社会人東堂とデート



「名前ちゃんが、無地の服を着てるだと……!?」


すっげえ顔でこっちをガン見する東堂を前にして、進行方向を変えたのはとにかく恥ずかしかったからだ。


「やっぱ変だよな……こんな格好の女が隣にいてお前も恥ずいだろうし、今日のデートは中止ってことで。じゃあな」
「待て待て誰も変だとは言ってないだろう!!?」


ヒシッと腕を掴まれて自然と舌打ちが飛び出る。デート中止とは言わずとも、とりあえず着替えに帰るくらいはしたいのに。

もともと今日は午前終わりの仕事で、その後は久しぶりに東堂とデートする予定だった。それがたまたま知り合いのデザイナーの悪ふざけでお互いのブランドの服を交換するということになって、私が着替え終わった時には私の服とともにそいつが消えてたんだ。「来週返すね、はーと」じゃねーよ。メールだけで済ますなコラ。イライラとした気持ちのまま、とりあえず遅刻はいただけないからその格好のまま待ち合わせ場所に来てしまった。


「落ち着かないんだよ、こんなん着るの冠婚葬祭くらいだし」


上着を羽織っているとはいえ、肩から腕が剥き出しのノーショルダーワンピ。しかも腰や尻のラインがはっきりしている型だし、無地のネイビーときた。シルバー系のネックレスやブレスレットはどシンプルすぎて付けてる感じがしない。辛うじて上着に銀糸のストライプが入っているとはいえ、グレーの生地じゃ目を凝らさなけりゃほとんど無地だ。私が、全身無地。無理無理無理。腕と足が出てる以前にガラモノが見当たらない事実が恐ろしくて鳥肌が立つ。


「オレはこういうシンプルなの好きだぞ! 名前ちゃんのタマムシ色も際立って綺麗だし!」
「そういうの公衆の面前で言っちまうのどうかと思う」
「褒めたのに貶された!!?」


そりゃないぜ名前ちゃん! って大げさなリアクションをしてるくせに掴んでる手は離さない。相変わらずの頑固さだ。数分の攻防戦の末、半ば引きずられるように近くのカフェに連れて行かれて、メニューを見る段階になって諦めのため息を吐いた。やっと腹をくくったことが伝わったのか、東堂がすっごく嬉しそうな顔をする。そういえば久しぶりのデートだった。次いつ会えるかも分かんないなら、そりゃあ必死にもなるよな。お冷で喉を潤すと頭が冷静になってくるものだ。


「こういうデートって、久しぶりすぎて何していいか分からないな……」


というかしたことないんじゃないかな、たぶん。

いつも休日に適当な山に行って登って帰ってくるってのが私たちのデートだった。いわゆる山デート。坂デートとも言う。あとは携帯で電話したりメールしたり……って、これってデートに入るのか? 世間一般の恋人がするデートと違いすぎるような? 私は趣味も兼ねて楽しめるから好きなんだけど。

無言で首を傾げていると、席に座っても腕を掴みっぱなしだった手がするりと私の手を握りこむ。くすぐったいような痺れるような感覚にびっくりして思わず東堂を見る。するとそこには、さっきのくるくる変わる表情が嘘のように、穏やかな顔の東堂が私を見つめていて。


「名前ちゃんが一緒にいるだけでオレにとってはデートだぞ」


だから帰るなんて言うなよ、なんて。

噛み締めるように口にするから。不覚にも「あ、かっこいい」って思ってしまった。高校の時と比べて大人の落ち着きを身に付けた東堂は、確かに、誰から見てもかっこいい男になった。たまにおちゃらけることはあっても、あの頃のような自意識過剰さは滅多に見られることはなく、



「お? もしかして名前ちゃん、今まさにこの東堂尽八のことを“かっこいい”と思ったかね? 思っただろう山神にはすべてお見通しなのだよ! 何せ天が与えしこの美形だからな! さあ存分に見るがいい! 恋人にならこの東堂尽八、いくらでも見惚れてもらって構わないからな! ワハハハハハ!」


…………やっぱ、変わってないなあ。

残念なような、ホッとしたような。複雑な気持ちで、とりあえず東堂が飲めないブラックコーヒーを注文してやった。そろそろ高笑いやめろっつの。


はじめまして、企画へのご参加ありがとうございます! お祝いと感想もご丁寧にありがとうございます。巻島成り代わりが気に入っていただけてとても嬉しいです。社会人になってからのデートということで、真っ先に書きたいと思った巻ちゃんファッションショーとかっこいい大人東堂さんを詰め込んでみました。それでですね、東堂さんはいつまで経っても東堂さんのままでいてほしいという結論が出てしまいましてですね。かっこいいままで突っ走れなかった残念なイケメンでお送りしました。想像しやすいもので、というお言葉に盛大に甘えた結果がコレですよ! 二人のやりとりを想像するだけで楽しい時間でした! 素敵なリクエストありがとうございました!

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