She is hardworking.



「一年の巻島裕です。途中からの入部になりましたが、よろしくお願いします」


予想通りというかなんというか、私の入部はあまり歓迎されてないようだった。というかマネージャーと勘違いしていたみたいで上げて落とされたという反応が大半。悪かったなプレイヤーで。いやこんな可愛げのない顔のマネが入ったところで嬉しいのかって話だけど。内心毒づきつつ、既に居心地の悪さが半端ない。

選手層の薄い学校だからこそ一年は雑用だけじゃなくちゃんとした練習も同じくらい時間を割いているらしいけど、私はずっと雑用だけをやらされた。まあ、扱いに考えあぐねていることくらい主将の顔を見ればすぐに分かる。文句も特にない。そりゃ、女子が男子と混ざれるほどここのレベルは低くないしな。記憶より随分若い見た目の寒咲さんが苦笑いで頭をかいている様子を見たら逆に謝りたくなった。すんません。


スポドリを作りつつ、できたボトルからカゴに並べていると、後ろから誰かが歩いてくる音が聞こえた。絶対自転車競技部の部員だ。クリートってこういう時分かりやすくて助かるわ。


「巻島さん、だったか?」


田所っちほどじゃないけど、それなりにでっかい体が逆光で大きな影を作る。見上げた先にあったのは角刈り。スポーツ用のサングラスをかけてる顔はちょっと幼い感じだけど、これはこれで高校生に見えない威圧感がある。老け顔っていうか雰囲気が既に落ち着いてるよね。


「あーっと、金城くん、だよな? どうかしたのか?」
「何か手伝うことはないか? 今日のメニューが早く終わってしまって手持ち無沙汰なんだ」


はいウソー!

とは声に出さない。だが遠慮なく思う。さすがイケメン金城は高一の時点で女子を気遣うということを知っている。こりゃモテないほうがおかしい。


「もうすぐ終わっから金城くんは気にしなくていいよ」
「だが、巻島さんもプレイヤーだろう? 練習に参加できないのは辛いじゃないか」
「あー、そういうことか……今日は突然だったから練習は無理だと思うし、つか部活ではしばらく自転車乗る気ない……あっ」
「なに……?」


考え事しながら喋るのってよくないね。それを学んだ瞬間だった。そこまで言う気はなかったんだけどな、と頬を人差し指でポリポリ。あんまり自分の計画とか知られたくないってか、女子だけどインハイ出る気だと教えるにはまだ早すぎるかなって思ってたのに、大事なことをぽろっと言ってしまった。これは説明しなきゃいけないか。そうだよね、なんか遊びで入ってきたみたいな言い方になっちゃったし。そう思って地味に怪訝そうな威圧感バリバリの高一男子をもう一度見上げた。


「自転車に乗る気がないとは、どういう……」
「おーい巻島ァ! 水! ボトルくれ!」


た、田所っちーーーー!!!

タイミング悪っ! 最悪っ! 熊男自重っ! 思いっきりそういう顔で熊野郎を睨んだら変顔かって笑い飛ばしてきやがった! はい死刑ー!!

そんなこんなで金城とは話す機会があんまりなくなってしまった。というかこっちが一方的に話し辛くなったんだけど。向こうは毎回雑用ばかりやってる私に手伝おうかと話しかけてくるけど、こっちはやんわりと断ってる。だってこれは私なりのトレーニングなんだからノルマを盗られちゃかなわない。

部活初日に主将と監督に時間をとってもらって話したことは今後の私の目標。インハイで男子と競り合っても負けない体づくりをしたいということ。あまり言いたくないことだったけど、この二人には言っとかないと本当のマネージャーになってしまう。なにより彼らなら女子が男子に混ざってプレーすることを笑わないだろうという安心感があったから。

案の定、二人は馬鹿にしないで相談に乗ってくれた。クライマー不足が不安だったってのもあるだろうけど、親身にアドバイスをしてくれるあたり本当に良い人たちだ。そうして決まったことは、部活ではしばらくは筋トレと三本ローラーしかやらないということ。持久力をつけるために特訓すること。この二点。つまり本当に私は三本ローラー以外で部活中に自転車に乗ることはないのだ。

部員たちが外周に行っている間に空いた三本ローラーを借りてひたすら漕ぐ。漕ぐ。漕ぐ。しばらくすると汗が滝のように溢れて太腿やふくらはぎが痙攣するような感覚を覚え始める。足が私に休めと訴えかけてくるのだ。けれどやめない。やめてあげない。ここでやめたら私は一生前に進むことなんてできないんだから。

このメニューがいつまで続くのかは分からない。けれど確か巻島裕介は一年の内は部活は先輩に言われたフォームで、自主練では自己流のスパイダークライムでひたすら自転車に乗っていた。私の場合はスパイダークライムは既に完成していたから、足りない筋力と持久力をつけるしか彼に近づく方法はない。彼の抜けた穴を埋めるにはそれくらいしか考えられない。

漕いで、漕いで、漕いで。外周に行った一陣が戻ってくるあたりにボトルの準備をし始める。だから部員のほとんどは私が三本ローラーに乗ってることは知らない。雑用をやってるだけで汗だくになってるように見える私に体力がないなと揶揄ってくるくらいだ。ちょっとムッとするけど体力ないのは本当だから適当に相槌を打つ。あと田所っち背中叩くな痛い。熊男の遠慮がまったくなくなってきたのはどういうことか。金城を見習えと目を向けて、たまたまバッチリ合ったから一瞬で逸らした。ごめん、なんかごめん。



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