「…好き、です」

私と彼の間を通り抜けた風は秋の匂いがした。ついこの間までじめっとして鬱陶しかったはずなのに。そんな少しだけさわやかな風に私の髪の毛が揺れる。少し前髪が長めの彼の髪も揺れた。同時に彼はゆっくり瞬きをした。瞼の下に数秒隠れていた瞳はとても綺麗だった。

「ハナコ先輩」

わずかに動いた肩。私の名前を呼ぶ声がいつもと違って聞こえる。意識したその瞬間、耳が熱くなった気がして思わず両手で隠してしまいたい衝動に駆られた。「ん?」と、照れを隠すように少し笑ってそう返事をした。意地悪だと言われようと、もう一度聞きたい。

「好きです」

野球部だからだろうか、背筋が伸びた立ち姿も、ちょっとだけ力が入って上がった肩も、それからさっき以上に意識して聞いたその声も年下だと忘れるほど男らしく、だけどやっぱり可愛かった。弾ける音が聞こえる、落ちていくのが分かる。私の顔が赤く染まる。初めて降谷君と話した日からの些細な出来事ひとつひとつが脳へと一気に押し寄せる。これはもう、

「私も降谷君が好き、かも」



ようこそワンダーランド
100923


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テーマ「人外ファンタジー」
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