ラルゴ・ラウダ



「帆ちゃーん。国語わかんなーい」
「葦木場くん、国語じゃなくて現代文だよ」
「じゃあ現代文わかんない」
「どこどこ」
「ここここ」


昼休み。各々が弁当を取り出したり購買や食堂へと足を運んだりする中、現代文の教科書を持った葦木場は帆の机の脇にしゃがみこんで彼女の顔を下から仰ぎ見た。しゃがみこんでもなお座っている帆と目線がほぼ同じな上、机と机の間の狭い空間に2m近い巨体が挟まっている光景は圧巻だった。が、それよりも。


「葦木場くんと御堂筋さんって仲良かったんだ」


これがクラス全体の意見である。高身長で無言だと威圧感が凄まじい葦木場と男女ともに人気の高い帆の珍しすぎる組み合わせは目立つどころの騒ぎではない。

しかも、


「ここ、おばあちゃんが話しかけてるのに孫がご飯食べ続けた時の心情。意味わかんないよ」
「あ、ここ? ここは葦木場くんもやってみればわかると思うけどなあ」
「やってみるの? ご飯口に詰めろってこと?」
「そうそう、ご飯詰めちゃったらどうなる?」
「んー……食べる!」
「そだね、食べるね。じゃあ食べるのに使っちゃったらお口は喋れないね」
「うん」
「喋れないって分かってるのにご飯食べちゃったのはどうしてかな?」
「喋りたくなかったってこと?」
「そうそう、そういうこと」


すごいすごいと手を叩いて褒める帆にえへへと頭をかいて満更でもない葦木場。明らかにマイナスイオンが出ている。ここが楽園か。誰かが呟いたそれもまた、その場にいた全員の総意であった。


「葦木場くん、お昼はどうするの?」
「購買行って、テキトーになんか買うつもり。帆ちゃんは?」
「私も今日購買なんだあ。良かったら一緒に食べない?」
「いいよー」


うふふあはは。花でも舞っているんじゃないか。クラスメイトの何人かが目をこすった。舞っていた。


「おいおいなんだこれ」


ちょうど用事があってそのクラスに来ていた黒田も同じく目を疑っていた。葦木場、といえばあまり接点はないが対して目立った成績のない背高ノッポ。そんな印象しかない。それがどういうことか、あの学年を代表する有名人と交流を深めている。それもめちゃくちゃ仲良さそうだ。ていうか御堂筋さんってあんなユルい人だったのか? 大人っぽいとか言ってたヤツもいたよな。


「なあ、あの二人って仲良かったのか?」
「オレらも初めて知った」


用事があった自転車競技部の友人に尋ねるとそんな返事しか返ってこない。なんだか狐に抓まれた気分だと頭をかきながら用事を済ませ、教室に戻った黒田は、同じクラスの泉田を見つけてついさっき見た光景を伝えてみた。本人としては親切のつもりでの言葉だったが帰ってきた反応といえば、


「へえ、そうなんだ」


それだけかよッ!

有益な情報を与えた気であった黒田は無性に目の前の幼馴染を殴りたくなった。八つ当たりだった。

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