総北if/手嶋と話す



「マジで弟の応援だとは思わなかった」


あの熱いインターハイが終わり、総北高校が悲願の優勝をもぎ取って帰ってきた。その夏休み明けは自転車部にとっては騒がしい始まりで、実際に出ていない手嶋にとっても同じことだった。クラスメイトにもみくちゃにされて、普段喋ったことのない女子にまで祝いの言葉をかけられる。ありがとうと返した口はちゃんと笑えていたか。悔しさは顔に出ていなかったか。整理がつかない心のまま、いつの間にか放課後に突入する。ふと、目に付いた彼女の姿に引き寄せられるように、手嶋は苦笑交じりに話しかけたのだ。


「冗談だと思ってたの?」
「てっきり今泉が好きなんだと」
「手嶋くんもみんなと同じこと言うんだ」


突然の話題にも驚いた様子もなく話を続ける。御堂筋名前の微笑みが、夏休み前と同じものだと信じられない。彼女がインハイの時に浮かべた笑みと比べると、華やかな今の表情でさえ陰って見えた。


「でも、今泉くんのこと、好きだよ」
「え……」
「だって、翔くんとちゃんと向き合ってくれるんだもの」


途端に完璧な微笑みが崩れ、恍惚と頬を染める普通の女の子の顔になる。手嶋が勘違いした、恋に熱を上げているような顔。それを引き出したのが彼女の弟だと思うと手嶋は頭が痛くなった。

翔くん、と。御堂筋翔の名前を口にした時の彼女はまるで別人のように子供っぽくなる。それがどうしようもなく、可愛い。悔しいがめちゃくちゃ可愛い。家族とはいえ、別の男を想って表情を変える女の子に見惚れるなんて。いや、肉親である方がよほど質が悪いかもしれない。急に早くなった心音と熱い頬にどうにも居た堪れない気持ちにさせる。


「御堂筋さんは、本当に御堂筋が大切なんだな」
「うん、大好き!」


ああ、これが自分だけに向けられた言葉だったら。

そんなもしもは、所詮もしもの話でしかない。浅く息を吐いて、今度こそ、彼女に言いたかったことを宣言した。


「来年のインハイが終わったら、聞いて欲しいことがあるんだ」


これは誓いであり、戒めだ。

これから一年。主将として新体制を作っていく上で、恋という感情は邪魔なものだ。部活と恋愛の両立は、少なくとも手嶋にできるような余裕はない。だからこそ、ここに。御堂筋名前に来年までこの言葉を持っていて欲しい。すべて終わった時に告げる感情を、いつだって彼女なら思い出させてくれるだろう。そういう考えから出た言葉だった。


「それは、今じゃダメなことなの?」
「ああ、ダメだ」
「そっか……」


不思議そうにこちらを見上げる目は、黒く輝いている。十中八九、彼女にとって嬉しい話ではないのに、それも知らずに微笑んで頷く。これが、いつか弟に向けるものとちょっとでも同じものに変わればいい。そう願っていた手嶋は、少しだけ、いつものそれとは違ったぎこちなさに勘付くことはなかった。


「……うん、楽しみにしてるね」


手嶋の真剣な顔に、少しだけ絆された名前の照れを。


企画へのご参加ありがとうございます! 総北ifの続きか京伏との絡みということで、私の趣味で手嶋さん落ちフラグを立ててみました。恋愛に悩む手嶋さんはとても書きがいがあって大好きです。お姉ちゃんは御堂筋くんの益になる人が好き(親愛)で自転車に誠実な人が好き(恋愛)です。なので弱ペダキャラ全員に運が良ければ惚れる可能性があったりします。実はものすごくちょろい()お姉ちゃんでした。素敵なリクエストありがとうございました!

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