肌寒くなってきたこの季節、雪はまだ降らない。代わりに降るのは色付いた葉たち。都会では季節の感覚なんてあまり感じられないけれど。
いつも何を考えているか分からないような顔をしているクロ。俺にはある程度分かる。俺はずっとクロを見てきたんだから。クロが女の子と笑って話をしている時も、俺のトスを気持ちよく打ってくれる時も、ずっと見てきた。
派手好きなクロが何で俺みたいな地味で暗い奴と一緒に居てくれるのか、分からなかった時があった。クロは「研磨と居ると楽しいんだよ」と笑ってくれた。あれは嘘偽りのないクロの純粋な笑顔だった。
「ねぇ、クロ」
息が白い。ああ、もうすぐ冬になるんだ。マフラーを着けたって部活帰りの真っ暗なこの時間帯は本当に寒い。
「誕生日、おめでと」
自然と笑えた気がした。
今日が終わるまであと三時間と少し。タイムリミットギリギリでサプライズでもしようかと思っていたけどポロリと言葉が溢れた。
「サンキュ、研磨」
ニッ、と笑ってクロは俺の頭を乱暴に撫でた。髪がぐしゃぐしゃになってしまった。
「…プレゼントなしでいいよね」
「えー、ちゃんと何かくれよー、楽しみにしてんだから。悪かったってー」
「じゃあギリギリに電話する」
「毎年それだな。…待ってる」
クロの手に触れるとぎゅっ、と握られた。
「研磨くん冷たー!」
「低体温だもん」
「俺が温めてやるわ」
ほら、と抱き締められる。
気が付けばどこかに行ってしまっていて、気が付けば傍で甘えてくる。気紛れで本当にクロは猫みたいだ。
「何笑ってんの」
「何でもないよ」
そんな猫が大好きで仕方ない。俺って本当にクロしか見てない。いつもクロの事ばっかり考えて女の子みたいだな。
ね、クロ。今年の誕生日プレゼント、決めたよ。一回だけしか言わないから。
─だいすき、クロ
title by 確かに恋だった
2014.11.17 Happy Birthday
黒尾生誕
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