黄昏ふたり



太陽が遠くに顔を隠し始め、眩い光が部屋の中を黄色く照らす。

幸せの色。暖かな幸福の光。帆と翔は二人、寄り添うように並んで床に座り込んでいた。狭いワンルームのアパート。大学一年目の姉が借りた部屋に長期休みを利用してやってきた翔。三年間の長い戦いが終わり、大学受験を控えたここ数ヶ月の彼は、どこか気の抜けたような印象を受けた。

身長差の大きな二人。翔の頭が帆の頭の上に乗せられ、よりいっそう体と体が密着する。弟とはいえ、大きく固い男の子の体の感触を受けて僅かに騒ぎ始める心臓を心地よく思った。

こんなことはもう慣れっこで、今はこの揺れ動きを許容できるほどに、帆は翔と触れ合ってきた。

愛。帆はこの言葉の薄っぺらさが嫌いだった。どんな素晴らしい小説も、映画も、この一文字を使った途端にチープな群像劇に成り果てる。彼女にとっての愛とは語らずの愛だ。言葉にせずとも、文字に起こさなくても、雄弁に全身の端々から滲み出る感情。それをあえて言葉に表す必要などない。語れる愛なんて愛への冒涜だと、そう思っている。

だから彼女は愛を語らない。愛をどんなに愛しく思おうと、これから一生その言葉を口に出そうとはしない。その身を持って、たった一人の愛しい弟を愛し続けるのだろう。


「帆ちゃん」
「うん?」
「膝」
「いいよ」


丸い頭が柔らかい女性の太腿の上に降りて来る。丸い、けれどちゃんと男性の顔をした頭。そう、翔はもう子供じゃない。母の死に傷ついて姉が大嫌いだった小さな子供は、母の言葉を真に受けて姉を愛する一人の男に成長した。二人で生きていくのだと、今際の際に遺した母の言葉を真剣に受け、今までもこれからも姉と一緒に生きていくことを信じて疑わない。彼はもうすぐ18になるというのに、昔と変わらず純粋なままの部分をたくさん残していた。


「翔くん」
「……」
「おやすみ、翔くん」


大きな黒目が隠れた瞼に、そっと唇を寄せる。震えることもなく吸い付いてきた肌の質感に、ほんの少しだけ頬を赤らめた帆。するといつの間にやら伸びてきた長い舌が、閉じ切ったままの薄い唇をゆっくりと舐める。やっぱり起きていた。母そっくりの顔を綻ばせて、悪戯をやり返す子供のように今度は翔の舌に拙く口づけた。

ああ、本当に、


「黄色いなあ」
「黄色い、ね」


太陽がとっぷりと沈み、冬の冷たい夜が訪れた暗い室内。二人の目の奥でだけ幸せな光が輝いて、すぐに消えた。


(死人に梔子/もしも主人公と御堂筋翔が愛し合っていたら)(メリーバッドエンド)
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