※御堂筋姉弟の年越し
帆と御堂筋の年越しはいつも二人きりで始まって終わる。久屋家のリビングで一緒にご馳走を食べ、寝る挨拶をして二人で離れに戻るのだ。二人ともテレビには疎い方であったし、紅白やバラエティにはまったく興味がなかったので、離れからは二人の話し声だけが聞こえてくる。
「もういくつ寝るとお正月〜」
「あと五分でお正月やろ」
「こういうのはとりあえず歌っとくもんだよ」
「一昨日から歌っとるヤツが言うことか」
コタツに並んで寝そべって片方は雑誌を、もう片方は携帯を持って駄弁っている。世間は年越しで騒がしいというのに、二人の時間は平時と変わらずゆったりとしたものだ。
「来年はとうとう翔くんも高校生だねえ」
「学校が変わるだけや。なんもトクベツなことやない」
「でも高校生はインハイがあるじゃない? 私、絶対応援に行くからね」
「……せやから、なんも変わらへんやろ」
カチン。歯と歯がぶつかる甲高い音が、その時は何故だか照れ隠しのようだと思えた。
「そうだね……私たちはいつまでも、“そう”だよね」
帆の携帯がブルブルと震える。友人からのあけおめメールの存在が、変わらない二人に新年の訪れを告げた。
※巻島裕の年明け
ロードに乗るようになってから今まで。毎年初日の出は近所の山に登って見る。そう決めたのはなんでだったか、私にも思い出せない。
ペダルを漕ぐ。風が何倍も強く吹く。肌を刺すような寒さだって私がスピードを出してるせいだって思えば全然苦にならない。どんどん漕いで漕いで。暗い峰々山の道路をライト一つで登っていく。ひとりぼっちの寂しさだって、日の出の感動に比べたら些細なことだ。
ただ無心に、汗をかきながら登って。辿り着いたいつもの駐車場で足を止める。初日の出とあっていくつか車が停まっているものの、人気はまばらで絶好の隠れスポットだ。あとどれくらいで日の出だろうと緑色の携帯を開くと、いつも以上に着信とメールが溜まっていてビビった。正月からこれかよ。慣れというのは怖いもので、これくらいで引くことも少なくなった。
「もしもし、どうしたの?」
『ま、巻ちゃん! やっと出たな!』
「いや、ちょっと手放せなくてさ。んで用件は?」
『いや、巻ちゃんは毎年初日の出を見に峰々山に登ると聞いたのでな』
「おー、たった今着いたところ」
『ああ、俺もだ!』
「は?」
いやいやまさか、ね? と、思った瞬間に背後から私を呼ぶ声が聞こえた。
「明けましておめでとう、巻ちゃん!!!」
いつものカチューシャが見えないけれど、フワフワの帽子の中に前髪を隠した東堂がリドレーを引いて歩いてくる。神奈川から千葉まで漕いできたのかとか、実家に帰ってるんじゃないのとか。聞きたいことが全部引っ込んでしまうくらいキラキラとした顔で近付いてくるから。
今年はコイツから一年が始まるのか、と。呆れ半分楽しさ半分でとりあえず手を振った。
「今年もよろしく、東堂」