if/これが逆ハーレムですか



※全ルートのお相手と友達スタートした場合。
※謎時間軸。
※新ディビのお相手は暫定です。今後変わるかも。



「なんだよこの手」
「あ?」
「馴れ馴れしいんだよ、気安く女性の肩に手ェ回してんじゃねぇ」
「ハッ! 一丁前に嫉妬か。つくづく見苦しい男だなァ!」
「ンだとコラァ!」


助けてお母さん助けて。

場所は中王区内のホテルのロビーにある長ソファ。真ん中に私、右手に山田一郎さん、左手に碧棺左馬刻さんが座っていて、私を挟んで険悪な雰囲気を醸し出している。ソファの背もたれに乗せるように私の肩に回った碧棺さんの手と、言い争いがヒートアップしているせいで足が触るか触らないか程度の近さに寄って来る山田さんの体。その間で縮こまって俯くしかない私。

ナニコレ。ヤダコレ。

そもそも私はお母さんのお使いでここのロビーに顔を出しただけで、たった数分話して終わった用事だった。なのに山田さんと碧棺さんに見つかって何故かここに座ることになっている。体感十分。本来の用事より長い。

ギスギスした空気の中、我ながらない勇気を出して「そろそろお暇します……」と声を上げても「もうちょっと! ちょおっとだけ待ってください!」「俺様の頼みが聞けねぇってのか?」ちょっとってなに。頼みって、何も頼まれてませんが。

それから「お前が帰れ」「テメェこそ出てけダボ」「あぁ?」「あ?」の応酬に縮こまること少し。


「あー! 一郎と左馬刻が一緒に座ってるなんて珍し〜と思ったら、お姉さんがいるじゃん! なになに僕のこと応援しに来てくれたの?」
「飴村くん、話はまだ終わっていませんよ……ああ、勘解由小路さん、お久しぶりですね」
「お、おひさしぶり、です」


ロビーの向こうから仲良く……悪く? やって来た乱数さんと神宮寺さん。助かった。まだ物腰柔らかでニコニコしている二人なら話が通じる。山田さんと碧棺さんの間から逃れられると、ホッとしたのは一瞬のことだった。


「ん? 顔色が優れませんね、貧血で、」
「本当だ! 大変大変! 飴なめる?」
「飴村くん、人の話を遮ってはいけません」
「あれぇ? 寂雷まだいたの?」
「飴村くん」


助けてお母さん助けて。(二回目)

顔色を見るために私の前に跪いてくれた神宮寺さん。逆に私の背後に回って肩に手を置く乱数さん。腕を下敷きにされた碧棺さんが「乱数ァ」と声を上げる。山田さんが「邪魔しないでください」と眉間にシワを寄せた。

険悪ムードが倍というか累乗になった気がする。それでいて何故かさっきよりガッチリ逃げないようにガードされている不思議。私、無関係なのに。……そうだよね? え、私のせい?急に不安になってきた。

なんだろう。考えられるのは、あの強制お見合いの仕返しくらいしかない。でも、私が顔合わせしたのはこの人たちじゃないのに……まさか、チームメイトに迷惑をかけた仕返しとか?

確かに二郎さんの件で一度山田さん家にお邪魔したし、銃兎さんを心配した碧棺さんには釘を刺された。夢野先輩とのやりとりで乱数さんに頼ったし、神宮寺さんには観音坂さんへのフォローでご迷惑をおかけした。あれ、意外と満遍なくお手を煩わせているような……。

……仕返しだコレ!

考えれば考えるほどその説が濃厚になってきて、顔から血の気が引いていく。ちょっと頭がフラッとしてしまい、ソファの背もたれに寄りかかった。


「左馬刻! なにしてるんですか!」
「兄ちゃん!?」
「乱数、こんなところに……おや?」
「え、先生と、勘解由小路さん?」


わぁ……。

エレベーターホールからぞろぞろとやって来る一団。明らかに見たことのある面々で、待ち合わせでもしていたのだろうかとありえない可能性を考えてしまう。

ツカツカ早歩きで革靴を鳴らして近付いて来る銃兎さん。山田さん目がけてバタバタ駆けてくる二郎さん。のんびりと歩いている途中で私と目が合った夢野先輩。挙動不審ながら一二三さんに背中を押される形で飛び出してきた観音坂さん。

お、お見合い被害者の会の皆さんだ……!

思わずソファから立って腰を折ろうとした、時にすかさず碧棺さんの腕が私の肩に力をかける。軽く抑えつけている風なのに全然お尻が浮かなくてビックリした。


「おっと、逃げんじゃねぇよ」
「なっ、左馬刻! 彼女に乱暴は、」
「銃兎ォ、遅ぇんだよ早く代われ」
「代わ、はぁ?」


立ち上がる碧棺さん。そこに困惑を隠せない銃兎さんが座る。


「クソッ、二郎! お前もこっち来い!」
「え、兄ちゃん、なんで名前が、」
「いいから早く!」
「う、うん! 分かったよ兄ちゃん!」


ドサッと。今度は山田さんのいたところに二郎さんが。


「なにそれ面白ーい! 幻太郎もこっちこっち!」
「はぁ……まったく、なんて絵面ですか」
「──ああ、そういうことか!なら、彼らに先を越されてはいけないね? 先生、独歩と場所を代わってくれませんか」
「な、一二三!?」
「なるほど。独歩くん、こちらに」
「ひょえ!? は、し、失礼します……!」


えっ、え、あれ?

気が付くと、左手に銃兎さん、右手に二郎さん、背後で私の旋毛を押してくる夢野先輩、前方に跪いている観音坂さん。さっきの各ディビジョンのリーダーの位置にそれぞれ被害者の皆さんがいる。ナニコレ、本当にどういう、ええ?

さっきの山田さんと碧棺さんの謎の足止めは、このための包囲網だったのだと。気付いたのは多分銃兎さんと同時だった。二度目の「お暇、」しますを言う前に、自然に嫌味なく赤い手袋が私の手を攫って行ったのだ。


「お久しぶりです名前さん。こんなところで会うなんて奇遇ですね。ところで、この後なにかご予定は?」
「いえ、先ほど用事が終わったので帰ろうと、」
「それは僥倖。私たちも用事が終わったばかりですので、これからどこかへ食事にでも。……二人っきりで」
「っ!?」


ひ、左耳! 左耳に吐息が!

思わず左耳に手を当てると、綺麗な愛想笑いからちょっとだけ唇が吊り上がって、してやったりな雰囲気が滲み出した。ついでに大人の色気も一緒に出てくる。ひぇ。


「おい、おまわり!」


そこで突然肩を抱かれて右に引き寄せられる。二郎さんの胸板に頭が当たって別の悲鳴が上がった。思わず見上げた先でチラッとこっちを見下ろす目と目が合う。ちょっとだけ頬を赤らめさせた二郎さんは、何かを振り切るように頭を振ると、キッと眉を吊り上げて銃兎さんに噛みついた。


「勝手に話進めてんじゃねぇ! 名前が困ってんだろ!」
「はあ? 彼女が困っていようがいまいが、あなたには無関係ではありませんか?」
「無関係なわけあっかよ! 名前は俺のダチだ!」
「ダチ、ですか……フフッ、失礼。ダチとはなんとも学生さんらしくて、可愛らしいなと」
「ンだと!? ダチにダチって言って悪いかよクソポリ公!」
「悪いなんて言ってないじゃないですか。ただ、ダチなら大人の付き合いに入って来ないでいただきたいものですね。なんせ私と名前さんはダチよりもっと深い仲なんですから」
「は。ふ、ふかっ、ハァ!?」
「深い仲、ねぇ?」


二郎さんの手の力が緩まる。その隙を狙ったかのように背後から伸びた手が私を元の定位置にちゃんと座らせた。背もたれにピッタリとくっつく背中。同時にふわりと感じる和服に焚き込められた香。肩に置かれたままの手が誰のものかなんて、すぐに分かった。


「ゆ、夢野先輩」


見上げた先の彼は、全てを包み隠した綺麗な微笑みでこちらを見下ろしていた。あ。この顔、この雰囲気って確か。


「それは小生も初耳ですねぇ。差支えなければご教示願いたい」
「これはこれは夢野先生。大人の関係、と言えば聡明な先生は察していただけると思うのですが」
「はて、大人の関係とな? 生憎と入間殿が名前と知り合ってどれほどかは存じませんが、彼女が短期間でそういった仲になるなんて、麻呂は信じられないのでおじゃ」


臨戦態勢、ってヤツだったような。


「──あなたの勘違いでは?」


……ブチッ!!


「ひょえっ」


聞こえた! なんか盛大に切れた音したよ!?

的確な煽りを気持ち的にも物理的にも上から寄越した先輩。対して左側からは恐ろしい圧と熱が感じられて、私はできる限り目を逸らした。

ぐるりと視線を彷徨わせた先で、隈をぶら下げた観音坂さんの目が合う。そういえば神宮寺さんと場所を代わったから一人だけ跪いたままだった。疲れるだろうに、一二三さんに押されたのが見えたので乗り気でないのは確かだ。今ここにいるのもきっと、空気を読み過ぎてしまったんだ。


「お疲れさまです……」
「お、お疲れさまです」


お互い困った顔をする。観音坂さんだけが同じ気持ちだと私、信じている。


「あの、つかぬことをお伺いしますが」
「はい」
「勘解由小路さんとのお見合いは、もともと優勝チームの誰かに限定したものだったんですよね。なら優先されるべきはうちのチームではないでしょうか」
「観音坂さん??」


信じていたかったな……。

「嘘つき」「汚職警官」の応酬が止む。
「ハァ!?」二郎さんも復活した。

三人の視線が観音坂さんに集中しているのがなんとなく肌で分かってしまった。私はいつの間に特殊能力を会得したのか。


「今の言葉は聞き捨てなりませんね、観音坂氏。それではまるで、名前を賞品扱いしているようではありませんか」
「は、テメッ、リーマン! 名前のこと物だと思ってやがるのか!?」
「ひっ、ちがっ、俺は一斉に群がるよりは一人ひとりで話した方が彼女も困らないと、」
「群がる? へえ? ご自分だけは違うという口ぶりですね。優勝はあなた一人の成果ではないのに、チームの栄誉を私利私欲のために使おうと。私にはそう聞こえたのですが」
「違う! 俺はただ……か、彼女が困ってるじゃないか!」


観音坂さんんん!?

今度は私にバッと音がしそうなほど勢いよく視線が集まる。確かに困っていますけれども。この状況はさっきよりヤバい奴ですありがとうございません。


「こんな奴らにとられるくらいなら……名前!」
「はひっ!?」


突然二郎さんが私の名前を叫ぶもので。返事が裏返ったのも気にせず二郎さんは前のめりに身を寄せる。すぐ近くにある顔がさっきの比じゃないほど赤く沸騰していて、薄い唇を憐れなほどに震わせながら、呻くように声を張り上げた。


「俺は、お前のこと、す、すっ!」


ここで!?

ギョッと固まった私。ついに自覚したのか!? とか、このタイミングで!? だとか。頭の中がぐっちゃぐちゃになりかけたその時、二郎さんの赤い顔が急に離れていった。


「ま、待て待て待て! ここでそういうことやるから困らせるって言ってるんだ。これだから考えなしのチルドレンは」


観音坂さんが二郎さんの近すぎる体を引き離したのだ。詰めていた息がふぅぅと吐き出される。それは観音坂さんの溜め息と被って有耶無耶になったけれど、緊張していたのは周りから丸分かりだったのだろう。


「あぁ!? 邪魔すんじゃねぇよ!」
「じゃ、邪魔じゃない、いや、邪魔と言えば邪魔だなこれは、まあ、端的に言うと忠告、になるのか?」
「ハァ?」
「だいたい未成年と付き合うとかリスキーな真似、彼女にさせられるかよ。それだったら俺の方がまだ経済力がある……あり、あります、よ」


語尾で急に自信を失くすのやめてください。チラチラ上目でこちらを伺うのもやめて。


「だから……俺なんて、どうですか?」


不思議。顔は整っているのに雰囲気が草臥れたテディベアっぽいのはなんなんだろう……愛着が湧く……。急にギャップを出してくる年上男性に思考が丘の向こうに飛んで行った。


「おやおや、金の話とは無粋ですね」


急に左耳から入ってきた声。あまりに艶っぽい声で、ふわふわしていた私の意識が再び現実に引っ張られる。思わず隣を見るとかなり近い位置に唇があって大袈裟に肩が跳ねた。


「ま、その点で言えば私の方が理想的ですよ。何せ公務員です。退職まで安定した収入がありますし、私は出世頭ですからね。現状よりも豊かな生活をお約束しますよ」
「貴公の場合はそれが目的では?」
「……何か?」


グッと。肩に置かれた手に力が入る。


「名前の家はあの勘解由小路ですから。結婚したらコネが作り放題、出世の道も選び放題〜とか考えてらっしゃるのでは? 姻族目当ての結婚とは前時代的にも程がありますねぇ。おお怖い怖い」
「ははは、流石は作家先生。妄想力が逞しくていっそ清々しいですね。──名前さん」


両手で包み込むように手を握られ、眼鏡越しの瞳がゆっくり細まった。


「私は本気です」


それはどっちの意味だろう。出世のために結婚できますよ、か。それとも、本気で私のこと……?


「数年のアドバンテージがありながら全く意識されていなかった先輩さんより、よっぽどね」


名指しの煽りを言っているのに視線は私からぜんぜん外れない。余裕たっぷりな微笑みから凄みに近い真剣さが伺えてしまって。面と向かって受け止めた私は、ただただ銃兎さんの空気に呑まれてしまった。


「はぁ、仕方ない」


背後から伸びてきた両手が私の耳を塞ぐように顔を固定する。そのままグッと上を向かされた先で、淡い緑色の目が私を見ていた。


「名前。この前の返事、今ここでしてしまいなさい。……僕のこと、お嫌いですか?」


睫毛が揺れる。瞳は濡れていない。たぶん、無表情。けれど、顔に触れている指が少しだけ震えていて、ああ、緊張しているなと感じ取ってしまった。こうなってしまうともう強く出れない。


「先輩、あの、えっと」
「“はい”か“いいえ”で答えられるサービス問題ですよ。ささ、早く。時間は有限ですからね」
「えぇ! そんな、ここでなんて、」
「ほら、ほぅら」
「ひぅっ」


耳、耳さわさわって! さわさわって!

手慰みにくすぐられて口から変な声が出た。そこですかさずイタズラっぽく笑う先輩。すると対抗するように銃兎さんが握っている私の手を指でくすぐってくる。右からも前からも近距離から無視しきれない熱い視線を感じる。下手に見れない動けない。新手の拷問椅子みたいな。異様な事態がずっとずっと続いている。

ここ公共の場なのに、誰も止めないんですか。

そういえば第一回バトルの出場メンバーの方が全員いたよねって気付いた時。タイミングが良いのか悪いのか、ハッキリと外野の声が聞こえてきた。


「二郎のヤツ、完全に出遅れちまってるな」
「クッ……! こうなったら僕が勘解由小路さんに一兄と家族になれる利点を最大限にプレゼンしてきます!」
「待て三郎。好きな子をオトすくらい男なら一人でやるべきだ」
「は、はいっ」
「一人で、やるべきなんだが……二郎、頑張れ!」

「チッ。銃兎のヤツ、なに手こずってやがる。一郎ンとこのクソガキに負けたら沈めっからな」
「ム? 彼女は確か銃兎のパートナーではなかったのか? 小官はてっきり既に付き合っているものだと……」
「これからなるんだから変わらねぇだろ」
「ああ、アレは所信表明だったのか。ならば良い心がけだ」

「おぉ〜珍しく幻太郎が押してる! 頑張れ幻太郎〜!」
「え? アイツら、まだ付き合ってなかったのか?」
「そうみたいだねぇ! と言うことで帝統、賭けは僕の勝ちっ!」
「は、ハァ!? 嘘だろ……つか乱数、さっきの口ぶりだとお前、最初から賭けの結果知ってただろ!」
「なぁんのことかなぁ? それより帝統! 幻太郎とお姉さんが付き合ってなかったんだから、今まで貸してたお金、全部返してね!」
「あわわわわわわわ……!」

「当たり前だけれど、見ているだけとは何とももどかしいね。どうにかならないかな、一二三くん」
「お気持ちは分かりますが、ここで僕が出ていくと残念ながら余計に拗れてしまうのです」
「そうか。難儀なものだね、恋愛とは」
「だからこそ心躍るものですよ、先生」
「なるほど、興味深い……」


な、なんか見世物になってない? 碧棺さんに至ってはディビジョンバトルのヤジだ。今やってるのは代理戦争じゃないんですよ?

身動きが取れないまま、むしょうにツッコミたい欲が出た。……だからだろうか。


「あらま、皆さんお揃いのようで」


ドンピシャでお笑いのプロが遅れてロビーに登場したのだ。


「お、名前ちゃんや! 久しぶりやなぁ、もうかりまっか!」
「ぁ、ぼ、ぼちぼちでんな!」
「たはー! このたどたどしい感じ、クセになるな! 可愛いわぁ!」


くねくねとわざとらしくシナを作る白膠木さんは、前に会ったのと変わらない態度で挨拶してくる。ガッチリ拘束されている知り合いの子がいたら、もっと驚くなり引くなりするものじゃ……それともドッキリ番組とかで慣れてるのだろうか。いやだ慣れないで。助けて。


「ハ……? 簓お前、若い子相手になに古典的な挨拶仕込んどんねん」
「せやかて盧笙! 名前ちゃん俺がお願いしたらなんでもやってくれんねんで? 可愛いやんか!」
「可愛い可愛いて、それしか言えんのかおどれは」
「可愛い子ォは川にいる! なっはっはー!」
「頭わいとる場合かッ!」
「まーまー、簓くんも久しぶりに会えてテンション上がってんじゃねぇの? おじさんは若い子の色恋、大好物だぜ」
「他人事だと思って……」


すごい。チームの皆さんで私のことをスルーしている。あの躑躅森さんまで……嘘でしょう……? 私のこと、そういうオブジェだと思ってない?


「にしても、一人でこんだけ男を転がすなんざタダモノじゃねぇな。将来が楽しみだぜ」
「ザンネン! 名前ちゃんは零みたいな悪ぅいニンゲンには逆立ちしたってなれません〜! な! 名前ちゃん!」
「へ!? え、ええ、まあ」


細長い脚が大股で近付いて来て、閉じた扇子で私の顎をついっと持ち上げた。


「名前ちゃんは将来、俺のかわい〜いお嫁さんになるんやもんね」
「は?」「え?」「ア?」「ほう?」


助けてお母さん助けて(三回目)。

とうとう顎まで拘束されてしまった。ほとんど磔のようなものでは。私は罪人か。

お母さん、私は何か悪いことしましたか。それともお見合いするたびにお友達に逃げた私が悪いんですか。あ、そう考えると私が悪い気がしてきた。

死んだ目で深く深く懺悔していると、またロビーに賑やかな声が聞こえてきた。この顔ぶれで揃ってないのは……あっ。


「おいおい既に8分ロスしてるぞ」
「ええー。そんなにキチキチ急かさないでくださいよ」
「テメェが長々クソしてたから遅れたんだろーが」
「お化粧直しッスよ空却さん! 誤解されるようなこと言わないでください! 自分のイメージが崩れるんで!」
「そうは言うが十四。お前が遅れたせいで面倒な状況にぶち当たったぞ」
「へ? ……お、お姉さん!?」


ナゴヤ・ディビジョンの皆さんだ。

恥ずかしいやら助けてほしいやらで意識をそちらに研ぎ澄ませていると、最後の十四くんの声で相手が磔の私に気付いたのを察した。

助けて……助けて……。


「おい、愛しのお姉さんがピンチだぞ。助けてやれよ」
「ふぇっ、で、でも、獄さぁん」
「他のヤツにとられてもいいんか」
「……ペルセポネー、おお麗しのペルセポネー。その美しさはまさに生きる魂の輝き。冥界の主ハデスの手には届かぬファムファタール。息衝く世界が異なるゆえに引き裂かれし運命の糸。おお、如何な艱難辛苦の隘路を乗り越えれば、ッうわっ!?」
「ブツブツうるせぇとっとと当たって砕けろ」
「淫行条例に引っ掛かったらちゃんと真剣交際だって弁護してやるよ。もちろん有料でな」


え、なになに。と事態を呑み込む前に強い衝撃がやって来た。「うわっ」「はぁ!?」とかなんとかいろんな悲鳴が聞こえて、今までの拘束が全部解けて、代わりに目の前に十四くんの顔があった。この感じ、多分空却さんに蹴り飛ばされるか何かして突っ込んで来たんだ。

助けられたけど、手放しで助かったとも言えない状況だ。

ソファの背もたれと十四くんにびったり挟まれた私。十四くんは「いててて」と顔を顰めてから、ほとんど壁ドンならぬソファドンしてるのに気が付いてハクリと口を戦慄かせた。……のも一瞬のこと。

最初はあわあわしていた赤い顔が、少しして、にへらと幼く笑ったのだ。


「久しぶりのお姉さん、可愛い、ちっちゃい」
「ちっ、ちゃ!? 十四くんと比べたら、女の人はみんなちっちゃいと思うよ」
「えへへ、でも、一番可愛いのはお姉さんッスよ」


キラキラのピカピカな、恋する男の子の純粋な笑みだった。


「お姉さん、大好き」


それをほぼゼロ距離で受け止めてしまった私は……いやいやむりむり受け止めきれない。

未成年とのあられもない()抱擁に、冷静な部分で「あ、人に見られたら社会的に死ぬ」と思ったし、コンマ秒後に「あ、ここホテルのロビー」という現実を思い出し、そっと目を閉じた。


「? あれ、お姉さん、眠いんスか? お姉さ……し、死んでる!?」


うん、気絶しとこ。




企画へのご参加ありがとうございます! プニカのifで全ルートお友達スタートしてからお相手同士のマウントの取り合いでした。「18人全員に喋らせるぞ!」と意気込んだ結果、主人公がひたすら悲鳴を上げる話に…なんだこれ…。結局いつも通り私が楽しいだけでしたが、読んでる方にも楽しんでいただけてたら幸いです。素敵なリクエストありがとうございました!

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