、!」悲鳴は突如噛まされたり布によって喉に逆流する。涙目で睨みつけた悟を、子供は無感動に見下ろして、──目があった。

翠色。同系統でありながら、蒼穹とは真反対のガラス玉が機械的に光を反射している。ふいと逸らされた瞬間、途方もない喪失感が胸に押し寄せてきた。路傍の石か、炎天下のミミズを見る目。あんな視線を向けてきた人間が今までいただろうか。

五条悟を、あんな目で──────。

目が覚めたのは翌朝。女中の甲高い悲鳴で意識が覚醒した。駆け寄ってきた大人たちが悟の体を抱き抱え、反転術式が使えるお抱え医師の元へ走っていく。けれども悟の足はすぐには治らなかった。

ただの骨折。それも後遺症が残らないよう、“呪力を使わず”綺麗に折られた。マイナスが通っていないのならマイナスを流したところでプラスにはならない。つまり、犯人は術師ではないということだ。

目に見えて狼狽える大人たち。それを差し引いても騒ぎは収まらなかった。五条家本邸で、悟とは別の子供が被害に遭っていたのだ。──よっぽど酷い後遺症付きで。

子供は術式を失っていた。正確には、五条家相伝の六眼がただ青いだけの眼になっていたのだ。それどころか、さらに数時間経った正午に突然眼球が消失した。反転術式を施されても効果はなく、悟と同じく呪術による凶行ではないことが分かってしまった。

五条家は上を下にの大騒ぎになった。

普段は人非人だの猿だのと見下している非術師が、結界をすり抜けて五条家の本邸に足を踏み入れ、警備の目を盗んで子供二人を加害し、うち一人を役立たずに壊して去って行った。

面目を失う。家名に泥を塗られる失態。老人たちは責任の所在をなすり付けながら下手人の正体を探り合う。解決の糸口は、悟のたった一言。『白黒頭のガキだった』

呪力がなくとも人間離れした力を持つ白黒頭の子供。御三家の中でも特に確執深い家同士とて、知っているものは知っている。──禪院家のもう一人の天与呪縛。禪院名前が、九歳という幼さで家から出奔したことを。

それから悟は、ずいぶんと窮屈な生活を送ることになった。何せ数百年ぶりの六眼と無下限の抱き合わせだ。五条家の安泰を約束する金の卵。むしろとっくに孵った後の鶴に等しい子供を、みすみす術式なしの役立たずにされては堪らない。幾重にも守られた結界の中で、暴れて手に入れたゲーム端末で遊びながら暇を潰したものだ。表面上はつまらなそうに、平気そうに。

目を閉じれば、あの翠色が覗き込んでくる。

いつか、再び姿を現す時。今度こそ自分の目玉を取っていくのではないか。そうなったらどうしよう。次は押し倒される前に見つけられるか、術式を展開できるか。できなかったら目玉を抉り取られる。悟は目が見えなくなって、役立たずになって、それから、それから……。


「なんで俺が負ける前提?」


途端に萎んでいた暴君が猛威を奮い出す。

変な術を使うとはいえ、相手は呪力なしの子供だ。自分と同い年どころか大人にさえ滅多に負けない悟が恐れる相手ではない。あーアホらし。

内側から結界を無理やり破り、女中や警備の制止も振り切って元の部屋に布団を敷く。毎夜毎夜いつ子供が自分の元へ訪れるか夜更かししては、朝に起きられなくて周囲から小言をもらった。それでめげるタマではない。

あの夜と同じように布団を被って目を閉じる。唐突に降って湧いた予感。霜が降りる感触を肌で感じれば、きっと全自動で飛び起きてしまうだろう。確信を胸に抱き、しばらく頭の中はあの白黒頭でいっぱいだった。

視界にもう一度あの翠色を映したかった。


「なんで来ないんだよ」


季節が一つ、二つ、一巡、二巡……いくら月日が通り過ぎても、子供はやって来なかった。その答えの一端を悟は理解していた。

俺は【────】じゃないから。

悟とももう一人の子供とも違う聞き慣れない名前だった。あれは誰だったのだろう。ソイツは悟と見間違えるくらい似ているのだろうか。

いつか人違いじゃなくちゃんと五条悟に会いに来るのでは、なんて。怯えは虚勢に、虚勢は期待に、今では盲信となっていつまでも居座っている。負かしたいのか、認めさせたいのか、友達になりたいのか、目玉を返してもらいたいのか、殺したいのか、もっと別の何かか。理由も分からずに、ただ、


「まだかよ」


悟はずっと待っている。









頭から雪を被ったような、長い黒髪だった。

足首にまで届くほどの髪が無遠慮に掴まれて、ちょうど白黒の境目にナイフが通る。目にも留まらぬ速さで別れた白と黒。最終的に残ったのは髪を握り締める白い短髪の女。

黒髪を持つ手が前方に突き出され、パッと開いた瞬間に何事かを囁いた。


「【画竜点睛フラックス】」


果たして、本来なら風に飛ばされるばかりの黒髪は意志を持った動きでひと所に飛び込んでいく。内臓が溢れる傷口に触れた瞬間。骨や、肉や、血管や、血潮や、神経や、皮膚となって致命傷を擦り傷へと整えてしまった。

あの夜も、そうやって目玉を作ったんだろう。

悟は自然と唇が釣り上がっていくのを自覚した。いや、もともと頭をやられてハイになっていたのもある。天内理子の護衛任務に失敗し、自分を殺した“術師殺し”を追いかけ、たった今勝利した。天上天下唯我独尊。宇宙において真に目覚めた我のみが尊い。虚式を会得することで悟は天に至った。

覚醒した最強の前に突然現れた闖入者。
堂々と背を向け、悠々と術を使い、“術師殺し”の致命傷を塞いだ女。


「──会いたかったぜ、禪院名前ッ!」


切れ長の目尻にいつかの翠色を見つけた。

悟が待って、待って待って、いくら待っても現れず、ついには忘れたはずの顔が覚醒した脳裏に浮かび上がる。


『【────】、ちがぅ』


もちろん、言葉も。


「ついでに聞きたいんだけどさ、“きるあ”ってだあ、れッ!」


術式順転・蒼。

無下限術式の応用。無限を任意位置に発生させることで対象を引き寄せる。引き寄せられるスピードと呪力を乗せた単純なパンチの相乗。並の術師なら一発KOが狙える凶悪なコンビネーション。無防備に突っ立っていた女は体勢を崩し、当たり前に悟の眼前まで引き寄せられる。とっさに構えを取ろうとも、ここまで来ればもう防ぎようもない。呆気なく体重が乗った拳を叩き込み──あまりの手応えのなさに目を見張った。

硬い。単純に硬すぎる。腕の中にオリハルコンでも移植していないと出せない硬さが拳に伝わってくる。伝わって、骨が軋む音まで耳まで届いた。何故呪力を乗せた拳が呪力なしの腕に負ける? 引きずり出した答えは噂程度にしか知らない呪力以外の術。壊滅的な言語中枢の代わりに備わった未知の能力。

これぞ天与呪縛。


「こっちが質問してんだからなんか答えろよ。それとも言葉が難しすぎたか? これ以上簡単に言えないんだけ、……っ!?」


さて、悟の拳を受け止めた女が、何もせずに突っ立ったままでいるだろうか。答えは伸びてきた腕で分かる。掴まれる前に感覚で展開した術式。白い手は悟に直接触れることなく、腕の周りの無限を掴んでいる。そう、阻まれているのではない。掴んでいるのだ。

鎧を着込んだ人間に攻撃を仕掛けても鎧に阻まれてダメージは通らない。しかし鎧が変形するほどの力を加えれば内側の肉体もまた圧迫される。ダメージが通る。

そういうことを、女はしようとしている。


「嘘だろ」


言うは易く行うは難し。無限を変形させ、中の悟を害するためにどれほどのパワーが必要か。既にギチギチ嫌な音を立て始めた服の袖。その下も内出血を起こしているに違いない。このままでは腕を引きちぎられる可能性すらある。

術式反転・赫。

収束と発散。プラスを流すことにより発生する反転。人一人を数km弾くなど簡単にできる、はずだった。

天は、どれほど恩恵を与えたのだろう。

女は動かない。微動だにしない。術式による弾く力すら埒外のパワーで抑え込んでいる。それどころか踏ん張りによって石畳は抉れ、細足がめり込むことで杭の役割を果たしていた。化け物。もはや純粋な術式のみで女をどうこうするのは不可能だと、少なくともこの時の悟は思ってしまった。

覚醒した最強が、ほんの一瞬でも負けを意識した。

なら、やることは一つだ。

掌印。六眼による緻密な呪力操作。順転と反転を衝突させ仮想の質量を作り出す奥義。先程会得したばかりのソレを至近距離で放てばどうなるか。その結果は女も見たはずだ。


「虚式、」
「──やれ」


“術師殺し”の突然の一声。

悟はとっさに術を中断してしまった。相手は未知。六眼でも知覚できない能力。髪を血肉に変えたのなら触れたものを血肉に変えるなどわけない、かもしれない。その場合、近くにいる方が真っ先にやられる。だからこそ蒼をわざと食らったのか。赫に耐えてそのまま立ち続けたのか。いくら考察しようと答えなど出るわけもなく。

すぐに理解したのは、あっさりと女が悟の腕を離したこと。

つまり、


「────ぁ」


いない。

どこにもいない。

呪力を探ろうにも相手は呪力なし。“術師殺し”のように呪霊を連れているわけではないため六眼は無意味。無意味! 五条家相伝が! 歯も立たないなんて! そうなると純粋な五感に頼るしかない。全身のセンサーを研ぎ澄ませて周囲を見渡し、そして……何も起こらない現実に絶望した。


「逃げやがった……!」


『やれ』は女から距離を取らせるためのブラフ。真意は『逃げろ』の合図だったのか。

構えていた両腕をダラリと下ろす。あの馬鹿力に脚力だ。今さら追ったところで辿り着けるかは五分五分。その間に“術師殺し”を放置するのは一番の悪手。分かっていた。だから、悟は動けない。追えない。

同じだ。

あの夜、悟の両足を折って昏倒させたように。また悟のプライドをへし折って忽然と姿を消してしまった。いくら待っても追撃は来ず居場所を探ることもできない。今度は一言も声をかけられることなく、女は悟の前から消えてしまった。

懐かしい、そしてもう二度と味わいたくなかった途方もない喪失感。


「なんでだよ」


まだ、“全部見せてない”のに。


「フラれちまったな、坊ちゃん」


虚式を食らってなお直立していた“術師殺し”が、やっと地面に倒れ込んだ。










禪院・・甚爾は高専医師による反転術式で一命を取り留めた。左腕、左肺の下葉と胃の胃底部、他左脇腹付近の横隔膜や付随する臓器を失い、失血死ギリギリところであと少しでも遅ければ死んでいたらしい。奇妙なのは、複数の臓器を損傷したのに外側の骨や血管は正常に残っていたこと。

それが女の髪の毛だと報告したのは悟だ。

反転術式では治らなかった右腕は、ギプスを巻いてアームホルダーで吊られている。どうやら骨折しているらしい。またかよ。ぼやいた悟は、失敗したとはいえ最後まで任務を全うするためにある部屋へと入った。


「よお、起きたか寝坊助」


部屋中に札がビッシリ張り巡らされた独房。椅子に座り後ろ手で鎖に繋がれた状態で、“術師殺し”禪院甚爾が下から睨め付けてくる。いや、元々の目つきが悪いだけでただ視線を寄越しただけかもしれない。捕らえられている側だというのに、相手には不遜な余裕と迫力があった。


「まずは影法師とオマエの関係、居場所。ついでにオマエの住処だな。キビキビ吐けや」
「……影法師、ねぇ」


禪院甚爾はあからさまに鼻で笑った。


「張り切ってやった発表会、全部ノーリアクションで流されてどんな気持ちだ?」
「は? 何言ってんだコイツ」
「発表会だったろ。“僕はこんなスゴイ術式持ってます”アピール。無自覚か?」


最後まで見せられなくて残念だったな、と。

一瞬頭を過ぎったこと。そっくりそのまま指摘され、冷静でいられない。図星だったからだ。

禪院名前が未知の力を持っていると思い出した瞬間から戦い方はいくらでもあったはずだ。それなのに悟は無下限術式を順々に見せてやった。何故か。それは、過去が現在を侵食したから。人違いで押し倒され、歯牙にもかけず放置された十歳の悟が顔を出したのだ。

俺はこんなに強くなったぞ。
オマエになんか簡単に勝てるんだ。

結果は無視。勝負にすらしてもらえなかった。


「五条家の坊がこうも執着するか。
──オマエ、何やった?」
「?」

「さあ?」


飛び退る。耳元に突然吹き込まれた第三者の声。手慰みに弾いた琴のような音。初めて聞くようで初めてじゃない。

携帯が狂ったように鳴り響く。とっさに通話ボタンを押した悟の耳に、監視カメラで見ているはずの夜蛾の声が届いた。『後ろにいるぞ!』知ってるって。

毛先に切り損ねた黒が残る白髪。禪院家特有の暗い翠色の瞳。感情を削ぎ落としたような無表情。身長は恐らく170cmは超えている。190cm近い悟でも目線を合わせやすいから。仲間に致命傷を負わせ殺しかけた人間を前に、1mもない距離で構えもなく自然体のままでいる。

影法師が──禪院名前が、手ぶらで悟の背後に立っていたのだ。

ゾッとした。気配が全くなかったのもそうだし、背後からあの馬鹿力で頭を掴まれれば今頃潰れたトマトになっていた。殺気さえあれば応戦できるが、こうも無表情だと殺気すらなく飛びかかってくる可能性がある。

いや、今度こそ本気で挑んでやるけれども。潰れたトマトになるのはどちらか分らせてやる。


「なにが“さあ?”だよ目ん玉泥棒」


騒がしい携帯を切って背後に投げる。臨戦態勢になった悟だったが、相手は変わらず突っ立ったまま。悟をスルーして後ろの男へずっと顔を向けている。それが心底気に食わなかった。


「目ん玉泥棒ォ? 一時期噂になってたアレか? 六眼盗んだのマジでオマエかよ」
「ん? んん……ん。目、高かった」
「何桁?」
「いち、じゅう、ひゃく、せん……億」
「オイ、片方だけでいいから寄越せ」
「やるわけねぇだろ寝ぼけてんのか」


なに平気でくっちゃべってるんだコイツら。

片や鎖で繋がれた手負いの男、片や自ら敵のテリトリーにやって来た丸腰の女。圧倒的に不利な状況のはずなのに、最強五条悟を間に挟んだ二人はどこまでもマイペースで。ペースを乱される自分がらしくなくて。何より苛立ちがほんの少しの殺気に変わった瞬間に禪院甚爾が視線を向けたものだから、隙が一切ない。


「で、五条のガキ。取引だ」
「オマエが言える立場か?」
「言えるな。こっちには呪術界でも抑えきれねぇカードがあるんだぜ」


視線の先は、追わなくても分かる。


「言うだけ言ってみろよ、芋虫」
「不可侵条約、ってのはちょっと違ぇか」


凶暴な男の口から出ていい単語ではない。怪訝な顔をした悟に、相手は食えない笑みを浮かべている。


「ソイツは呪術界に関わる仕事を受けない。代わりに、オマエらもソイツに関わらない。お互い攻撃するなっつー話だ」


端的に言って、わけが分からない。

相手の真意がどこにあるのか。本当にその要件にこちらが応じると思っているのか。


「縛りは呪力を乗せてするモンだろ。オマエらとしたところで効果があるか?」
「俺を人質にしろ」


携帯が鳴る。再び、狂ったように。

人などゴミが鳥の糞程度にしか思ってなさそうな男が、鎖が食い込むのも構わずに上体を伸ばして、悟を下から睨め付けている。今度こそ目に力を入れ、翠色がおどろおどろしいギラつきを見せた。

似ているようで、やっぱりアイツとは違うな。場違いなことを悟は思った。



「ソイツが縛りを破ったら俺を殺せ」










教員棟の角部屋。申し訳程度に貼られた札を引っ剥がし、ノックもなしに扉を開ける。中では片手で器用に逆立ち腕立て伏せする男。何が器用って汗一つかかずに床に置いた競馬新聞を読みながらしているあたり。ズカズカと中に足を踏み入れ、扉を閉めるついでに横を見ると、相変わらず音もなく見知った女が立っていた。あれから念入りに黒い部分を刈ってるのだろうか。真っ白いショートヘアと翠色の瞳、純日本的な面差しは不思議と調和が取れている。

禪院……改め、伏黒名前が高専敷地内に侵入したのはこの二年間で計96回。記録に残っていないだけでもっとかもしれないが、正式にはそうなっている。単純計算で週一。習い事かよ。

甚爾が提案した不可侵条約は事細かな条件を書き連ねて一応は締結された。代償は甚爾の身柄の拘束。最初の一年は封印術式が編み込まれた部屋で監禁され、次の年には監視付きで呪詛師案件をメインに使われている。面倒なことに、この部屋から出すのは悟の担当にされてしまったわけで。こうして悟が甚爾の部屋に入る時、ピッタリと部外者が背後にくっついて一緒に入り込んでしまう。つまり週一通いは悟も一緒なのだが、これは仕事なので仕方ない。

気配を気取られることなく、それこそ影法師のように侵入するのは不可侵条約に抵触しないかと疑問に思ったこと数知れず。実際には本当にそこに“いる”だけなのだから攻撃されたとは言い難い。東京校の面々は慣れてしまったが、上層部の老人たちは甚爾を殺せと唾を飛ばしたものだ。そうすると口を閉ざすまで老人たちの部屋に侵入して何もせずに圧を飛ばす幽霊が爆誕したために、結局有耶無耶になってしまった。


「サッサと言えよ。こっちはヒマじゃねぇんだ」
「ヒマだろ。ここテレビもねぇじゃん」
「ラジオはあるだろ。午後から天皇賞がある」
「知るかよ」


この男のちゃっかりしているところは、ちゃんと名前に馬券を買わせているところだ。高専から車で片道一時間かかる競馬場を十分で行き来させる鬼畜さ。それを実行する方も化物だが。

逆立ち腕立て伏せを止め地べたにあぐらをかく甚爾。音もなく移動した名前が馬券を手渡すと、確認しがてら指でチョイチョイ招く。つられてしゃがんだ白頭が大きな手にワシワシ撫でられる。まるで持ってこいが上手くできた犬扱いだ。相変わらず面白くない。ムッとした悟は、意趣返し半分、真面目半分で本題を口にした。


「オマエのガキに会ってきた」


返事は無言。反応しない。それが答え合わせだ。


「お望みどおり、うちでどうにかしてやるよ。砂利に額こすりつけて感謝しろ」
「なんの話だ」
「とぼけんな。オマエが言ったんだろうが」


舌打ちが一つ。二年の間で忘れられることを狙っていたのだろうか。言い逃れできないと観念してすぐに聞く態勢になった。

『俺のガキが禪院に目ぇつけられてる。好きにしろ』

二年前。虚式で左腕と脇腹を吹っ飛ばされ瀕死だった甚爾がこぼした一言。その直後に割って入った女。あの乱入は甚爾とて予想外で、本当はあそこで死ぬ気だったのだろう。だからこそ、もう自分では守ってやれない子供の安否を見ず知らずの悟に賭けた。子が禪院に引き取られれば確定で母親と引き離されることになる。ならば少しでも親子が共に在れるかもしれない五条の次期当主に預けた、と。

それが意図せず九死に一生を得、無意味に息子弱点の存在を晒してしまった。悟に『禪院甚爾』と名乗ったのは、結婚し子供がいると発覚する時間を少しでも伸ばしたかったのだろう。


「恵は呪術師になるよ。というか俺がする」


恵を呪術師にするのは、ある意味悟のエゴだ。

表面上は納得尽くに見えて、本当は最後まで甚爾を飼い殺すことに懐疑的だった親友が、去年呪詛師になってしまったあの日から。悟は周りを変える方法をずっと考えていた。自分だけ強くても意味がなく、後進を育てることが世界を変える一番確実な方法だと気付いてしまったから。

恵を新しい時代の呪術師にする。高専の生徒も強い呪術師に育てる。悟が決めたことだった。


「…………勝手にしろ。アイツの人生だ」
「ふぅん? 本当に思ってる?」
「へいへい、話は終わり。とっとと出てけ」


シッシッ。野良犬を追い払うような手がムカつく。悟のコメカミに青筋が浮かんだ、その時。


「トージ」


今まで黙っていた存在が急に声を上げた。

名前が自分から話しかけるのはかなり珍しく、むしろ声を出すこと自体がスーパーレアだ。


「メグにマットーな仕事しろ、言われた」


そして、薄桃色の唇から甚爾以外の人物が出るのも。


「真っ当? なんだそりゃ」
「今、マットーじゃない言われた。だから、やめるね」
「いちいち俺に言うな。めんどくせぇ」
「ママが大事なこと、ほうれん草」
「なんで急に野菜だよ。久しぶりに意味不明だわ。ちゃんと勉強してんのか?」
「高校卒業した」
「恵の教科書見せてもらえ。小一の」


なんだこのゆるい会話は。

恐らく報連相のイントネーションが違う名前も名前だし、伝わっていない甚爾も馬鹿。

何より、名前がこんなに長く喋るのも甚爾以外の人物の名前を出したのも初めてで、それはきっと家族の存在をこちらに知らせないため。情報を与えないためで……つまり、今は悟を信用したと言っても過言ではないのでは?

思い至った瞬間に、ぎゅぅぅぅっと心臓あたりが得体の知れない圧迫感に見舞われる。学ランの上から胸を抑えると、今度は耳の奥からドクドクと鼓動がうるさいくらいだ。なんだこれ。これも未知の力かなんかか? 困惑に困惑を重ねた悟は、未だ甚爾にじゃれつく白頭を見ることで、遅れて全てを理解した。

実に八年越しになる、その正体を。


「つーか俺、まだ六眼盗られたの許してないぜ?」


キョトンと赤ん坊のような目で名前が振り向き、一瞬気圧される。これから悟がする提案は、我ながらナイスアイデアだというのに、その目を見るとなんだかまずいことを言うような気分になった。


「代わりにさ、俺と六眼の子供作ってよ。それでチャラにしてやるから」


実際にかなりまずいことだという自覚は、もちろん悟にはない。


「オイ今すぐ恵から手を引け」
「は?」


「御三家の教育ベッタリじゃねぇか」ひとでなしのクズ代表甚爾からひとでなしのクズを見る目をされてあからさまに顔を歪める悟。義務教育はこの三人の中で一番勝ち組のくせに、こと道徳教育では一番の敗北者という矛盾。実際に一番道徳が備わっているのは甚爾というバグ空間であるからして、まさに呪術界の闇。


「オマエにゃ聞いてねぇよパパ。……オ"ェ"ッ!」
「自分で言っといて吐きそうになってんなガキ」
「吐きそうなツラしてるのはオッサンの方ですぅ」
「当たり前だろ倫理観ゼロ点。サッサと出てけや」
「一生面会謝絶にしてやる」
「二年も部外者引き入れた無能」
「は、はああああ!? 無能って言った方が無能!!」
「ガキかよ」


子供じみた口論がヒートアップしてきた男二人の間で、スッと白い手が高く高く挙げられ、一言。


「ママとメグに相談する」



五条悟、十八歳。人生初めての告白。

お返事は後日。小一男子による弁慶の泣き所キック。




***




暗殺一家ゾルディック家。ククルーマウンテンに居を構えビジネスとして人殺しをする一族。前世の名前の祖父はゼノの弟だった。成人を機に家を出て、別の山を住処に家族と共にひっそりゾルディックを名乗って暗殺業をしていた。ゆえにククルーマウンテンの住人ではない。それでも年間行事では大叔父のゼノや曽祖父のマハ、現当主のシルバと顔を合わせることはあったし、婚約できる年になれば現当主の妻キキョウに面談しに行ったのだが、そこらへんは割愛。

何が言いたいって、確かにゾルディックは暗殺術に特化した人外埒外集団で、幼少期どころか乳幼児期から訓練が始まるスパルタ一族ではあるが、ちゃんと家族だったのだ。家族の情があり、絆があり、呪縛がある。そんな家族の一員として前世の名前は育った。

そりゃあ本家と比べれば些か過激なほど感情を殺す教育を受け、一時期は殺人ロボットの有様だったけれども。ある事件をきっかけに成人後は比較的感情豊かな人間になった。本家次期当主の年頃反抗期キルアとメル友なくらいには。

だからか、厳しいばかりで家族の情がない禪院は名前の肌には合わなかった。


「今日なに食べたい?」
「タコワサ、エイヒレ、おでん」
「パパには聞いてませーん」


ママとトージの間に挟まれて歩く名前。白いブレザーに黒い膝丈スカート。腰まで切った黒髪はキッチリ三つ編みおさげで、白かった頭頂部は黒く染められている。

伏黒夫婦が何故名前と通学路を歩いているのかというと、つい先ほどまで一緒に学校にいたからだ。授業参観……ではなく、生活指導の呼び出し。地毛で入学式に出てからというもの、どうも生活指導の厄介な先生に目をつけられたらしく、説教の皮を被った嫌がらせをちょくちょく受けるようになっていた。


『伏黒さんは生活態度が不真面目でね、先生たちの間でも問題児だって有名なんですよ。(中略)若いお母さんで大変でしょうけど、子供作ったなら責任持って躾けないと』


ママが学校からの電話に出た結果である。たまたま横に長期の仕事から帰ったトージがいて、たまたま盗聴器を持っていた名前がいたので、何故だか音声記録が手元に残ってしまった。あちゃー。

次の日伺いますとアポ取って、筋肉隆々ヤクザをマスコットに『よろしくお願いしますね()』して来た。その帰りであった。


「無視すりゃいいのによ。言いなりで染めたから調子乗ったんだぜ」
「校則に黒髪って書いてあったの見逃してたこっちが悪いよ。校長先生は丁寧に謝ってくれたし」


化粧を施した顔で苦笑するママと、黒いネクタイを雑に緩めるトージ。真ん中の名前は話の半分も理解していないが、二人が満足なら良いか、と一つ頷いた。


「で、名前はなに食べたい?」
「…………」


好き嫌いという概念がなかった前世から、少なくとも十三年以上の月日が経ったのに。名前の口は全く動く気配がない。答えが見つからなくて、動かせなくて、困る。

うろっと視線を地面に彷徨わせると、つむじあたりに視線が突き刺さる。トージの翠色が圧をかけているのだと分かっていた。だから小さく「たこわさ」と答えると圧の中に針が混じり出した。ママの困ったような声音もさらに覆い被さり、答えが出たのは託児所の門の前だった。


「ちょこけーき」


一歳のメグを迎えに行ったママはいない。横にいるのはトージだけで、「はあ?」と大きな声が降ってくる。


「ケーキ屋通り過ぎたじゃねーか。早く言えや」


「そこで待ってろ」と一瞬で姿を消し、ママがメグを抱えて出てくる頃に、トージはケーキ箱を片手に大股競歩で戻ってきた。


「今日の晩飯はケーキな」
「晩ご飯の後のデザートね! じゃあ今日はおでんにしよっか」
「牛すじ、げそ、がんもどき」
「はいはい」
「た、たまご」
「たまごね、りょーかい」


近所のスーパーで家族四人。買い物をして、トージと荷物持ちして、ゆで卵を作るお手伝いをして、メグをあやして、ご飯を食べて、ケーキをつついて、お風呂に入って、同じ部屋で布団を敷いて寝る。赤ん坊にしては静かでのんびりさんなメグの腹をぽんぽん寝かしつけながら、名前は“勝手が違う”生活に慣れつつある自覚をした。

禪院を出てからあてもなく逃げた。何から逃げているのかも分からず逃げて、その先々で外国人からアングラな仕事を受けた。運び屋も、暗殺も、前世の記憶と念能力、身体能力をフルに使って金を稼いだ。それも蒼い眼を売り払ったのを最後にパッタリ辞めた。金払いが良すぎて一人なら一生食べていける大金を得たこともそうだし、何より襲った相手が悪かった。

白い髪に蒼い眼。生意気そうな表情が、キルアに似ていたから。抉り取ろうとした手が止まり、仕方なく動きを封じて別のターゲットを狙った。特別な眼を持つ五条の子供という指定なのだからどちらでも構わないだろうと。実際は最初に襲った方が本命だと聞かされたが、報酬はちゃんと支払われた。

キルア。前世の縁深い人間を思い出して、途端にポッカリと穴が空いている自分に気付く。その正体がホームシックであることは誰も知らない。転々と街を移動し、関東近郊を練り歩く最中、こちらの世界で言うところの韓国語を喋れる男と知り合い、世間話の中で見知った名前を聞いた。

それがきっかけだった。

メグが寝入り、ママが同じ体勢で寝てしまった。トージは布団から体を起こし、アパートの窓を開けてタバコを蒸す。


「今、ストックいくつだ」


こちらを一瞥もせず、トージは尋ねる。


「はちねん、に。ななねん、に。ごねん、よん。さんねん、いち。いちねん、きゅー」
「俺が命令するまで使うな」
「うん」


首からぶら下げている巾着。普段は内ポケットに忍ばせてある石や飾りボタンや箸置きは、日々たっぷりとオーラが注がれ満たされている。

名前の能力【画竜点睛】。元は無機物から別の無機物へ物を作り替える能力。現在は無機物から生物を作り出す能力。生まれ変わった影響で具現化系が特質系へと変質した結果だ。人間の臓器も生物の範疇に入る。変化する時間は、オーラを注いだ時間×物質への理解度。心臓は前世で散々抜き取った臓器であるから理解度は高いが、注いだ年数より短い発動期間になるのは仕方ない。ママに使った石は七年もの。つまりあと六年以内に元の石に戻ってしまうということだ。

トージが確認しているのは、臓器移植できる心臓の個数に過ぎない。


「四年後に心臓を入れ替える」
「うん」


トージは家族に引き入れることで名前を縛り付ける方針を取った。名前はトージやママやメグという家を得た。命令権は三人にあり、禪院よりも指揮系統がハッキリしている。シンプルでWIN-WINな関係だ。


「ガキはサッサと寝ろ。明日も学校だろ」
「うん、おやすみトージ」
「……おう」


伏黒家のなんでもない日の夜だった。









「つぎ、命令したら、俺はオマエの命令権を捨てる」


左腕と左脇腹を負傷。出血多量。ショック死寸前。

臓器の欠けを補うために、懐から飾りボタンを取り出そうとした名前に鋭い殺気が突き刺さる。『俺が命令するまで使うな』命令を無視するのか、という責め。ママの心臓のストックを自分に使うことを、トージは許さなかった。だから髪を使った。黒い部分はどうも自分の髪だと思えず、ただの物に違いなかったから。切り離して投げれば続々と血と肉と骨に変換されていく。これは何年ものになるのだろう。少なくとも十年以上保つはず。それでも臓器の代わりにはならない。石ならともかく、元の臓器とあまりにサイズが違いすぎるから。

トージは常人では聞き取れないだろう声量で、ポツポツと命令を口にした。ママを守れ、メグを守れ、絶対生きろ、トージは行方不明扱いでいい、困ったらコン・シウという男を脅せ、金は適当に稼げ。締め括りが命令権の放棄。最後の命令は『合図したら逃げろ』だ。

トージは死ぬ。仕事に失敗してこのまま死んでしまうのだろう。理解していても止められない。何故なら命令されてしまったから。

命令通りに動いて、家に帰るとママが洗濯物を畳んでいた。メグは幼稚園に行ってしまい、狭いアパートはひどく静かだった。


「ママ、トージ、帰らない」
「またー? 今日は焼肉行くって言ってたのに」
「うん、長い、帰らない」
「ふぅん? で、本当のところは?」


ママは察しが良い。


「じゃあ、ママと恵の代わりにパパの様子見てきて」


危なくない範囲でね。ママはお茶目に笑った。

命令権を失くしたトージの『帰れ』と、命令権を保持したママの『パパ風邪ひいてないかな?』なら後者に従う。名前とはそういう生き物だ。

メグは二年間顔を出さない父親に憤り半分寂しさ半分。小学校の入学式に来なかったことで完全に拗ねてしまった。『親父きらい』『姉貴もきらい』自分とママを差し置いてパパのところに通っていることは理解していたらしい。『きらい?』『きらい』『ほんとに?』『き、きらい!』ママは微笑ましい顔を隠さなかった。

校則が緩い区立高を出席日数ギリギリで卒業した名前は、前世と同じ暗殺者になった。不可侵条約に抵触しない非術師相手のアングラな仕事だ。中学の頃からトージの仕事の手伝いをしていたから、気持ち的には何も変わらない。

月一で稼いで帰ってくるトージスタイルにママは『パパそっくり』と笑い、メグはまた寂しそうな顔をした。口では憎まれ口を叩いても、親父と似たように帰ってこなくなるんじゃ……と不安がっているのをママだけが察していた。

そんなある日のこと、伏黒家は妙に静まっていた。メグが両眼をパンパンに腫らして待っていた。


「悪いことしてるって本当か?」


メグは名前を責める目をしていた。

ゴジョーという男に父親のこと、呪術師のこと、これからの生活のこと、──姉のことを聞かされたのだと。禪院に無理やり引き取られる前にゴジョーの庇護下に入る。それは納得したが、どうしても納得できなかったのが姉のことだった。


「悪いことした金で、俺たちを食わせてるのか?」
「悪いこと、なに?」
「人から物を盗ったり、傷付けたり、おまわりさんに怒られるようなこと!」


暗殺は悪いことに入るのだろうか。

殺してほしい人がいて、殺すことで対価を得る。契約に基づいたちゃんとした仕事だが、どうにもメグはそれが許せないらしい。


「真っ当な仕事しろよ! 母さんに心配かけんなよ!」


──親父みたいになるなよぉ……っ。

トージそっくりな(つまり名前にも似ている)翠色に涙を溜めて、ゴシゴシ擦るのをママが止める。それを見て、名前は頷いた。何せ、命令権はママとメグにあるから。

その場ではノータイムで頷いたわけだが、困ったのはその後のこと。真っ当の定義が分からず、何から始めれば良いか分からない。求人募集を見ても大学卒業必須だったり資格が必要だったりとよく分からない。暗殺業以外の選択肢がなかったばかりに、世間知らずに拍車がかかっていた。


「ママ、メグ、相談」
「どうしたの?」
「(つーん)」
「子供を作る仕事はマットー?」


固まるママ。子供の作り方を知らないメグ。ママが「結婚したい人がいるの?」と恐る恐る尋ねたあたりで姉がどこかに行ってしまう可能性に気付く。首を振られてさらにママが困る。「誰がそんな仕事を勧めたの?」重ねて尋ねた結果、出てきた名前にメグが激怒した。必ずかの邪智暴虐な男を除かねばならぬと決意した。

飛び出していったメグ。残されたママと名前は仕事について話をすり合わせる作業が始まった。

それから力を使う仕事をメインに真っ当の定義を探ることしばらく。街中を歩いていた名前に声をかける人影が。


「お姉さんハーフですか? 身長高いですね、何センチか聞いても?」
「175cm」
「175! いいですねいいですね! 私こういう者ですが、ちょっとお話だけでも!」
「……マットーな仕事?」
「当たり前じゃないですか!」









「なんでオマエ雑誌載ってるの? 読モ? ぜってぇ読者じゃねーだろ騙されてるぞ」
「マットーだから」


トージを呼びにきたゴジョーがオッサン部屋の異質なファッション誌の存在に気付き、半笑いでペラったページに知った顔があって無量空処。ママから託されたファッション誌二冊のうち、一冊は灰皿の下に敷かれていた。例によってゴジョーと一緒に侵入した名前は、「マットーな仕事」で器用に無表情なドヤ顔を披露する。


「なに考えてるんだコイツ……」


奇しくも年頃の娘を持つ父親と同じ感想を抱いたトージだった。





萌えるところ:ペラったらすぐに開くくらい同じページを見ていたパパ。

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