「あけおめー!岩ちゃん今年もよろしくぅッ!」

語尾に星マークが付きそうな相変わらずのチャラチャラ加減とパチンという音が聞こえてきそうなウインクにもはや溜め息も出ない。怒りを通り越して呆れ、呆れを通り越したら何なのか。

「へーへー、よろしくな」

母親の「徹くん来たの!?早く上がりなさいよー?」という嬉しそうな声が奥から聞こえて及川にスリッパを出してやる。お邪魔します、と及川がリビングに入った。

「いらっしゃい、ゆっくりしてってね」
母親と及川が軽く挨拶をしたのを見て、俺は自分の部屋に向かう。及川が家に来たのは残っている課題を終わらせるため。
コツコツと毎日やるタイプの俺たちは別に苦労しないのだが、最終二日くらいは何もしたくないと及川が毎年ワガママを言うため一緒に残りを片付けていた。

「岩ちゃん、早く終わらせよ!んで、終わったらどっか遊びに行こ」
「今から今日の分にプラスで二日分やるのに遊びに行く時間なんかねぇわ!」
「気合いで何とかなるよ。因みに、俺、今年は英語優先したから英語は終わってるんだよね」
「はぁ!?聞いてねぇわ!俺いつも通りだべ!」
「代わりに数学めっちゃあるよ」

ブイ、と言いながらブイサインを作る及川に拳を一発。コツコツやった方が絶対良かったろ、というと溜め息を吐いていた。アホか。
まぁ及川は割りと理系は出来るはずだから大丈夫だろうと俺は一人で黙々と課題を始めた。


「岩ちゃぁん…」
「何…っておま、全然進んでねぇじゃねーか!どうした?」
「…数学分かんない」
「及川、数学得意だったろ?」
「そう、"だった"の…どうしよぉ…!」

溜め息を吐きつつも、数学の課題を引き取った。勿論その分英語は押し付けたけど。






結局夜までかかり、辺りは真っ暗。及川は家に泊まるつもりのようだ。
母親に尋ねると夕飯はまだのようで、先に風呂に入ることにした。

「岩ちゃん、背中流そうか?」
「狭ぇだろ、湯船浸かってろボケ。つか、何で一緒に入るんだよ…」
「俺と岩ちゃんの仲でしょ!いいじゃない!」

キモと言うと及川が膨れっ面で「ひどい」と返してきた。大方は予想通り。
自分でも驚くくらいに今までずっと一緒に過ごしてきたと思う。小学生の時に出会いバレーを始めた。限度があるし中学でやめようと思っていたバレーもいつの間にか強豪校にいてエースで、副主将にまでなった。きっと及川が隣に居たから出来たことだ。
及川が隣に居ることが当たり前だった。でも、これからは違う。

「岩ちゃん、泣いてんの?」

ああ、俺、泣いてんだ。及川に言われて初めて気付いた。
及川は天才じゃなくてもやはり才能はある。俺はその才能すらない凡人。僻んでいるわけじゃない。羨ましくもない。でも、隣に居るのに遠くに居るような。
おーい、と自分を呼ぶ声がする。
「石鹸、が、目、ン中、入っただけ、だ」

「…泣いてんじゃん」
腕を引っ張られ体勢を崩した俺の唇に何かが触れた気がした。柔らかくて、温かい。
涙が止まらなくてもう誤魔化しようがない。及川のデカイ手が俺の頭にぽん、と乗った。

「岩ちゃん、好きだよ」
「っ、知ってるわ、ボケぇ…」
「はは、迫力がないよー?」
「…るせー、クソ及、川ッ」
「心配しなくても俺はちゃんと岩ちゃんの横にいるから、ね?」

ガタイのいい男二人が風呂場で裸でなにやっているんだか。でも、その言葉がどんなに嬉しかったか、きっと俺以外の人間には分からない。言った本人、及川徹であっても。




2015.01.04 及岩の日おめでとう

title by レイラの初恋



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