エイプリルフール

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どうぶつになる のろいを うけた!
《私》と狐さん。


都内のマンションに狐がいるってどういうことだろう。
私の寝室に紛れ込んでいた黒い狐。ムジナさんや蛇さんが威嚇しているけれど、攻撃をしないってことは敵意はない。左サイドに変な癖がついていて少しだけ夏油さんに似ている気がする。見たところ呪霊では無さそうだし、とりあえずスマホを取った。

「保健所で引き取ってくれるかな」
「キュンキュィ!?」

スマホを持ってる手にしがみつかれてしまった。

「え、えきのこっくす……」
「キュウキュウ!!」
「会話できるの?」
「キュ!!」

本当に呪霊じゃないのかな。あまりに必死なので、とりあえずお風呂に入れて様子を見ることにした。動物病院もなんだか嫌そうだし、寄生虫の有無を見るためにも洗ってしまった方が良さそう。滅多に着ないタンクトップとホットパンツの部屋着に着替えてお風呂場へ。ムジナさんのシャンプーをちょっとだけお借りして、狐さんを綺麗した。

「かゆいところはございませんか?」
「キュキュン」

頭が良い。私が手を動かすのに合わせて良いところに体を擦り付けてくる。シャンプーをゆっくりシャワーで流してあげて、いざタオルドライの段階で身構えられ、……あ。
ブルブルブルブルブル!
……ムジナさんがやらないから油断した。全身に水滴を受けて固まった私に、狐さんはなんだか申し訳なさそうな空気。
ベッタリ張り付いたタンクトップが気持ち悪くて、諦めてお湯張りボタンを押した。

「君にはもう一回濡れてもらおうかな」
「キュッッッ!?」

ある程度お湯が溜まったところで服を全部脱いで、軽く体を洗ってから狐さんを抱え上げる。狐さんは何故か一寸も動かなくて、生きているのか不安になった。大人しすぎる。もしかして人に飼われていたのかな。都内にいるくらいだから野生よりは可能性が高そう。

「君はどこの子かな」

浴槽に浸かって、溺れないようにしっかり抱えて背中を撫でる。素肌に濡れた毛が張り付いてくすぐったい。ムジナさんをマッサージする要領で耳や顔まわりをゆっくり揉み揉み。強張っていた体が徐々にとろけて、いつの間にか私の胸に寄りかかる格好になる。人馴れしているなりに、知らない人間といるのは緊張したのだろう。時たまうりうりと指でくすぐってやりながら、ふと思う。
いつからか、私もこの家に溶け込んでいた。お風呂にのんびり入れるくらい寛げる空間になった。ゲ油さんの家、という認識がするりと解けて、夏油さんと私とミミちゃんナナちゃんの家、と思うようになっていた。今は双子ちゃんたちは寮に入っているから、夏油さんと私の家で。

「夏油さん、早く帰って来ないかな……」

夏油さんがいないと家の中が空っぽみたいに感じてしまった。

「寂しい、なあ」

──ボフッ! バシャッ!

「そういうのは面と向かって言ってくれないか」
「……」

人一人だと伸び伸び入れる浴槽も、成人済みの男女二人は流石に狭い。しかも相手はいつもの黒い着物姿で、足を外に投げ出す形で私の膝の上に横に座っている。いや、座ってるというよりは縁に掴まって浮いてるというか、──夏油さんだ。
お湯を吸った着物を怠そうに持ち上げて、長い髪をうしろに払う。一人と一匹がいたお風呂場の、さっきまで狐さんがいたところに夏油さんが。
もしかして、もしかすると。

「狐さん、夏油さんの顔知ってたの?」

私が寂しいって言ったから、狐さんが頑張って化けてくれたんじゃないかって。

「無理に化ける必要はないの。気を遣わなくていいんだよ」

呪いも神様もいる世界だ。きっと本物の化け狐だっている、はず。

「いや、私の意志では……なんだって?」
「夏油さんの代わりはいないもの」

ポタポタと水気が残った髪を、さっきと同じように撫でて。ご丁寧にピアスまでついた耳も揉み揉み。相手が夏油さんの見た目だからちょっと恥ずかしいけれど。落ち着かせるように抱きついて、背中をポンポン叩いた。

「夏油さんが一人しかいないように、君も世界に一匹しかいないの。君が代わりになる必要はないんだよ」

しばらくそうしていると、シャンプーの匂いに混じって嗅ぎ慣れたお線香の香りが。……お線香?
くっついていた体を離して顔を上げる。それこそ狐に摘まれたような顔の夏油さんが私を見下ろしていて。
流石に匂いまで化けられないよね、と。

「──夏油さん、何してるんですか?」

人間が動物になるなんて、どんな呪いだろう。しかも夏油さんがかけられるなんてよっぽど強い。
それって大丈夫なのかな。硝子さんに診てもらった方が……あと普通に服が乾くまでに風邪引きそう。

「夏油さん、話は後にしてまず着替えを、」
「何故だ……」

か細い声が浴室に反響する。なにかな、と耳を傾けたことを次の瞬間に後悔した。

「何故、私に面と向かって言わず狐如きに言うんだッ!」
「!?」
「君は本心をあまり口にしないタイプだろ! なのに動物には素直にお話できるのか!? 人間も動物だ! 私だって猿の一種だから! この際猿でいいからッ!」
「今度は錯乱の呪いですか?」
「動物への慈愛の1ミリでも私に向けてくれッ!」
「動物と夏油さんは別物……」
「当然だろ」
「えっ」

急にスンッと真顔になった……やっぱり疲れてるんじゃ……。
泣き言と共に抱き締められ、「ずるいずるい」と囁かれ続けた謎空間は、私がくしゃみをすることでお開きになった。

ちなみに本当になんらかの精神汚染があったらしく、治療後しばらく目を合わせてくれなかったのは寂しかった。


(狐夏油さんは精神汚染があったと主張していますが普通に混乱しただけです。あの人はシラフで嫁とお風呂入りました)


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