She is promoted.



運動部ってやつは本気になればなるほど時間が早く過ぎていく。

筋トレしてローラー回して季節が一つ越えて春。二年になってしまった私が変わったことと言えば、足がバキバキになってきたことだろうか。もともと筋肉がつきにくい体質なせいか見た目そんな太くは見えないけど、力を入れた時の膨らみ方が半端ない。女子の足じゃない。おかげで今まで入ってたスキニーがふくらはぎで突っかかる。太ももやウエストがスカスカなのにそこが突っかかるなんて誰が想像できようか。服屋で試着するのが既に恐怖になってきている。

複雑な気分で黒タイツを履いて学校に行けば、久しぶりに感じる好機の視線。ああ、今日から新しく一年が入ってくるのかと納得してちょっとだけ憂鬱になった。だって今の三年二年は私がこんな変な頭してることには慣れっこなのだ。あんまりジロジロ見られなくなって快適だったのに、あと何ヶ月同じような経験をすることになるんだろ。というか来年もまた注目されるじゃん。


「おーす巻島ァ! 今日も変わらず目立ってるなァ!」
「人が気にしてることズカズカ言ってきやがって」


早急に我が母と話し合う必要があるなと唸っていると、背後からバシンと痛い一撃が。無論例の熊男である。デリカシーを養え。そんな思いを込めて脇腹をグーでグリグリしてやってもガハガハ笑うだけで効きやしない。


「そーいや今年も同じクラスだぞオレたち」
「あーあー、もう一年熊男とうっせえ食事しなきゃなんねえのか」
「お前が上品に食い過ぎなんだよ! もっとうまそうに食え!」
「悪いねえ、無駄に育ちがイイもんで」
「言ったなコラ!」


こうやってバカ騒ぎしてられんのも今のうちだろうな。なんとなく達観した考えになってしまうのがちょっと寂しかった。あと一年ちょいでこれもできなくなるんだ。気が早すぎることを思いながら教室まで並んで歩いた。まあ、田所っちがいればしばらく新しい友達作らなくてもいいよな。軽く欠伸をしたら女子の顔じゃねえと笑われた。田所っちマジ死刑。


そして放課後、いつものように部室の前まで来て、扉に手をかける。けどなかなか開けられない。というのも今日からの私はいつもとは違うからだ。

いつも学校の指定ジャージに適当なTシャツ着て雑用してた。けど今日はちゃんとしたサイクルジャージ。一応前開けても大丈夫なように見せてもいいスポブラにもわざわざつけかえて女子トイレで着替えてきた。つか胸潰さないとぴっちりしたジャージはちょっと恥ずかしいし。

つまり何が言いたいのかっていうと、今日から本格的に部活に参加するってことだ。今まで筋トレ中心で部員と走ったことはない。けれどそろそろ体ができてきた頃だろう。そんな実感が湧いてきたから、あとはそれを本物にするだけ。男子の中で練習に着いてこれたら、その次はヒルクライム、その次はついにインハイの舞台。そんな簡単な話じゃないことは重々承知している。でもやってみなけりゃ分からないだろう。そうひと呼吸置いて、ゆっくり扉を引いた。


「ちは、二年巻島です」

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