及川と岩泉♀

※吸血鬼及川
※色々注意




この世には大きく分けて、吸血鬼と人間の二つの生き物が存在する。
今から500年程前。人間は吸血鬼を嫌い、迫害していた。大人も子供も関係なく、吸血鬼の居場所はこの世のどこにもなかった。しかし吸血鬼の逆襲が始まり、人間は人口の1/10まで減り、食物連鎖の頂点に立つのはいつの間にか吸血鬼となっていた。





「岩ちゃん、おはよ!」
「……うるせぇ」
「いやいや朝からそんな言い方はないでしょう!」

及川徹。純血の吸血鬼。父母、祖父母…どこまで遡っても、一族の中には吸血鬼以外存在しない。吸血鬼は、人間の血か人工血液を少なくとも一ヶ月に一度、摂取しなければ死に至る。
ただし、法律上、吸血鬼が人間の血を吸うこと、すなわち、吸血行為は禁止されている。そのため、吸血鬼には定期的に人口血液が自給される。

「お腹空いたなぁ」

ちらり、と岩泉の顔を見る。口角が少し上がっていた。
及川は人口血液を嫌う。彼がある時、人間の血液を飲んでしまったのがきっかけだ。彼にとって人間の血液以上に美味しいと感じるものはなく、人口血液は比べ物にならないくらいらしい。

「岩ちゃん、お腹空いた」

岩ちゃん、岩ちゃん。次第に及川と岩泉の距離が短くなる。

「岩ちゃんさ、今生理でしょう。血くらいいくらでも出るよね」

ふふ、と及川は笑う。黒い、笑み。
人間の岩泉が学校や地域で疎外されることなく、過ごしていられるのは他でもない、及川なお陰だ。及川と岩泉は謂わば幼なじみという間柄で、同時に恋人という関係だった。しかし、普通の恋人とは違っていた。

「っ、」
「ちゃあんと把握してるよ、岩ちゃんの周期」

語尾にハートマークが付いているような物言いだったが、岩泉にとっては肩が震えるほど恐ろしいものだった。
及川は岩泉の生理を生きる糧としているのだ。岩泉は及川に逆らえるはずもなく、ただ頷くしかなかった。

「今日の昼休み、保健室ね」
「は、学校!?」
「今ここでも俺はいいけど?」
「…変態吸血鬼が」

一ヶ月ぶりなんだもん。
及川の甘い声が頭の中をぐるぐると回る。及川がいなければこの世界で生きていけない岩泉には我慢せざるに負えないものだ。
大丈夫、自分に言い聞かせ岩泉は分かったと返事をする。

及川は名家の子息だ。吸血鬼の間にも階級が存在し、及川家はその中でも上位層だった。当然学校でも地元でも逆らえる者はほとんどいない。そんな及川が人間の岩泉に好意を寄せていることが知れ渡り、眉を潜める者も多くいたが口答えはできるわけがなかった。
及川家と岩泉家はもともと良好な関係にあった。及川家自体、人間の家系だからと言って岩泉家を毛嫌いしたことは一度もなく、寧ろ家族ぐるみで仲良くしていた。
及川の両親は岩泉をたいそう気に入っており、及川が父親や母親に岩泉が好きだと告げたとき、笑って頷いたくらいだった。

一方、岩泉は岩泉で、及川に恋愛感情を抱いていた。いつからか、と問われれば頭を抱えてしまうくらい前から。自覚したのは中学生だけど、きっとそれまでも好きだったのだろう。
人間の自分が、吸血鬼である及川に、しかも高貴な身分の彼に恋愛感情を抱くなど無駄なことくらい理解していた。所詮、嫌われるだけの存在である人間の自分と昔と変わらず接してくれているのは可哀想だからとかそういう理由からだと思っていた。
しかし、中学校卒業式に、真実を知った。及川に呼び出され、いつもの調子で「何だよ、卒業するのがそんなに辛いのかよ」と笑い飛ばすといきなり腕を引かれ、そのままの勢いで自分の唇と及川のそれが触れた。そして及川の口から信じられない言葉を耳にしたのだ。岩ちゃんが好き、と。








「っ、う……」

保健室のベッドは病人が横になるためのもののはずなのになんという使い方をしているのかと岩泉は頭を抱えたくなる。シーツが汚れないようにと及川が厚手のバスタオル(及川持参)をベッドの上に広げた。すでにバスタオルは真っ赤に染まっている。

「岩ちゃんすっごく可愛いよ」

ベッドに横たわる岩泉をまじまじと見つめる及川の手には岩泉のショーツが握られている。もちろんそのショーツにはナプキンが張り付いていて、ナプキンは赤く染まっていた。

「あーあ、勿体ないなぁ」

及川は溜め息を吐きながら岩泉の脚を開かせ、口元に弧を描く。

「ひ、…あ」

股まで垂れた血液を、及川がペロリと一舐めする。猫が舌をスプーンのように使って水を飲む姿に似ているが可愛さの欠片もない。
及川は流れる血液を味わっていたが、本当に彼が好むのはどろりとした血液の塊だ。及川はまだかまだかと舌を動かす。
岩泉は脚がさらに持ち上げられ、及川の顔が股間に近づいてくることを悟る。口をきゅっと結び、声が出そうになるのを必死に耐えた。

「…うぅ」

どろり、とアレが垂れたことを岩泉は感じとる。あの独特の感覚は酷く苦手だ。気持ち悪かった。及川はそれを口に含み満足そうにごくり、と飲み込んだ。刹那、岩泉はぞくりとする。あの一瞬の及川の顔は嫌いだった。

生理を飲み干す瞬間の及川の顔はまさに腹を満たしたときの吸血鬼だ。その瞬間に岩泉は自分が及川とは違うということを実感する。二人の関係に線が入った気がして嫌だった。

「ごちそうさま」

及川は口の回りに付着した岩泉の血液を丁寧に舐め取り、声をかけた。岩泉が恐る恐る顔を上げると、背筋が凍るような笑みを浮かべていた。
早く生理が終わってほしい。生理が来て、及川に血液を飲ませたあと、いつも強く思う。生理なんてもう来なくていい。男に生まれたら良かった、と。






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