二郎とキスしないと出れない部屋(偽)



「お前、俺のこと好きじゃないのかよ」


まずいまずいまずいまずいまずい。

場所は二郎くんの部屋。そろそろお暇しようと立ち上がったその時、ドアの前に二郎くんが立ち塞がってそんなことを言い出した。

今日はなんかソワソワしてるなぁと思ったらコレだ。たまに思い出したように挙動不審になって「なんでもないっ!」と大声を出していた。その理由がこの通せんぼだなんて。こんなに大きな体をして通せんぼ、かわいいな……いやいやそういうことじゃなく。


「二郎くん、あの、二郎くんはみ、」
「未成年とか、分かるけど! ちょっとくらいいいじゃねーか! 今どき小坊だってやってるだろ!」
「いやぁ、小学生同士ならともかく、」
「それに、それに、」


ツンと唇を尖らせてそっぽを向く顔がいじけた子供みたいで。困ったなぁと我ながら満更でもない気分になったのは一瞬だった。


「たった一回、口と口くっつけるのが、ふじゅんいせーこーゆーなのかよ……」


ピンチだ。キュンとしている場合ではない。

山田一郎さんに負けるとはいえ、私だって成人した社会人。社会通念に照らし合わせた常識を持ち合わせた大人なんだ。せめて法律くらい守れる人間でありたい。ありたい、のに……。


「石榴は俺とフジュンな気持ちで付き合ってるのか?」


不機嫌そうなのに、ほんのり潤んだ目がかわいそうで……口と口をくっつけるくらい、一瞬で済むし、何も疚しいことはない、し。二郎くんの不安を取り除けるなら、ちょっとだけなら、誰も見てないここなら、


「じ、二郎、くん。屈んで、ください」


分かりやすく喜ぶかと思えた二郎くんは、一瞬ポカンとしてから、顔中を真っ赤にしてしゃがみ込んだ。それから慌ててちょっと腰を浮かして、屈むというか、中腰というか。その慌てっぷりが面白くて、小さく吹き出した私を恨めしそうな目が見上げてきた。


「はやく、すっぞ」
「う、うん」


中腰の二郎くんに合わせるように私の方も少し屈んで、邪魔な横髪を抑えながら顔を近づける。ものすごくいけないことをするドキドキと、初めて二郎くんとキスするというドキドキと。ごちゃ混ぜになった心臓がおかしいくらいに跳ね続ける。それは二郎くんも同じようで、ぎゅぅぅっと両眼を瞑った顔がやっぱり可愛い。

ちょっと緊張が抜けたのをこれ幸いにと、今度こそ覚悟を決めて唇を寄せた。


「二郎ー! そろそろ暗くなるから勘解由小路さんを送ってけ!」
「っ、ッうん! 分かったよ兄ちゃんッ!」
「エッ」


あとちょっと、の距離で急に二郎くんが遠ざかる。ドタドタ階段を駆け下りていく音を聞きながら、やっと現実が追いついてきた。

お兄さんに呼ばれて出て行っちゃったんだ。


「は、はは……」


安心半分、残念半分な微妙な気持ちで態勢を立て直す。

二郎くん、変なところで……、


「おい二郎! 勘解由小路さん置いてきてどうすんだよ!」
「お姉さんを置いてくるなんて、本当に低能だな」
「ぉぉ、おう、うん、だな」
「は?」
「二郎?」
「俺は、本当にダメな男だ……ッ!」
「二郎!?」


ヘタレちゃうんだなぁ……。




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