「岩ちゃんまだぁ?」
「先行けよお前…」
「やだ。岩ちゃんと一緒がいい。地の果てまでも!」
「私は勘弁だ」
「ひっどーい!こんなに愛してるのにぃ!」
「…彼女いるくせに何言ってんだよ」

私は日直で、当番日誌を書いていた。日直は男女二人組で行う。ちなみにもう一人の方は、力仕事はやるから、とごみ捨てに行っている。
及川は部活へ行くとき、いつも私を迎えにくる。マネージャーなんて待たなくていい、と言ったことがあるがそれでも待つつもりらしい。

別に私たちは付き合ってない。そもそも私は恋愛に興味がないし、だから誰かと付き合ったこともない。及川は及川で、彼女がコロコロと変わる。今まで一ヶ月ももったことはない。長くて…二週間くらいだろうか。

「岩ちゃんの字、綺麗だよねぇ。惚れ惚れしちゃう」
「あっそ」
「つれないな!」

及川は座っている私の後ろから腕を回してきた。抱き着くのヤメロ、邪魔だろうが。

「あ、岩ちゃんシャンプー変えたね!俺この匂い好き」
「じゃあ戻すわ」
「前のも好きだし!」

簡単に好き好き言ってんじゃねぇ、と殴ろうと振り向いた瞬間唇に何か柔らかいものが当たった。…え、これって、前にうちのクラスの女子が騒いでた事故チューってやつか…?

「…あらー岩ちゃんがキスしてくれるなんて!やだ、及川さん超嬉しい!」
「ち、ちが…」
「岩ちゃん顔真っ赤ー!かーわいい!」

及川は片手で私の顎を掴んでもう片方は私の頭の後ろに回して、「もっといいやつ教えてあげるね」と笑った。

「…っ、ん、おひ、か…っふ…」

及川の舌が口内に入ってきて暴れまわる。こんなことはもちろん初めてで、どうすればいいか分からない。上手く息ができない。でも、変な感じだ。及川のされるがままなのに、嫌ではないと思った。及川に触れられるのが嫌というよりむしろ、もっと触れて欲しい、触れたい、とさえ思った。

「…及川」
「岩ちゃん、何で嫌がらないの?」
「それ、は…」

自分でもよく分からない。嫌じゃないっていうのは本当だし、及川に触れて欲しいというのも本当だ。
ディープキスはおろか、軽い触れるだけの口付けだってこれが初めてだった。

「…わかんねえ。でも、嫌じゃないって思ったし、もっと及川に触れて欲しいって思った」
「岩ちゃんそれ……」

期待してもいいの、と及川が目を泳がせて言った。岩泉はよく分からず首を傾げるだけ。

「あー、えっと…じゃあ、質問を変えるね。今まで、俺に彼女が出来て、どんな風に感じた?」


及川に彼女が出来て…最初は素直に嬉しいと思った。及川のお母ちゃんか!とか花巻たちには言われそうだけど、本当に。一番の友達に恋人が出来るなんて喜ばしいことだ。その彼女と別れて落ち込む及川を見て胸が痛くなった覚えがある。
また二人目の彼女が出来て、それも特になにも感じなくて、三人目、四人目…と及川は彼女をとっかえひっかえしていた。

あれは…確か、高校一年の夏休み。部活も休みで及川の家を尋ねた日だ。別に及川の家に行くために事前に連絡を入れたことはなくて、その日も突然押し掛けた。おばさんはちょうど出掛けていた。
私は課題のノートを見せて貰おうと及川の部屋の扉を開けた。部屋には及川と彼女らしき女の子がいて、笑い合っていた。まさか他に人がいるなんて思っていなくて、咄嗟に何か言って及川の家を飛び出した。

「岩ちゃん?」
「…最近はちょっと嫌に感じてるかも」
「…岩ちゃん、こんなこと俺が言うべきじゃないけどさ。…俺のこと好きでしょ」

及川を好き……。恋愛なんて無縁のものだったし、どんな風に感じるのが好きとかは分からない。嫌いではないのは分かる。
でも、好きなんだと言われたら頷くことは簡単だ。私は及川が好き。そんな気がする。

「…好きかも」
「かもって何!」
「いや、今まで恋愛について考えたことないからわかんねえんだよ」
「岩ちゃんの初恋は俺ですか」
「ん」
「素直すぎるだろ!」

は、と言いかけて及川の腕に包まれた。抱き締められている…?及川の匂い、体温、優しい手。幸せな気持ちになるのは好きだからなんだろうか…いや、もう答えはそれ以外あり得ないだろう。

「及川のこと好きだわ」
「…超ストレートな告白ありがとう」
「おう」
「岩ちゃん、俺と付き合ってください」
「彼女いるだろお前」

及川は今、フリーらしい。及川曰く、「彼女がいる時はここまでベタベタしないから!」だそうだ。別にどうでもいいけど。

「岩ちゃんを世界一幸せにするからね」
「別に期待してないからいい」
「そこは期待して!」


title by 誰そ彼



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