半歩前を歩く彼が好きだ。鍛えられた肩と二の腕が視界を占領し、少し見上げるとなんとも人相の悪い顔が私の目に映る。笑いそうなのを堪えながらもこの位置の良さは私だけしか知らないはず。 「じゅーんー」 「あ?」 「眉間に皺寄ってる」 「見えてねぇだろお前」 意外と広い背中も好きだ。けれどそれを見てるだけでは物足りなくなって、いつもの歩幅を少し広げて横に並ぶ。彼はちらっとこっちに視線をやると、ぽんぽんっと二度頭を撫でた。 「純」 「何だよ今度は」 「眉間に皺無かったね」 「ったりめーだ」 いつの間にか私の歩く速度は以前よりも速くなっていた。こうなるまでに一体どれだけの時間彼の横を歩いてきたのだろうか、なんて時々考えてみる。答えのでない問題をしばらく考え、段々飽きてくるとやがてまた彼の背中を眺めたくなって少しだけ歩く速度を遅めるのだ。
「歩くの速かったか」 「ん?違うよ」 「じゃぁとっとと行くぞ」 「えー、せっかちーけちー」 「うっせーよ!」
歩き方が不良っぽい。口が悪い。でもそう言いながらもポケットに突っ込まれていた手はいつの間にか私の方に向けられていて、そのごつごつした手の中指と人差し指だけ握ってみたら暖かくて落ち着くのだ。
「…お前馬鹿か」
幸せに浸る私を余所に彼はそう言いって私の手からするりと2本の指を抜き、それから自分の指と私の指を交互にゆっくりと絡めた。その瞬間が愛しくて、もう何度も繰り返してきたはずなのにこのときだけは照れくさくて純の顔と繋がれていくふたつの手から視線を外した。後どれくらい歩くのか分からないけどこうして手を繋ぐ間に私の指先から純の指先へと少しずつ愛が伝われば良いと願いながら今日も彼の隣を歩く。
「純、行き先は?」 「考えてねぇ」 「嘘っ?!」 「マジ」
指先と掌で愛を語れ 101004
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