「泣かないで」
彼は呟いた。薄い桜色の唇が弧を描き、柔らかな笑みを作る。本当はそんな風に君を泣かせたかった訳じゃないんだと、しゃべりながら白くすらっとした指を動かしている。止まることのない自らの指先を見つめたままで、彼は私と視線を交えることはしなかった。
「僕、そんなに器用じゃないんだ」 「…嘘」 「嘘だと思う?」
穏やかに笑いながら、ただひたすらに手を動かしたままで、未だ視線は私と合わないまま。そんな吹雪君を見ていると、思わずその言葉を疑いたくなる。
「はい、できたよ」 「…綺麗」 「どうぞ」
動きっぱなしだった指がやっと止まった。その掌の中には、器用な指で編まれた花冠があって、吹雪君は満足そうに笑うと私の頭にそっと乗せる。ふわっと甘い香りが鼻を通り抜けた気がした。冠が乗った辺りがむず痒い気がして、反応に困った私は思わず視線を逸らした。
「似合うね、やっぱり」
優しい声が耳を掠める。そっと視線を彼の方に戻すと、想像してた通りの笑みで私を見ていた。顔赤いよ、そう言われて一気に体が火照った。
「ねぇ」 「ん?」
赤い顔のまま返事をすると、吹雪君はトレードマークのマフラーを握り、ちょっとだけ口元を隠しながら、
「…ごめんね」
と言った。その頬は少しだけ赤く染まっている。ひょっとして彼は私が思ってるほど器用な人じゃないのかもしれないと、はじめてそこで思ったんだ。
はなかんむり
20110319
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