追記

・シンジュク


「信じらんない! 誰よアイツ!」
「おちっ、落ち着いてください」
「はあ!? 落ち着けって、元はと言えば独歩さんが浮気したからでしょ!!」
「浮気してない、してないです! あれは会社の同僚で」
「同僚と一緒に歌舞伎町歩きますかー?! 歩きませんよねー!? あそこどんな街だか独歩さんが一番分かってるよねー!!?」
「どんな街って……君はどんな街だと思ってるの?」
「そりゃもちろん、いかっ、いかがわ……いかがわしい街で一二三さん仕事してるんですか?」
「はいカット」
「えっ?」

「まだいいって言ってないのになんで素に戻るの」
「ご、ごめんなさい……」
「というかなんで一二三の名前が出てきた。おかしいだろ、今は些細なことで嫉妬して俺を困らせる彼女になりきっているのに」
「そ、そもそもなりきっている時点で演技だから独歩さん嬉しくないのでは?」
「うっ。だ、だって、ずるいだろ」
「ずるい?」

「俺ばっかり君のことがす、好きで、嫉妬ばっかりしてるのに、君はいつも平気な顔してるじゃないか。ずるい。俺だってヤキモチ妬かれたい」
「ヤキモチ」
「ああ、めんどくさいよな、分かってるさ、三十路の中年が七つも下の女の子にこんなこと言うなんて情けない。見苦しいし、気持ち悪いよな。分かってる。君が苦労してるのも、冴えない男と並ぶ屈辱を我慢しているのも、こんなことに貴重な休日を使い潰しているのも、全部俺のせい、俺のせいなんだろ、理解してる、分かってるのに、俺は俺は俺は俺は俺は俺は」

「そこまで言うなら別れましょうか?」
「ッッッッイヤだ!!!」
「私もイヤですよ、別れるの絶対イヤ。独歩さん、前なら自分がイヤでも別れてたでしょ。“私が別れたいなら”って。でも今は私の気持ちを無視してでも別れたくないんでしょ? 自分の気持ち、大事にしましょ?」
「う、うん……うん……」
「私、独歩さんのこと大好きです」
「うん……俺も好き、です」
「ずっと一緒にいたい」
「俺も」

「ヨシヨシ」
「お、オッサンをガキ扱いするなよ」
「彼氏扱いしてるんですー」
「ならいい、のか?」
「今ならお膝もサービスしますよー」
「お願いします」
「イイコイイコ」
「うん………………」

「寝ちゃった……独歩さんどうしたんだろう。新しいストレス発散方法かな?」

(年下に甘える趣味に目覚めた社畜)



・イケブクロ


「二郎くん、二郎くん」
「ん」
「あの、これ、どういう」
「文句あんのかよ」
「文句というか、近いというか」
「付き合ってるならいいだろ」
「付き合ってても説明はほしい、かな」
「あ"?」
「ひぇっ」

「じ、二郎くん、身長大きいから、壁に追い詰められるとちょっと怖いといいますか」
「そ、そうかよ」
「今日はどういったご用件で」
「よーけんっつーか、その……目ぇつぶれ」
「はい?」
「あ、あ"あ"!?」
「それが怖いんだって!」
「チッ」

「いいから目つぶれよ、すぐ終わっから」
「は、はいぃ」

「…………ネックレス?」
「俺、金ねーからいつもアンタにデート代出させてるだろ。いつまでも貰いっぱとかダセーことできっか」
「え、あ、ありがとう……?」
「……安物で不満かよ。悪かったな。嫌なら捨てていいから」
「いいいやいやいや! 嫌じゃなくって、ビックリして、えっと」
「?」
「……キスされるのかと、期待してしまって」
「キッ!? ばばばかヤロー!!!」
「だって二郎くん、する時いつも目ぇつぶれって言うし……」
「バッ、は、恥ずいじゃんか!!」
「私も今とても恥ずかしい……」

「………………」
「………………」

「目ぇつぶれよ」
「はい……」

(目閉じないとキスできない高校生)



・ハマ


「美味い、だと……!?」
「ひ、人並みだと自負しておりますけど」
「あ、ああ、いや、なんでもありません。とても美味しいです。特にこの照り焼きチキンが甘辛くて……な、何のお肉でしょうか」
「チキンは日本語で鶏肉ですよ?」
「あ、いや、それは知っているのですが、ええ、鶏肉ですか。ははっ、良かったです……本当に」

「銃兎さん?」
「いえ、なんでも。このお味噌汁も美味しいですね。出汁はどこで買ったんですか? お恥ずかしながらうちに買い置きしてなくて」
「あ、それ週末に私が作ったんです」
「はい? 出汁を?」
「はい、一週間分の出汁を毎週末作り置きしておくんです。煮干しと鰹節と、あとは気分で椎茸だったり昆布だったりですかね。今回は確か昆布です」
「それは、本格的ですね……」
「慣れれば簡単ですよ。これを入れるだけでお料理の風味が良くなりますし、面倒な時は出汁と味噌とお湯を混ぜて具なしの味噌汁にしても体が温まります。良ければ少し置いていきましょうか?」
「いいんですか?」
「冷蔵庫のお邪魔でなければ」
「ではありがたく頂戴します。これを飲むと他の味噌汁が飲めなくなりそうですね」
「銃兎さんは口がお上手ですね」
「本心ですよ」

「お上手ついでに、その口調疲れません?」
「……まあ、慣れというものですかね」
「私の耳が疲れました」
「はあ……あんま汚ねぇ言葉は聞かせたくないんだが」
「ずっとお見合いしているみたいで寂しいです」
「なるほど、恋人同士の話がしたいと」
「えっ」

「あの、そんなかき込まなくても、もっとごゆっくり」
「恋人からのお誘いだからな。待たせるのは可哀想だ」
「そ、そういうのは良くないと思います。まだ明るいですし」
「そういうのとは?」
「えっ……………………ぇ、っち、なの」
「…………」
「ほほ本気でフードファイターにならないで!」

「銃兎さん! 味わって食べないならもう二度と作りませんからね!」

(虫を食える恋人が予想外に料理上手で結婚願望が増した警察官)



・シブヤ


「米と虎?」
「あなた、忘れたんですか?」
「先輩? なんの話ですか?」
「昔、話したでしょう? 人並みに生きようと道化を演じて結局人以下に堕落した青年の話です」
「……あ、ああ! 人間失格! 喜劇的詞(コメディ)と悲劇的詞(トラジディ)ですか!」
「どんなタイトルセンスなんですか、あなた」
「だから私のセンスじゃないですって」
「どうだか」

「それでコメとトラがどうしたんですか?」
「面白そうだからやってみようかと」
「面白そうですか、あれ。注射は針が付いてるからトラとか判定するこじつけですよ」
「イメージの話ですからね。作家的には興味深いですよ」
「へ、へえ……(あの主人公と同じ感性ってヤバいのでは)」
「何故そこで引くんです」
「いいえ〜なんでも〜」

「ラップバトル」
「コメ」
「何故です」
「え、観戦していて楽しいから?」
「やってるこちらは命懸けなのに見ているあなたの笑い者になっている、と。そうでおじゃるか、麻呂は悲しい」
「じゃ、じゃあトラ」
「覚悟を決めて戦いの場に臨む拙者たちに対して悲劇とは何事だ」
「どっちですか!?」
「さてね」

「先輩、真面目にやる気あります?」
「トラ」
「え、何が?」
「先輩はトラです」

「いつまで小生のことを先輩と呼ぶのです。確かに小生は大学を卒業してもなお人生の先輩であり、あなたよりも出来た人間ですが、恋人に名前を呼ばれないのは悲しい。まさに悲劇的ですよ」
「な、なるほど」

「まあ、嘘です、」
「幻太郎さん」
「、けど」
「……ん? 嘘なんですか?」
「あ、いえ、まあ、」
「幻太郎さん?」
「……もう一度」
「幻太郎さん」
「もう一丁」
「幻太郎さん」
「もう一声」
「はい、幻太郎さん……なんでこれだけでいきなり照れるんですか先輩」
「はい?」
「幻太郎さん」
「はい」

「先ぱ……幻太郎さん、前から思ってましたけど、面倒くさいですよね」
「あなたに言われる筋合いはないです」
「そうですか……あ!」
「どうしました?」

「幻太郎さんはラブコメのコメ!」
「却下」
「え、ひどい」
「酷いのはどちらですか。……本気で喜んでいる恋人をコメディ扱いなんて、それこそ酷い」
「幻太郎さん……」

「私、誤解してました」
「……」
「幻太郎さん、恋人らしいことは一通りこなしたのに先輩呼びを訂正しないから、てっきりそういう趣味なのかと」
「…………へえ?」
「あっ」

「光栄ですねぇ、小生の趣味を慮って何も言わずに付き合っていただけるとは。恋人冥利に尽きるというものです。なら小生も恋人のために一肌脱ぎましょうか」
「け、結構でふ」
「遠慮しないでください。さあ、何て呼ばれたいですか? お前? 家内? 奥さん? 嫁さん?」
「いつの間にか結婚してる設定に……」
「ふっふっふっふっ」
「こわっ」

(先輩後輩の空気が抜けなくて悩んでた作家)



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