※腐女子モブ



私の人生はあまりにも完璧すぎている。幼い頃から人よりも勉強ができた私は地元の名門私立小学校に入学し、エスカレーター式で中等部へ上がり、高校は地元では超有名進学校の公立校へ入学した。その学校でも優秀且つ優等だった私はそのまま国立の女子大へ進んだ。あまりにも出来すぎていてつまらない日々だ。そんな私はある時、たった一つ、人と違った趣味を持った。

高校二年の誰でも気が抜ける時期。私はそこそこ勉強していたけれど、つまらなくてやはりサボりがちになった。そんな時、クラスメートがあるものを見せてきた。
進学校にも"オタク"という輩はいるもので、勧められてアニメやマンガを見るようになった。主人公がカッコいいとか、ヒロインが可愛いとか、そう思うことはあった。でも、私は主人公とヒロインというカップルよりも、主人公とライバルという敵対設定に魅力を感じた。ただ、主人公とライバルは男同士だった。
それから何かを踏み外した私は"BL"にハマってしまった。ボーイズラブというやつだ。男の子同士の恋愛。ガタイが良い男の子と華奢な可愛らしい男の子という王道設定に最初は萌えを感じていた。しかし、徐々に私の好みは変わっていた。私は、男らしくて何をしてもカッコいいような子が受け、という形に収まった。正直、こんなにハマるなんて。大学生の一人暮らしだけど、山ほどに薄い本というやつ(一部は分厚いアンソロジーとか再録とか)がある。
マイナーにハマると自給自足するしかなくて、自分で絵を描いたりマンガを描いたりもした。絵やマンガを描いてSNSに投稿することもあり、有名な作家さんたちとも仲良くなれた。

ただ、私はBLがあくまでも実際にあるものではないと割り切っていた。当然、学校では"優等生"で、生徒の模範だ。薄い本を買うのも大抵はインターネットを利用する。
そんな私の常識を越えることがまさか起こるなんて考えられなかった。


三月も終わりそうな頃。学校は休み。これは良い日だと薄い本を大量に読み漁っていた。男前受けが沢山で読んでいると奇声を発しそうになり、一歩手前で堪えていた。
ピンポーン、とインターホンが鳴り、良いところを邪魔されイラッとした。まぁ流石に嫌そうに出るのも悪いし、と思いながら扉を開けた。

「こんにちは!突然ごめんなさい。俺、隣に引っ越して来た及川徹っていいます」

及川徹と名乗った彼は、にっこりと笑みを浮かべた。俳優にも負けないような顔とスタイル(いわゆるイケメンってやつ)だった。ミルクチョコレートの髪はセットされていて、目は少し大きめで二重がくっきりとしていた。身長は180を越えていて、スポーツで鍛えられたような筋肉がきれいについていた。まじまじと眺めながら、失礼極まりないが及川くんは攻めっぽいなぁと思った。

「ほら、岩ちゃんも挨拶しなよ」
「っ、分かってるわ、ボケ…ッ」
「痛ァ!人前で殴んないで!」

岩ちゃんと呼ばれた子は及川くんの後ろから恥ずかしそうに姿を現した。

「…いわ、…岩泉一です。及川とルームシェアする予定です。何かと及川が煩かったらすみません」
「何で俺の悪口をさらっと言ってんの!」

岩ちゃんこと、岩泉一くんは、及川くんより背が低め(180あるか、ないかくらい)で、でもしっかりと鍛えられた筋肉がTシャツから覗いていた。吊り上がった目はキツすぎないアーモンド型で眉毛は太め。一見男らしくしっかりしているようで、それでいて言葉はツンツンしているが優しさが込められている。ツンデレ男前受けとは素晴らしいではないか!なんて言えるわけがないんだけど、私の頭はそっちにしか働かなかった。

「来たばっかで、お姉さんに迷惑を掛けちゃうかもしれませんが、よろしくお願いします」
「…お願いします」

及川くんにつられて頭を下げる岩泉くんが可愛らしくてついつい目で追ってしまった。この二人が今日からお隣なんだと思うとわくわくしてならなかった。二人には申し訳ないけど、暫くは妄想させて貰うつもりだった。もちろん及川くん×岩泉くんで。



あれから及川くんと岩泉くんを見かけることはよくあった。大学は別々らしいけど、近場らしく朝から一緒だし、帰りも基本的に一緒。二人にとってはそれが当たり前みたいで、聞いてみたら幼馴染みだと言った。幼馴染みだから距離が近いんだなぁと最初は思っていたけれど、ある時二人の本当の関係を私は知ってしまった。

その日はバイトで帰りが遅くなって、帰宅したのが23時過ぎだった。化粧を落として早く寝なければ、とバタバタとしていると、隣の部屋から何やら物音がした。それは及川くんと岩泉くんの部屋からだった。このマンションは少々家賃が高いけれど、防犯対策や防音設備も整っていた。だから、物音が聞こえるなんてあり得ないし、すごく心配になった。
こんな時間にチャイムを鳴らせる訳もなく、ベランダから顔を覗かせることにした。そーっとベランダまで来ると、二人の部屋のガラス戸が少し空いていた。

「、おい、かわ…っ」
「ふふ、岩ちゃん、キス気持ちよかった?」
「っ、」

私は思わず目を見開いた。驚かずにはいられない。だって、私の妄想がそのまま現実化していたのだから。何度も目を擦ったし、赤くなってしまうくらいに頬をつねった。
二人の方を見直すと、及川くん岩泉くんのTシャツに手を掛けていた。二人は二人の世界に夢中なのか、窓が開いていることもカーテンが掛かっていないことも忘れていた。

「言わなきゃ分かんないよ、岩ちゃん」
「…っ、てめ…ん、ひっ」

及川くんの手が岩泉くんの肌に触れた。及川くんの手が冷たかったのか、岩泉くんはびくりと肩が跳ねた。

「おい、か…それ、や、だから…っ」

岩泉くんの声は普段よりも高く、それでいて艶やかだった。私の妄想を遥かに越えているギャップ萌えに思わず声が出そうになるが、ぐっと飲み込んだ。ここで私の存在がバレてしまったらいけない。今の私はゴキブリのような存在だと思う。

「んっ、あ、おい…や、めぇ…はぁん、」

岩泉くんの喘ぎ声に色気がありすぎて、どうにかなってしまいそうだ。及川くんは余裕なんだろうなぁと及川くんの方に目をやると、意外にも彼は余裕がないようだった。

「っ、岩ちゃんてば、ホンットエロいんだから…!」

及川くんが岩泉くんの上に覆い被さった。


私は猛ダッシュで自分の部屋に駆け込んでベッドへダイブし、布団を被り叫んだ。言葉というよりも奇声でしかなかった。
本一冊描けるわ!いや、もう何冊でも!
それからというもの、私の人生は薔薇色だ。朝、及川くんだけゴミ出しに来ているときは、そういうことがあったんだなぁと笑顔で挨拶して、岩泉くんがエプロンをして来るときは朝ごはんの当番なのかなぁと微笑ましくなる。大学卒業後も暫くはここにいたいと思う。




title by 獣




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