『クロちゃんはもう進学先決まったのー?』

電話の向こう側の間抜けた声に「ああ」と短く返事をして雑誌のページを捲る。返事の仕方が気に食わないのか、クロちゃん冷たいっ、と拗ねた声が聞こえてくる。
「だって決まったし」
『もっと細かいとこ教えてよぉ…』
「聞かれなかったし〜」
『クロちゃんのバカっおバカっ!』

何なの及川クン、と嫌々聞くと「待ってました!」という声が飛んでくる。雑誌を捲りながら耳を傾けた。
『俺ね、クロちゃんの事、本当に好きなの』
「嘘なんて思った事ねーけど」
『ふふ、ありがとうクロちゃん。…そう、俺、進学先が東京なの』
「あ、そうなの。じゃあルームシェアするか?」

がしゃーん、と電話越しに酷い音が響いた。鼓膜が破けるかと思うくらい煩い音だった。

『あ、あのねぇクロちゃん…』
「何だよ」

俺が言おうと思ってた事を何で先に言っちゃうの、と嘆く声。そんな事知るか。

「じゃあさ、プロポーズは及川クンからしてよ」

少し間が空いてから『はい、分かりました!』と元気な返事が返ってきた。

こんな事を言うのもなんだが、俺もとことん及川徹という男が好きらしい。

やっぱ好きだわ及川クン。

また酷い音が電話越しに聞こえて通話を終了させた。


title by 秋桜



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