掃除の時間は換気のためにと窓が開け放たれている。今日は一段と冷たい風が教室へと進入し、暴れ回っていた。寒さで体が思うように動かず、手先や足先は凍った様に冷たくなった。もはや痛みに近い感覚。冷え性なのがいけないんだろうか。掃除をする者はマフラーをしたり手袋をしたりして、何とか寒さをしのいでいた。彼もまた、その一人。
「どもーん」 「ん?」 「さぼり?」 「おー。俺の分までしっかり働けよー」 「嫌だよ」
土門はマフラーで口元を隠し、首の後ろで丁寧に縛っていた。マフラーの隙間から漏れる息が微かに白くなって空気中に消え、むき出しになったままの鼻は若干赤く痛そうだ。どうせなら鼻まで覆ってしまえばいいのにと言ったら、きっと彼は息苦しいだろ、と言うのだろう。 椅子に腰掛けながら、窓のサッシに肘を置き、頬杖を付く姿は、同じ学年の男の子たちより少しだけ大人びて見えた。 何見てるの?そう聞こうとして彼の視線を辿ったその先の光景が、私の口から出るはずだった音声を消し去った。そして彼が目に映しているであろう人物の名前をを口にした。
「秋と一ノ瀬君だ」 「あいつら相変わらず仲良いな」 「好きだねー、秋のこと」 「んー…一ノ瀬も好きだぜ?仲間外れにしたら怒られちまう」
私が漏らした言葉は嫉妬と皮肉の塊だった。
「気づくかな」 「さぁな」
窓の外の二人を眺める土門の顔は優しかった。時間の流れは残酷だと思う。運命も残酷だと思う。私はその輪に入れはない。不純物なのだ。
「寒いよ、土門」 「んー」
それから少しだけ眺めて窓を閉めようとした。ちょうどその時タイミング良く土門に気づいた秋と一ノ瀬君が同じ様な笑顔を作ってこっちに手を振った。頬杖を付いていた手を二人に向けてひらひら振り返した土門の顔は緩んでだらしなかったが、やっぱり優しかった。
「さてと。部活に行きますか」 「行ってらっしゃい」 「おう」
言いながら鞄に荷物を詰め、さっさと部活に行く準備を整える。明日はちゃんと掃除してよね、そう言おうとしたけど、きっと虚しくなるからその言葉は飲み込んで腹の中に沈めておいた。たぶんこれが正解。
「じゃぁな山田」 「うん、また明日。部活頑張って」 「お前も気をつけて帰れよ」
片手をあげて言いながら帰っていく土門は、さっき二人に向けたときと同じ優しい顔だった。だからそれがずるいんだって、早く分かってよ。
不純物のラブストーリー
「…好きなのになぁ」 私のがずっと。
100206
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