みんなで試験勉強



「何やってんの」


いつも通り女子トイレで着替えてから部室に向かうと、何故か後輩たちが教科書開いてにらめっこしていた。


「あ、巻島さん! お疲れ様です!」
「ちわーっす巻島さん!」
「どうも」
「お疲れ様です」


小野田鳴子今泉杉元に続いて手嶋青八木古賀の挨拶にも同じように答えながら近寄る。よくよく見ると古典に数学、化学に英語と理系文系入り乱れた教科書で、一年二年で見たことのある本がそれぞれ開いた状態で机に並んでいた。


「もうすぐ中間だからコイツラの勉強見てたんです」
「あー、なるほど……」


明後日から部活停止期間だし、当たり前っちゃ当たり前か。何事もなく荷物を置きにロッカーに近付いたあたりで、一瞬、去年の悪夢が頭を過ぎった。


「さすがに赤点とるような馬鹿はいないよなあ」


ガタガタガタッゴンッ!!

……ずいぶん古典的なリアクションだなあ。振り返ると鳴子と小野田が妙な体勢で時間停止。今泉は何故かもんどりを打っていた。鳴子に蹴倒された椅子が脛に当たったらしい。普通にかわいそう。


「もしかして、田所っち並みの馬鹿がいんの?」
「あ、あはは、まさか」


思わず手嶋を見ると微妙そうな顔で首を振られた。さすがにあのレベルはいないか。


「鳴子は英語と日本史、小野田は数学です」
「あと今泉は理系が怪しいらしいです」
「杉元は?」
「僕は大丈夫です」
「よし」


全科目じゃないなら楽勝じゃん。とか思うのは田所っちのせいで感覚が麻痺ってる証拠だ。杉元の肩を叩いてから後輩たちの顔をぐるりと見渡す。まあ、このくらいの人数なら許容範囲内かな。


「明後日ウチ来れるヤツいる?」
「ウチって……」
「金城と田所っちの勉強見るんだよ、あたしン家で」



ていうのが昨日のことで。
今私の家には小野田今泉鳴子の一年生トリオと金城と田所っちが集まっている。杉元と二年全員が不参加だったのはそれぞれ勉強会をするほど馬鹿ではないからだ。私が怖がられているからとかそういうことはない。ないったらない。


「おいおい発音からダメなの? ヤバくない?」
「せやかて巻島さん! なんでaやのにeと同じ扱いなん!? 意味わからん!」
「そういうもんだって諦めると早いんだけどなあ」
「ワイは諦めるなんて後ろ向きなことできまっせーん!」


赤い髪を苛立ったようにガシガシかき回す鳴子。とりあえず私の得意科目の英語から教えてるけれど、結構初っ端から躓いた。コイツ意外と理系気質かもしれない。私が感覚でやりすぎってのもあるんだろうけど。


「ガハハハ! いい心がけじゃねえか赤マメツブ!」


バカ笑いしている熊野郎が日本史以外の全科目赤点スレスレだった悪夢の超本人なわけだが。


「笑ってる場合か。お前ェは言われたとこサッサと覚えろ。あたしと金城がせっかくヤマ教えてやったんだからな」
「本当は一から理解したほうがいいんだが……今泉、そこの公式はこっちのほうが楽だぞ」
「な、なるほど……?」


向こうの理系苦手組もなんだかんだで少し雲行きが怪しい。今泉は金城につきっきりで教えてもらってるのに対して小野田は同じ問題を一人で堂々巡りしているようだ。ちょっと洒落にならないかもなあ。もやもやとした不安が湧いてきたところで、鳴子の悪い癖が始まってしまった。


「なーにが“なるほど”やねん。絶対分かってへんやろ」
「人のこと言ってる場合か、8点」
「なんやて9点のスカシくん」


8点とか9点ってなんの点数なんですかねえ。

不安が現実になりそうな予感をヒシヒシと感じた。小野田がオロオロと二人の間で手を振っている間に金城の鶴の一言で二人が大人しくなる。


「二人ともそんなに元気なら平均点以上は取れるな」


それは、六十点アップを目指せと。


企画へのご参加ありがとうございます! 学生生活の日常ということで、例を挙げていただいた定期試験前を書いてみました。総北レギュラーの得意不得意科目を私の偏見ででっち上げてしまいましたが、たぶんこんなに馬鹿ではないと思います(特に田所さん)。巻ちゃんも言うほど頭良くないけれど田所さんよりは断ぜん良いし、金城に至っては完璧超人だと決めつけてかかってます。とても楽しく書けました。素敵なリクエストありがとうございました!

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